「目の前にある情報を鵜呑みにしてはいけない」と考えているサヘル・ローズさん(撮影:熊倉徳志)

東洋経済オンラインでは昨年夏から、女優のサヘル・ローズさんにイメージキャラクターをお願いしている。多くの雑誌やウェブメディアを熟読し、就寝前に母親とさまざまなニュースについて話し合うなど、メディアへの真摯な向き合い方に共感したためだ(昨年7月の対談記事サヘル・ローズ「知ったかぶりは大嫌いです」を参照)。
それから1年あまり。ウェブメディアではフェイクニュース(偽ニュース)の問題が大きく取りざたされるようになっている。そのことについてサヘルさんは、どのように考えているのだろうか。東洋経済オンラインのツイッターやフェイスブックで使用する新しいカバー写真の撮影を終えた後、再び話を聞いた。

目の前にあるニュースは「正しい情報」なのか

山田:1年ほど前にインタビューさせていただいたときに、「日々流れてくるニュースを自分の頭で判断することの重要性」を強く訴えていたことが印象に残っています。昨年の夏は、まだインターネット上に蔓延する「フェイクニュース」の問題が大きくなる前でした。その後、米国でドナルド・トランプ大統領が誕生したり、中東の混乱が深まったりと、いろいろなニュースがありました。サヘルさんは、そうしたニュースをどのようにご覧になりましたか。


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サヘル:目の前にあるニュースは正しい情報なのか、それとも間違っているのか、を強く意識するようになりました。自分が求めていなくても、ネット上にいろんな情報がどんどん流れてきて目に入ってきます。友達からも、面白い記事があると送られてきたりしますよね。

でも、その中にフェイクニュースが混ざっています。思わずクリックしてしまえば、フェイクニュースを流している人の利益になってしまうから、それは絶対に避けたい。そういうふうに一つひとつを吟味するように心掛けているので、最近は一歩引いて見られるようになったように思います。目の前にある情報を鵜呑みにしてはいけない、ということです。

山田:確かに、この1年、フェイクニュース問題でネットメディア界は揺れました。大統領候補だったトランプ氏をローマ法王が支持している、というフェイク記事がものすごく拡散したりもしました。昨年の米大統領選挙はSNSで拡散されるニュースが大きなインパクト与えた選挙でした。

サヘル:今はネットで自分自身でも簡単につぶやける。その際、自分の言葉にどれだけの責任を持って発信していくかが大事だと思うんです。私自身、少しずつでも影響力が増していくことに対する喜びと同時に、あらためて怖さを感じるようになりました。自分の発言がほかの人に何かしら影響を与えてしまうわけですから、絶対に間違ったことを伝えてはいけないと肝に銘じています。

山田:自分にとって都合のよい内容の記事であれば、たとえ怪しい内容であっても信じたくなってしまう。心地よい内容のものが流れてきたときに、感情の高ぶりとともに喜んでシェアしてしまうケースが多いのだと思います。

サヘル:自分が知りたい、欲しかった言葉があると、それをそのまま受け入れてしまう。それが人間だと思います。でも、間違った情報を鵜呑みにしてそれを拡散させてしまうと真実があやふやになってしまうし、最初の情報がどんどん加工されてしまって、加工食品のように、元のものが想像できないものになってしまう。それが本当に怖いと思います。

山田:トランプ大統領は就任式に集まった観衆が史上最大と発表した。実際には2009年のバラク・オバマ大統領の就任式より少なかったにもかかわらず、「オルタナティブファクト(もう一つの真実)」だと主張した。

間違った内容なのに、それを間違ってはいないと主張し出すと、もうわかり合うことはできない。一つの事象を見るときに、客観的事実よりも主観的な印象が優先されるということです。そして分断してしまい、お互いに不寛容になる。こうした事例が本当に増えていますよね。

「報じられていない重要なこと」がある


写真スタジオで対談する2人(撮影:熊倉徳志)

サヘル:この1年、いろんなことがありすぎたように思います。日本の中でもいろんなことがあったし、世界も目まぐるしく動いたと思います。

でも、私が気になるのは「ニュースとして報じられていないけれども本当は重要」という出来事です。スキャンダルなどのセンセーショナルなニュースに隠れてしまっているものの、報じられていない重要なことがたくさんある。重要な事実がたくさんあるんだけれども、日本での報道を見ていると完全にスルーしていることが多い。

山田:たとえば、どのような事実がスルーされていますか。

サヘル:いま日本で報じられている海外ニュースといえば、ほとんどが「北朝鮮の核開発とミサイル」です。世界には多くの紛争があるのに、身近なものだけが報じられる傾向があります。これはある程度、仕方がないのですが、ちょっと偏りすぎているようにも思います。

山田:確かに、東洋経済オンラインでも、国際ニュースは偏っているかもしれません。この1年で強化を進めてきましたが、それでも努力不足を痛感しています。

サヘル:報じ方にも問題を感じるようになりました。「続報がない尻切れトンボの報道」が本当に多いんです。たとえばテロなどが起きた際、最初のインパクトのある見出しがずっと繰り返し報じられ、続報につながっていかない。テレビを見ていていつもそう思います。どこかでは続報をやっているだろうと思ってほかの局のニュースを見ても、同じ内容ばかりのことが多い。

翌日になったら続報を出すのかといえばそうではない。まったく違う新しいネタが出てきたら、すぐに話題をシフトチェンジしてしまう。「じゃあその後にどうなったの? 前のはどうなったの?」っていう疑問への答えが報じられないまま、消化不良のまま次から次へと進んでいってしまう。

これっておかしくないですか。情報として「こういうことが起きたんだ」っていうことは知るけれども、なぜ起きたのか、どのように発生したのか、という根っこの部分を知らないまま次の情報がやってくるから、そういうところへの関心がなくなってしまうわけです。いちばん大事なことは、「何があったのか」ではなく、「その後どうなったのか」だと思うんです。

山田:具体的なものがありますか。

サヘル:7月にはイラク第2の都市であるモスルがISの支配から解放されました。「解放された」という事実については報道されましたが、その後、どういう問題が起きているかが続きませんでした。あそこはシーア派、スンニ派とクルド側が分裂していて、それぞれが自分たちの人権、居場所を求めて対立しています。選挙が行われますが、解放後の今こそ、まさに問題は続いているんです。でも解放された、というインパクトのある情報が出たことによって、いったんこの問題は終わったと考えている人が多いように思います。解放後は、イラクの国内問題がほとんど報道されなくなってしまったが、きちんと伝えるべきではないでしょうか。

「ほかの人任せ」から卒業したい

山田:メディアにも事情があります。「重要なニュースであることはわかっている。でも、ほとんどの読者が関心を持たないのではないか」と考えてしまうのです。どうしても、多くの人が関心を持ちそうな部分、刺激的な部分を切り取っていく。悪く言えば、易(やす)きに流れているわけです。しかし、それは大問題。「読まれなくても重要なこと」は信念をもって取材をし、報じていく必要がありますね。

サヘル:ニュース報道に対する私の友人たちの反応は、似ています。テレビ番組を見ながら愚痴を言うことが多い。「みんな同じことしか言わない」とか「日本のメディアって本質を報じていない」とか。

山田:そうした声をもっともっと聞きたい。ぜひ、「私たちは本当はこれが見たいんだ!」と発信してください。多くの人がそういう声を上げるようになってほしいです。

サヘル:確かに、今のメディアを変えていくために声を上げる人たちがもうちょっといたらいいのかもしれません。でも、「ほかの人が言ってくれるからいいや」っていう具合に、人任せになってしまっている。政治や選挙と一緒かもしれません。この「ほかの人任せ」から卒業したいですね。

山田:政治については「政策」について、徹底的に考えていくのが筋です。しかし、不倫や秘書に対する暴言などスキャンダルばかりが話題になると、本質が侵食していき、お笑いのようになってしまう。これはメディア側が反省しなければいけないことです。

そうした中にあって、池上彰さんのような方は偉いなあと思います。多くの視聴者は、池上さんのニュースを解説する手法に共感していると思います。ああいう方があと2人か3人、できれば10人くらい必要だと思います。難しい政策について、例え話をしながらでも一生懸命に説明しようとする。こういう報道のあり方、あるいはメディアのあり方が多数派にならなければいけません。

すべて「関係のない遠い国の出来事」ではない

サヘル:ニュースを受け取る側は、「自分たちもどこかでかかわっている」という当事者意識が必要だと思うんです。知らぬ間に加害者にもなっているんですよ。遠い国の紛争だから関係ないのではなく、実は知らない間に、かかわっているかもしれないのです。

そうしたかかわりについて触れることができれば、情報を受け取るアンテナの位置が変わるんじゃないかなって思います。今は「関係ない遠い国の出来事」として流れてしまっているニュースが多いと思うんですよ。でも、そんなことはないんです。

山田:たとえば、アフリカ象の保護について考える場合は、日本人が大きく関わっていますね。日本人が幅広く利用していた象牙を手に入れることがアフリカ象密猟の大きな原因になっていた。これは多くの日本人に広がっている意識だと思いますが、「遠い国であっても確実に日本が関与している問題」の典型例だと思います。

しかし、たとえば、イラクで起きている紛争に日本がどうかかわっているのか。これを納得できる形で説明するのは、そう簡単ではないですよね。

サヘル:難しいです。でも、たとえば中東のなかでも、日本の企業や人は大活躍をしています。政府はアメリカに従って動くしかない面は確かにありますが、民間はそうではありません。たとえばアフガニスタンでは地雷で脚を失った人々の義足づくりには日本企業が積極的にかかわっています。でもそれって意外と知らない方が多い。「私たち日本人は何もしてない」って結構みんな言うんですけど、そうじゃないんですよね。

ですから、まず日本人であることにまず誇りを持ってもらいたいし、恵まれてない地域で日本人がどれだけ今そういう支援に携わっているかを知ってほしい。実は日本によって救われている人たちが多いんですよ。もちろん改善が必要な悪い部分もあるでしょうが、よい部分を指摘するのは大切です。

これは勉強と同じで「君はこれができないんだ、あれもできないんだ」って言われたらもう嫌になるけれども、「君のこれがすごくよかったよ、あれもよかったよ」と言われると、「そうなんだ」って笑顔になれる。そこで一つ自信を持つことで、さらにかかわり方も変わってくると思うんです。だからマイナスの部分だけではなくて、ポジティブなこともちゃんと報じてほしいなあ、と感じています。

山田:ニュースに対して、どう向き合うか、そしてどう解釈するのか。視座をきっちりと確立するためにも、周りの人と議論することが大切ですね。サヘルさんは今でもお母さんとの議論を続けていますか。

サヘル:最近は毎晩のようにトランプさんのことで激論をしています。というのも、母はトランプさんのことに対して批判的なことはあまり言わない人で、いつも真逆の意見を言ってくるんですよ。

でもそのことによって、いい意味ですごく違った視点も見られる。家族でそういう会話が毎日あるから、新鮮なんですよね。で、いろんな意見がもらえるので、自分の偏った意見に気づかされるし、母に言われてハッとさせられることも多い。だからこそ何かしら一つテーマをあげて、毎日話し合うことは本当に大切なことだと思っています。

山田:身近な人とニュースについての話をしましょう、というのも大事なメッセージですね。難しいニュースであってもきちんと見よう、読もうというだけじゃなくて、そのことについて自分なりに考えて議論をしていく必要がある、と。

視野を広げるのは、まずは会話をすること

サヘル:そうなんです。報じられているニュースって、一つの具材です。具材をみんな確実に毎日1個か2個はもらって帰ると思うので、その具材を最後にテーブルの上に出して、会話の中で調理をすることで一つのおかずができると思うんですよ。


サヘル・ローズ/イラン出身。8歳の時に日本に移住。通っていた小学校の校長に日本語を学ぶ。大学時代はIT専攻。高校時代から芸能活動を始め、J-WAVEでラジオDJデビュー。現在、情報番組のキャスターやリポーター、バラエティ番組や女優業など幅広く活動を展開。将来は児童養護施設をつくるのが夢(撮影:熊倉徳志)

山田:なるほど。具材のままではなくきちんと加工をしなければいけない、と。

サヘル:そうすることによって、もっともっと視野が広がる。身近なところから視野を広げればいいのです。そのためには、まずは会話をすること。そしてお互いにディベート(討論)する大切さ。日本の授業にはディベートの授業がなさすぎると思うんですね。ディベートをどんどんしていきましょう。

山田:ディベートは大切ですね。自分と違う意見があることを認めることが、議論を戦わせる大前提。にもかかわらず、違う意見を潰しちゃおうとする人が多すぎるかもしれません。ところで、東洋経済オンラインは今でも読んでいますか。

サヘル:読んでいますよ。国際ニュースが充実してきた、と思っています。

山田:ありがとうございます。東洋経済オンラインは、引き続き討論をするうえでの正しい具材を提供できるように努力にしていきます。重要なテーマについて賛成派、反対派のディベートをきちんと実施できるような言論空間もつくっていく予定です。つねに進化を続けていきますので、引き続きご愛読ください。

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