北海道では紅葉が始まっています。続いてそろりそろりと日本列島各地から、見ごろ予報も届くことでしょう。俳句の世界では、紅葉は晩秋の季語。春の桜狩りと同様秋の紅葉狩りは日本の風物詩で、散る姿の余韻に浸る精神性も重なります。多種多様なバリエーションを繰り広げる、紅葉の句の世界。分け入ってみることにいたしましょう。

秋月城址の紅葉


水の飛騨紅葉身心のごと落ちる

一口に紅葉といっても、「もみじ」とも「こうよう」とも読みますし、関連季語も多岐にわたります。一例をご紹介しますと、もみいづる、もみづる、薄紅葉、濃紅葉(こもみじ)、初紅葉、紅葉狩、色葉、夕紅葉、村紅葉、谷紅葉、紅葉山、紅葉川、庭紅葉etc‥紅葉の属性・状態・場所ごとにたくさんの季語群があります。
まずは、紅葉の句を中心に一揃いあげてみましょう。

・関照るや紅葉にかこむ箱根山       来山
・澗水(たにみず)の藍染かへて紅葉哉    乙由
・山くれて紅葉の朱をうばひけり      蕪村
・日の暮れの背中淋しき紅葉かな      一茶
・大寺の片戸さしけり夕紅葉        一茶
・濃紅葉(こもみじ)に涙せき来る如何にせん  高浜虚子
・障子しめて四方の紅葉を感じをり       星野立子
・水の飛騨紅葉身心のごと落ちる        金子兜太
・この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉      三橋鷹女
・伊予晴れて海の匂ひの紅葉寺         井本農一

江戸時代のものは素直に秋の光景を讃える傾向を感じますが、個人のキャラクターが自然に浮かび上がる一茶は、流石にユニークですね。明治以降になると生活が複雑になり、紅葉にも複数のフィルターがかかったり、作句の技巧にも磨きがかかります。
虚子の句は昭和21(1946)年11月、父親ゆかりの福岡は秋月城址を訪ねた際のもの。松山藩の剣術監であり祐筆でもあった虚子の父親は若い頃、武者修行でこの地に滞在していました。祐筆は右筆ともいい、中世・近世の武家の書記役を指します。「客観写生」「花鳥諷詠」を説いた虚子ですが、早くに世を去った父親を恋う心情が、濃紅葉の燃えるような色で浮かび上がっています。

柿紅葉


柿紅葉山ふところを染めなせり

あらためて紅葉とは、晩秋に落葉樹の葉が赤や黄色に変化する現象を指します。黄葉も紅葉と共に「もみじ」です。楓が最も一般的ですが、漆、櫨(はぜ)、銀杏、柿、桜をはじめ、たくさんの木々が落葉の前に秋を彩ります。季語でも、蔦紅葉、櫨紅葉、漆紅葉、柿紅葉、銀杏紅葉、梅紅葉、白膠木(ぬるで)紅葉と、並べるだけで日本の秋の万華鏡世界が広がりますね。
柿の葉は、晩秋になって果実が熟する頃になると、朱・紅・黄の入り交じる独特の美しさを繰り出します。一葉ごとに栞として残したい艶やかさを秘めますが、一方で続く句にあるような遠景の構成力にも長け、趣深い紅葉なのです。

・そめまじる柿の紅葉やしぶ六分  正好
・柿紅葉山ふところを染めなせり  高浜虚子
・柿紅葉正倉院の鴟尾(しび)遥か 野村喜舟
・紅葉せり柿の葉鮓の柿の葉も   長谷川櫂
・芋の葉にのり一枚の柿紅葉    沢井山帰来

櫨紅葉


田圃から見ゆる谷中の銀杏かな

柿紅葉、櫨紅葉、銀杏紅葉をはじめ紅葉から細目化された季語の句は、その分複眼的な精神や光景が描かれることも多いですね。次にあげる櫨紅葉は漆科の高木で、関東以西の比較的紅葉樹の乏しい低山に自生し、よく目立ちます。紅葉の真紅色は燃えるように美しい。

・もみづるや平家の寺の櫨一木   河東碧梧桐
・櫨紅葉越しに原爆ドーム見る   稲畑汀子
・水勢を火急と見たり櫨紅葉     上田五千石

続く銀杏は中国原産。黄葉の中で最も華やかで、一帯を黄金色に輝かせてくれます。大阪なら御堂筋、東京なら明治外苑と、都会の街並みに合います。ちなみに、美しく街路樹の絨毯と化す「銀杏落葉」は、冬の季語。

・田圃から見ゆる谷中の銀杏かな  正岡子規
・本門寺の銀杏黄葉を農暦      遠藤ふみ江
・御堂筋北ゆくほどに銀杏の黄    宮本藻屑

街も山も豊かに彩り私たちを楽しませてくれる秋は、まだまだこれから。古今東西の俳句とともに、堪能することにいたしましょう。

<句の引用と参考文献>
『カラー図説 日本大歳時記 秋』(講談社)
『新日本大歳時記 カラー版 秋』(講談社)
『第三版 俳句歳時記〈秋の部〉』(角川書店)

銀杏紅葉