パリ・サンジェルマンのカバーニ(右)とネイマール(左)【写真:Getty Images】

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PSG、今季最初の“腕試し”で3-0快勝

 9月17日のリーグ・アン第6節、パリ・サンジェルマン(PSG)対リヨン戦にてネイマールとカバーニのどちらがPKを蹴るかでもめて以降、現地メディアで多く取り上げられていたPSG2大エースの“衝突”問題。27日のバイエルン戦では渦中の2人がそれぞれゴールを決めて強豪相手に3-0勝利を収めたが、この快勝劇で“PK騒動”は沈静化されるだろうか。(取材・文:小川由紀子【パリ】)

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『新興勢力VS歴史的強豪』と銘打たれた9月27日のチャンピオンズリーグGL第2節、パリ・サンジェルマン対バイエルン・ミュンヘン戦。

 CL優勝5回(直近は12-13シーズン)、国内リーグ優勝27回を誇るバイエルンは正真正銘、欧州の強豪。かたや彼らを本拠地パルク・デ・プランスに迎えたPSGは、2011-12シーズンにカタール王国がバックについて以来、19年ぶりにリーグ優勝し以後4連覇、CL常連になった新興勢力だ。

 この夏、莫大な資金を投入してネイマールとキリアン・ムバッペを迎え入れ、CL優勝に向けて本気モード全開のPSGとって、バイエルンとの一戦は、今季最初の真の腕試しだった。

 しかして結果は、開始後2分足らずで先制点を挙げたPSGが3-0で圧勝した。

 ネイマールが左からスイスイと流れるようなペネトレーションでゴール前に進入し、相手ディフェンスに囲まれて潰される直前で右サイドを上がってきたアウベスにリリース。今夏加入したばかりのブラジル代表DFは瞬時に反応して鋭角シュートを決めた。

 早々にリードを奪ったことで、彼らの強力な武器であるカウンター攻撃により比重をかける体制が整ったPSGは、31分にはカバーニがムバッペのパスから中距離弾を決めて追加点。

 さらに後半、ムバッペが相手DFを次々とかわしてゴールエリアに果敢に切り込んでシュート。ボールはバイエルンのDFハビ・マルティネスに阻まれたが、彼の足元からしっかりネイマールがすくってセカンドチャンスをものにした。

 6割を超えるボールポゼッション、コーナーキックは18回と、チャンスは得ながらもゴールを奪えなかったバイエルン。

 かつて自身が采配を振るったスタジアムに凱旋したカルロ・アンチェロッティ監督は、「チャンスもつくれたしゲームもコントロールできていたが、全体のバランスが悪く、相手にカウンターを許してしまった」とトレードマークの眉毛を上げ下げしながら敗因を分析したが、PSGのウナイ・エメリ監督は、逆に相手に主導権がある状態にうまく対応できたことを評価。「積極的なサイド攻撃を想定していたからソリッドな守備を準備してきた」と見るからに嬉しそうな表情で饒舌に話した。

隣同士で手をとりあっていたネイマールとカバーニ

 試合後のミックスゾーンでMFマルコ・ヴェッラッティは、カウンター主体の攻撃は想定していたものはなく、早い時間にリードを奪えた結果だったと明かしたが、トップにネイマール&ムバッペのスピードスター、名パッサーのダニ・アウベス、展開力に秀でたヴェッラッティらを擁するPSGのカウンターの威力はこれまで以上に強力だ。

 早い時間に失点したことでプランが狂ったバイエルンと、そのために強みを生かすプレーができたPSG。おのずと明暗はくっきりだった。

 名将アンチェロッティも、「スペースを与えてしまったらネイマールとムバッペを止めるのは難しい」と認めたが、この2人に加えてアウベスと、新加入メンバーが全員得点に絡んだことも、PSGにとっては満足のいく内容だった。

 PSGはこの試合の4日前、ネイマールが軽い負傷で欠場したリーグ・アン7節、対モンペリエ戦で0-0のドローを喫し、今季初めて勝ち星を逃していた。

 レキップ紙は悔しげな表情で立ち尽くすカバーニの写真に『ネイマール無しだと勝利も無し』という痛烈な見出しをつけ、国内では“案の定”的な『ネイマール依存説』も囁かれ出していた。

 それだけにカバーニはこの強豪対決で、何がなんでもゴールを決めて自分の存在価値を証明したかったことだろうし、ネイマールも、チャンピオンズリーグで得点を決めることで、世界最高額プレーヤーとして迎えられた己の使命をまっとうした。

 終了のホイッスルが鳴ったあと、PSGの選手たちは一列に手をつないで両ゴール裏のファンにエールを返したが、カバーニとネイマールが隣同士でしっかり手をとりあっていた画像はきっと、世界中のメディアを駆け巡ることだろう。

会見は“PK騒動”の話題で持ちきり。エメリ監督は真摯に対応

 この10日間続いた喧騒も、これで一段落しそうだ。

 9月17日のリーグ・アン第6節、対リヨン戦で、ネイマールとカバーニがPKをどちらが蹴るかでもめた一件以来、メディアはしつこくこの話題を取り上げ、それに派生して、カバーニがエゴイストであるとか、ネイマールがカバーニの退団を会長に直談判したとか、信ぴょう性のさだかでない情報が次々と噴出していた。

 この一件後、初めてメディアがクラブに接触した9月21日の公開練習とウナイ・エメリ監督の会見では、この話題で持ちきりだった。ズラリと並んだカメラは、ネイマールが動くたびにけたたましくシャッター音を上げ、スポーツニュースのリポーターは、「いま私の後ろで、渦中の2人は並んでボールを蹴っています。関係は修復されたと見て良いのでしょうかっ!」とマイクに向かってまくし立てていた。

 そこらじゅうの記者を捕まえては、カメラを向けて2人のエゴ問題についてコメントを集めていた見かけない顔のリポーターは、はるばるイスラエルから来たという。

 会見でもエメリ監督に投げられたのは、「2人と話をしたか?」「指揮官としてどう対処するつもりか?」「どちらに蹴らせるか決めたのか?」とこの話題ばかり。

 うんざりした気配も見せずに丁寧に答えていたエメリ監督の回答は、「2人とは話をした」「今後はどちらがPKを蹴るかは私が決める」。

「ならばPKになった場合どちらが一番手と決めたのか?」としつこく食い下がる報道陣にスペイン人監督は、「一口にPKといっても、それが0-0の時で決勝点になるものなのか、4-0で大量リードしているときの追加点かなど、状況によって重みはまったく違う。

 よって、状況に応じて、その時にコンディションの良い者、責任を背負える者を選択する。基本的にはカバーニかネイマールだが、他にも蹴れる選手は何人かいる」とごもっともな答えを返した。

 バイエルン戦の前日会見でも自国フランスやブラジルのメディアは”PKヒエラルキー”について迫ったが、エメリ監督の答えは変わらなかった。それにしても、「もうこの話題はいい加減にしてくれ!」と遮っても良さそうな同じ質問の繰り返しに、エメリ監督が丁重に答えていたのには頭が下がった。

 実際のところ、古参のPSG番記者たちに意見を聞くと、「どうってことないこと」とほとんどが真剣に受け止めていなかった。

 中には、「いいか、フランスのジャーナリストの90%はアンチPSGなんだ。そういった記者たちはいつだってPSGを叩くネタを探してるんだよ」と言っていた人もいた。

「自分こそがエース」と我を張り合うこと自体は問題ではない

 ネイマール入団が決まった時には巨額の移籍金や、バルセロナとの確執、ファイナンシャルフェアプレーについてなどが連日紙面をにぎわせたが、それが一段落して、メディアも次のネタを探していたタイミングだった。

『いつか勃発することが確実だった2人のエゴ問題は、予想以上に早く訪れた』と、まるで「待ってました!」といわんばかりの論調で報じていたメディアもあったくらいだ。

 そもそも世界トップクラスのストライカー同士なら、ある程度のエゴはあって当然。カバーニは、イブラが去った昨シーズン、年間49得点、リーグ・アンでも35得点で得点王に輝き、ようやく「自分の時代が来た!」と思っていたはず。

 かたやネイマールは、カタール勢が『ビッグイヤー請負人』として招いた最強の切り札。彼らは「君がこのチームを欧州の頂点に導くのだ!」と言って口説いただろうし、ネイマール自身も、メッシ、スアレスとのMSN体制を抜け出し、「今度こそは自分が大エース」と思っていたかもしれない。

 がしかし、2人が「自分こそがエース」と我を張り合うこと自体は問題ではないように思う。肝心なのは、チームとして2人を使いこなすこと、そして彼ら自身が、同じ目標のために協力し合えるかだ。

 タイトル、トロフィーといった結果に貢献できなければ、またそのことに尽力しようと努力できる器がなければ、そもそもそのクラブにとって真のエースとは言えないからだ。そしておそらく、彼ら自身もそのことを理解しているし、お互いをリスペクトしている。

 バイエルン戦は両エースが揃って得点し、3-0で快勝、グループ首位に立つというハッピーエンディングだった。今後もネイマールとカバーニが互いに負けまいと点を取り合うなら、スコアシートが芳醇になってチームにとってもよろこばしいことだ。

 前半にゴールを決めたのはカバーニなのに、ハーフタイムにサポーターが歌っていたチャントは『メルシ〜ネイマール〜♪』。79分にムバッペがディ・マリアと交代したときも、会場中にけたたましいムバッペコールが鳴り響いた。

 ファンは今夏加入した2人に絶大な期待を寄せている。入団5年目のカバーニには、ファンもちょっと新鮮さが薄れてきているのかもしれない。ここはひとつ、エル・マタドールには大人になって、チームの栄光のために尽力してもらいたい。

(取材・文:小川由紀子【パリ】)

text by 小川由紀子