「Thinkstock」より

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 現在、抗生物質が効かなくなる薬剤耐性菌の出現が、社会的な問題になっている。日本におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)などの薬剤耐性菌の出現率は、諸外国と比較しても高いものになっている。

 このようななか、抗生物質を含有する農薬が野菜圃場や果樹園、水田に広範囲に散布されていたことが明らかになった。散布されていた農薬に含有されていた抗生物質は、オキシテトラサイクリン、ストレプトマイシン、オシソリニック酸、カスガマイシン、バリダマイシン、ポリオキシンなどである。これらの抗生物質は、人に対しても使われる抗生物質であり、オキシテトラサイクリンは細菌感染症の治療としてクラミジア感染症やマイコプラズマ感染症などに使われる。ストレプトマイシンは、結核やペストなどの治療に使われる。

 農薬としては、野菜の黒腐病や腐敗病、果樹の黒点病や黒斑病、稲のもみ枯細菌病などの殺菌剤として使われている。

 問題は、これらの抗生物質が広範囲に散布されることによって、土壌中に薬剤耐性菌が発現するのではないかという点である。現に、これまでも鳥取県でポリオキシンが効かない黒斑病の耐性菌が見つかっている。当然、土壌中の細菌に与える影響や、土壌から流出して河川や湖水の水生動物、バクテリアなどに影響を及ぼす懸念もある。

 これまで、抗生物質の農薬としての散布は、まったく野放し状態で調査もされていなかっただけに、懸念は大きくなる。農林水産省も実態を無視することができず、2018年度予算で、薬剤耐性対策として「動物からヒトへの伝播が懸念されている薬剤耐性菌の調査・解析や抗菌剤を使用した圃場における薬剤耐性菌の発現状況等の調査等を実施」することを決めた。

●国内で実態調査開始

 この薬剤耐性菌問題は今、国際的なものになっている。厚生労働省によると、2013年の耐性菌が原因とされる死者は、世界で少なくとも70万人で、耐性菌が現在のペースで増え続けると、50年には世界で1000万人が耐性菌で死亡し、現在のがんの死亡者数を上回ると観測されている。

 そこで世界保健機関(WHO)は、11年に薬剤耐性問題の重大性に鑑みて、世界的な取り組みを要請した。さらに15年5月のWHO総会で「薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクションプラン」が採択され、加盟各国に2年以内の自国の行動計画策定を求めたのである。

 これを受けて、日本政府も16年4月に「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」を開き、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を決定し、国内での抗生剤の使用量を3分の2に抑制することを決めたのである。

 このアクションプランは、「抗菌薬等の抗微生物製剤に対する薬剤耐性(AMR)の発生を遅らせ、拡大を防ぐ」ために、「薬剤耐性(AMR)の発生状況や抗微生物剤の使用実態の把握(動向調査、監視等)とこれに基づくリスク評価」「抗微生物剤の適切な使用による薬剤耐性微生物の減少」などを目的としている。

 今回の農林水産省の「圃場における薬剤耐性菌の発現状況等の調査」も、このアクションプランに基づいており、「農業で用いられる抗微生物剤の使用量に関する動向調査・監視の実施」となっている。

 いずれにせよ、日本では初めての調査であり、その結果が注目される。また、農業分野における薬剤耐性菌の調査は、世界的にも組織的調査監視体制が構築されておらず、各国の協調した取り組みが求められる。
(文=小倉正行/フリーライター)