中田ヤスタカが考える、ゲーム音楽制作論 「僕じゃないと取れないバランス感がある」

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 中田ヤスタカが、今秋にリリースされる新作ゲームアプリ『戦国アクションパズル DJノブナガ』で使用される音楽を全面的にプロデュースすることを発表した。同ゲームは、スクウェア・エニックス、ワーナーミュージック・ジャパン、アソビシステムの3社が共同で発表するもので(参考:http://realsound.jp/2017/09/post-109131.html)、中田ヤスタカが開発段階からゲーム音楽に携わるのは今回が初。ルーツのひとつに「ゲーム音楽」を挙げ、意欲的に様々な企業やアーティストとコラボレーションを繰り広げる彼にとっては、「手掛けるべくして手掛けた」プロジェクトだと言えるだろう。今回リアルサウンドでは中田にインタビューを行い、自身とゲーム音楽の関わりから『戦国アクションパズル DJノブナガ』で目指した表現、現在鋭意制作中というソロアルバムとの関連性、そして楽曲制作における矜持まで、じっくりと話を訊いた。(編集部)

■「一番“丁度いい”のがやりたかった」

ーー今回の『戦国アクションパズル DJノブナガ』には、サウンド面の「制作」ではなく「プロデュース」として携わっていますが、具体的にはどのようなことを行ったのでしょう。

中田ヤスタカ(以下、中田):最初はどういうシステムかもまったく決まってない状態から始まったんですよ。「音楽を楽しめるゲームを作ります」というざっくりしたところだけしか知らず、あとからゲームの内容がドドドッと決まっていった感じで。

ーー音楽の方向性がある程度定まっていったのはどのタイミングですか?

中田:今年の春くらいから「こうしよう」と決めて、一気に作っていったんです。その時期に、ゲームの制作チーム的には、僕が想定しているテンポよりも遅いものをイメージしているということがわかったので。最初はもうちょっとわかりやすい“EDM”を作ってほしそうだったんですけど、本心では「そういうのはもういっか」と思って(笑)。

ーーこれまでもご自身が関わったプロジェクトの楽曲は、度々音楽ゲームなどで使用され、相性の良さから高い人気を博してきました。なぜご自身の音楽がゲームに合うのか、自己分析するとしたら?

中田:音楽を前のめりに聴くようになるまでの間にゲームをやっていたから、かもしれません。音楽を作ろうと思ったきっかけ自体、ミュージシャンに憧れたわけでもなくて、たまたまピアノが弾けて、たまたま機械に興味があったから打ち込みを始めただけで、参考にする音楽がない状態で曲作りをスタートさせたんですよ。だから、中学生の時に自分が作った音楽って、いまよりもかなり前衛的でヤバいんです(笑)。

ーーちなみに、ご自身のなかで理想とするゲーム音楽というのがあれば教えてください。

中田:うーん、何だろう……。あ、バーチャルボーイの『ギャラクティックピンボール』ですね。タイトル画面の裏で鳴ってる音楽が好きなんです。何も押さないと流れてくる、アルペジオのコード進行がかっこいい曲。それがすごく好きですね。

ーータイトルは分かりますけど、音楽は思い出せないので今度聴いてみます……(笑)。『戦国アクションパズル DJノブナガ』は戦国時代をモチーフとしているので、「和」という要素は入れるようにリクエストされていたと思うのですが、他にはどのようなテーマを持って制作に取り組みましたか?

中田:いや、「和」というテーマも頂いてなかったんですよ。むしろ「和に寄せなくてもいいです」と言われていたくらいで。でも、僕自身そもそも和風の曲が好きだし、自分としては入れたかったんです。その結果、ステージ上では和の要素をあまり感じさせないようにしつつ、マップ画面やタイトルなど、プレイと関係ないところでは優先的に和の要素を取り入れました。これはグラフィックとも共通する部分ですが、「和」をそのまま取り入れなきゃいけないというわけでもないので、それくらいのバランス感が丁度いいのかもしれないと思ったんです。

ーー確かに。選択画面などは基本的にヨナ抜き音階を主体としたメロディアスな曲が、ステージのほうではフューチャーベースなどを取り入れた現在進行形のクラブミュージックが展開されています。

中田:それに関しては、一番“丁度いい”のがやりたくて。ゲームとして楽しむにあたって、音の聴き方を考えたとき、良いスピーカーやヘッドホンを接続してもいいんですけど、スマホのスピーカーで聴いたときに何をやっているかわからない音楽にはしたくなくて。普段「絶対良いスピーカーで聴いてほしい」と考えて作っている曲とはちょっと違うんですよね。今回のプロジェクトにおいては、最初に音色も含めてすべての基本ーーテンプレートとなる1曲を作ったんですけど、そこにはかなり時間を掛けましたね。1曲1曲を全部違うものにする、というよりは、まずルールとなる1曲を設定して、それをベースに他の曲を作っていくという手順を取ったんです。

ーー今回制作した音楽は、ファミシンセ的な音を多用した、チップチューンのような曲が多いのも特徴ですよね。中田さんは自身のルーツとして、映画音楽のほかに「ゲーム音楽」を挙げられることも多いですが、まさにその影響を反映させたということでしょうか。

中田:社員さんとしてゲーム業界に入って音楽を作るようになると、逆にチップチューンなんてやれないと思うんですよ。「お前、ゲーム音楽好きすぎるだろ!」って上司に嫌がられるでしょ(笑)。とはいえ僕もチップチューナーではないし、ゲーム音楽クリエイターが本職でもない。だからこそ、僕じゃないと取れないバランス感があるのかなと。ゲームを遊ぶ人が、「これはチップチューンだ」と思うかといえば、そうではないし、実際そこまで気にしないと思うんですよ。何となく「この音が好きだ」と捉えるだろうし、自分でも間違いなくそうする。だから、そういう聴かれ方をするつもりで作っている音楽ではないんですよね。

■ 「誰かにとっての初めてになりたいって、最近常に思っている」

ーーそうだとすると、中田さんの楽曲は普段、J-POPの領域においてキャッチーさやフックの強さが際立っていますが、ゲーム音楽を作るにあたって、あえてその“引っかかり”を消したこともあったのでしょうか。

中田:ゲーム中には効果音もたくさん入ってくるんですけど、その音階も僕が指定してるんですよ。なぜかというと、ゲームをプレイする中で、すべての要素が合わさったときにグラフィックも音楽も「背景」にならないようにしたくて。楽曲の展開も、Aメロからスタートしてサビに行くのが普通なんですけど、プレイヤー次第で曲の流れがどうなるかわからないというゲームなので、それも大きく作用していると思います。

ーーいま話してもらったように、ゲーム音楽というのは、そのタイトルが持つ操作の難度やユーザーの環境など、ハード面での要素も音楽に影響してきます。その面で一番面白かった・苦労したポイントはありますか?

中田:うーん。今回はちょうど良かったかもしれません。例えばリアルなキャラクターで実写に近い世界観だと、こういう音楽にはならなかっただろうし、バキバキのDJものでもこうならなかった。いま、僕自身が「カッコつけてクールにしようとしすぎていないものがカッコいい」というモードに入っているので、その状況とはバッチリ噛み合いました。こういうポップな武将キャラがたくさん出てくるなかで鳴るダンスミュージックというのは、作っていても楽しかったです。

ーー自身の現在のモードが色濃く反映されていると。

中田:昨年の同じ時期は『何者』の劇伴でピアノの弾き語りみたいなものも作ったけど、それとも今のモードはまた違いますし。いまソロアルバムとして作っている音楽も、今回みたいにチップチューン風にするとその音に耳が行くかもしれないけど、もう少しビット数を挙げたーー32ビットとか64ビットみたいなものを使っていて。例えばストリングスも、壮大にしようと思えばできるんですけど、「その当時のハードウェア音源ではこれが限界でした!」みたいなものをあえて使ってみたりしているので、タイミング的には本当にちょうど良かったです。なので、今回作った音楽は、僕のソロアルバムにも繋がっていると思ってもらえれば。

ーーそれを聞くと、ソロアルバムに向けて期待が膨らみますね。そのうえで今回の音楽を聴くと、中田さんのルーツや通ってきた道が色濃く表れながら、近年のトレンドも取り入れているなと感じるんです。CAPSULEの『ハイカラ・ガール』『phony phonic』『MORE! MORE! MORE!』『WAVE RUNNER』が一緒になって、そこに近作であるPerfume「if you wanna」のようなフューチャーベースサウンドまで合流してきたような。

中田:なるほど……。自分が20代の時には、3年前とか5年前のことを思っていたかもしれないけど、いまはもうデビューから20年が経とうとしているわけで。自分が何をやってきたとかどうとか、知らない世代もいるんですよ。だからいちいち説明するのも面倒だし、「全部新曲で良いよ!」と思っていて。自分が中3だったら、「中田ヤスタカは以前にこういうのをやっていて〜」なんて体験しないじゃないですか。同じ人をいいなと思っても、わざわざ10年前や20年前の曲を聴きたくもならないだろうし。いま好きになったらそれより後にリリースする作品を良いと思ってくれる。僕もずっと新人の気持ちで作り続けたいし、世の中の人はそうなりつつあるんじゃないですかね。

ーーサブスクリプションサービスも普及して、様々な時代の音楽を並行に参照できるようになりましたし。

中田:そう。自分がチョイスしたいなと思うものだけでサウンドを作っていきたいし、自然とそうなっているというか。何でも選べるようになったからこそ「この人がこれを作って、それに影響されてこの人がこれを作って」というのがより短いタームで起こるようになっていて。みんな「昨年は、2年前は〜」って言うけど、僕にとってはもっと長い期間で見た同じ一つのタームにしか思えないから、その一つのタームに自分の全部を入れたくて。

ーー特にクラブミュージックにおいては、サブジャンルの移り変わりと増加のタームがどんどん短くなっていますからね。

中田:いま流行っている音楽は、僕自身がルーツになっているジャンルもあると思うんですけど、だからといって「自分がルーツだぜ」とは言わないでやっていきたいんですよね。かつてエレクトロが世界的に流行したときに、音楽業界の人に聴かせると「80年代にこういうのあったよね」って色んな人に言われたことを思い出すんです。そんなことを言われても、「俺は新曲として作ってるんだから、80年代の話されても面白くないんだけど」と感じるわけですよ。もちろん、モチーフにはしていたけど、それを自分世代の感覚で聴ける状態にしたいと考えてやっているし、その時代のものをそのまま聴いても良いと思わないから新曲として色んな要素を足しているわけですから。

ーールーツの大事さもわかる反面、その感覚もすごく理解できます。

中田:もちろん、ルーツになったものはルーツとして楽しめばいいし、自分自身も昔作った音源を引っ張り出してくることもあるけど、それをそのまま聴かせたくはないわけで。いつも新曲がベストバランスであり、一番面白いものだと自分は思ってるし、それに共感してくれる人と一緒にいたいんです。今回のプロジェクトも、これがきっかけで初めてちゃんと音楽を聴こうと思ってくれたら最高だし、それが何歳でも嬉しい。いまはそういうモードかもしれないですね。僕がその誰かにとっての初めてになりたいって、最近は常に思っています。(取材・文=中村拓海)