バンダイの職人が本気で開発 「ドラえもん×プラモデル」誕生の裏側

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ドラえもんについて説明する必要なんて、もはや一切ないはずだ。丸くてちょっぴりドジな猫型ロボットは、どの年代からも幅広く愛されている。

そんなドラえもんのプラモデルが9月29日、東京ビッグサイトで開催されている「第57回全日本模型ホビーショー」で披露された。名前は、「Figure-rise Mechanics ドラえもん」。ガンプラで有名なバンダイが長年積み上げてきた技術力を結集した渾身の「ドラえもん×プラモデル」だ。



このプラモデルの最大の特徴は、ドラえもんの内部構造が忠実に再現されていること。

「ドラえもんの内部構造?」と思う読者もいるかもしれないが、実は小学館が発行するドラえもんの資料集『決定版 ドラえもん大辞典』で設定が公表されている。「ペタリハンド」や「ウルトラ・スーパーデラックス・コンピュータ」など、未来のテクノロジーを自らの手で組み上げることができるのだ。

今までテレビ越しに見ていたドラえもんが、手元で完全再現される。今回、異色のコラボレーションとも言える「Figure-rise Mechanics ドラえもん」の製造過程を知るべく、バンダイの工場を訪れた。

バンダイのプラモデルを支える職人の業



2006年に新設されたバンダイの工場はJR静岡駅からタクシーで10分ほどの場所にある。外装にはガンダムが大胆にあしらわれており、一見、工場だと思えない。

なぜ静岡県に工場を構えたのか──実は静岡県にはバンダイだけでなく、ミニ四駆ブームを巻き起こした「タミヤ」や戦闘機で有名な「ハセガワ」など、日本有数のホビーメーカーが集結。経済産業省が発表した「工業統計調査」によると静岡県のプラモデルは171億円の出荷額を誇り、全国シェア9割を占める。

また、毎年5月に開催される「静岡ホビーショー」には世界各国からプラモデルファンが足を運ぶほどで、まさにプラモデルの聖地なのだ。


エントランスにズラッと広がる主力商品。放映順に並べられたガンプラから伝わる技術の進化と歴史の積み重ねはファンなら感動するはず……!

早速、製造工場の内部へ。工場を案内してくれたのは、バンダイシニアマイスターの志田健二。1stガンダムに登場する技術士官ティム・レイ(アムロの父親)にどことなく似た、プラモ好きの間では有名な人物だ。

まず出てきたのが、長辺30cmくらいの重厚な直方体。これはランナー(枠)から切り離される前のプラモデルの原型となる、金型。見慣れたプラモのパーツは、これを機械にセットすることで製造される。金型を開けてみると……。



ドラえもんの金型があらわれた。



この時点でドラえもんの顔だとわかる。今回のドラえもんの顔は、通常のプラモデルと違ってツヤのある質感が出るよう、金型にも少し特殊な加工が施されている。



機械でアウトプットした金型の細かいアラは、顕微鏡で確認し、丁寧に削り取る。バンダイのプラモデルの大きな特徴は、接着剤を使わなくてもパーツをはめ込んでいくだけで組み立て可能なこと。つまり、金型にズレがあればプラモデルが組みあがらなくなることするあるのだ。

工場の奥に進むと、金型からパーツを製造するマシンが。金型をセットすると機械がスキャンをスタート。駆動音が鳴り響く……!


金型をマシンにセット。


ガンダムの一部だと言われたら信じてしまいそうな精巧な造りだが、これもドラえもんのパーツだ。

そうして出てきたのが、プラモ好きなら見覚えのある物体……! 機械内部で熱は取り払われるのだが、出来立てホヤホヤのパーツは手に取るとまだほんのり暖かい。

ちなみに、写真を見ればわかるように多色成形という技術により、機械で製造される段階で既にランナーには彩色が施されている。初心者には難易度の高いペイントを一切しなくても、組み立てるだけで原作のカラーリングを忠実に再現できるのがバンダイのプラモデルの魅力だ。

志田が工場フロアのパネルを取り外してくれた。その下には、なんと歴代プラモデルの金型が。



計150枚近くあるフロアパネルの下には、これまで販売した全てのプラモデルの金型が格納されている。最近ではイベントなどで復刻モデルの販売もあるため、30年以上前の金型が時を超えて活躍することもあるという。

「自分の手でドラえもんを造るような感覚」を目指した

ここまで見たように精緻な金型はどのように作られているのか? 続いて、オフィスのデザイン風景を見せてもらった。PC上には見慣れたドラえもんの3Dモデリングが。


見慣れた外見デザイン。


断面図

細かな部品の1つ1つが、プラモデルのパーツになる。パーツ数は約80(HGグレードのガンプラは約100パーツ)。プラモデル初心者でも組み立てやすいが、かといって全く簡単というわけでもない組み応えになっている。

モデリングを担当したのは、これまでガンプラの設計を多数手がけてきた大須賀敏亨。プロジェクトを主導した中原真優とともに、「Figure-rise Mechanics ドラえもん」にかけた思いを聞いた。



普段は目にすることのないドラえもんの内部まで細かく設計された「Figure-rise Mechanics ドラえもん」。デザインの際に一番気を使ったのはどのような点なのか?

「実は、設計で苦労したのは、内部の精密パーツよりも外側なんです。2次元のキャラクターを3次元にした時に、どこからでも可愛く見えるようにするのが予想以上に大変でしたね」そう言って中原が見せてくれたのは、今回の試作モデル。一見完成品と変わらない出来栄えだが……たしかに斜め上から見るとちょっと眼の形に違和感がある。

丸っこいデザインのドラえもんは、漫画やアニメなどの2次元ではシンプルな形をしていても、立体になりきらない。違和感をなくしてどこからでも可愛いドラえもんに見えるようにするために、幾度とない微調整が行われたのだという。



修正を繰り返し、とにかく「リアルさ」を追及した「Figure-rise Mechanics ドラえもん」。誰にも愛されるドラえもんだからこそ、あらゆる世代が手に取れるよう設計されている。

「現在のドラえもんを忠実に再現していますが、一部カラーリングなどは昔のドラえもんも参考にしています。昔のドラえもんに親しんだ20代後半〜30代の方にも楽しんでもらいたかったからです。ランナーでのパーツ配置は、ドラえもんの部位ごとにパーツを分けています。各部位の解説も入れているので、いま組み立てているのがどんな機能なのかを理解しながら、まるで本当にドラえもんを組み立てているような感覚を味わってもらえるよう目指しました」



大須賀がプラモデルを手がける際に求めているのは、とにかく「リアル」であること。だが、その表現方法はたった一つではない。人によって思い浮かべる「リアル」の形はそれぞれ違うからだ。

「プラモデルは原作ありきなので、原作の再現を第一に考えています。とはいえ、2次元を立体にする過程で違和感が出るし、見る人や状況によってイメージが違うこともある。原作に忠実なのはもちろんだけど、その上で手にした人に世界観をイメージしてもらえるのが理想ですね」

「いつも手がけているガンプラではなるべく複雑なギミックの再現を心がけていますが、ドラえもんの造形はとにかくシンプルです。だから今回は、『ドラえもんを自分で組み立てているような感覚』を持ってもらえるよう設計しました」

形状を再現するだけでなく、小さい頃に想像した「ドラえもんが隣にいたら……」「自分が科学者になってドラえもんのような夢のロボットを造りたい!」をカタチにする。それが大須賀が目指す「リアル」の形だ。

「Figure-rise Mechanics ドラえもん」は、2017年11月に全国で一斉販売される予定だ。