北朝鮮を旅行中に拘束され、1年5カ月ぶりに解放されるも帰国直後に死亡した米国の大学生、オットー・ワームビアさん(当時22歳)が拷問を受けたかどうかで、食い違う証言が出ている。

「性拷問」ビデオ

オットーさんの両親は26日、米FOXニュースの番組に出演し、ワームビアさんには北朝鮮当局から拷問された跡があったなどと語った。オットーさんが6月19日に死去後、両親がメディアのインタビューに応じるのは初めて。また、トランプ米大統領は同日、ツイッターでインタビューに言及し「オットーは北朝鮮から信じがたいほどの拷問を受けた」と非難した。

インタビューによれば、オットーさんの身体には原因不明の負傷が数多く見つかった。下の歯は並び替えられたような痕があり、右足には大きな傷痕が残り、両手両脚は「完全に変形した」状態だったという。

ところが翌日、これを否定する証言が出てきた。AFP=時事は28日、次のように報じた。

〈米国人学生オットー・ワームビア(Otto Warmbier)氏(当時22)について、司法解剖を行ったオハイオ(Ohio)州の監察医は27日、同氏が拷問を受けた明らかな痕跡は見つからなかったと発表した。(中略)骨折や歯の損傷もみられなかったと述べた。〉

ちなみに、オットーさんの遺体は両親の意向により、司法解剖が行われなかった。この記事は「検視」と訳すべき部分を、時事が誤訳したようだ。

いずれにしても、両親と監察医の証言は食い違っている。果たして、どのように解釈すべきか。

北朝鮮にとって、スパイ容疑などで捕まえた外国人は人質外交やプロパガンダの材料などとして「利用」するためのものだ。後で記者会見に引っ張り出す必要があるから、凄惨な暴力を振るわれたとする事例は報告されていない。ただ、かつて北朝鮮に43日間に渡って拘束された韓国系米国人が、「性拷問」のビデオを撮られ、それを公開すると脅されたと証言したことはある。

(参考記事:「北朝鮮で自殺誘導目的の性拷問を受けた」米人権運動家

また、北朝鮮は1968年、米海軍の情報収集船「プエブロ号」を拿捕したことがあるが、当時の乗組員が「11カ月間にわたって拷問され、後遺症に苦しんだ」と提訴。ワシントン連邦地裁が2008年暮れ、北朝鮮政府に賠償金6600万ドル(約60億円)の支払いを命じる判決を下したことがある。

しかしながら、オットーさんの遺体を実際に見た監察医の証言は重い。オットーさんが北朝鮮で拷問を受けたとする説を、簡単に受け入れるわけにはいかないだろう。

それでも、北朝鮮が何か酷いことをしたのではないか、という世の疑いは、決して消えないだろう。実際、北朝鮮当局は自国民に対し、ペンチで歯を抜くなどの拷問を加えているとされる。

(参考記事:「男たちは私を拷問し、ペンチで無理やり歯を抜いた」脱北女性が証言)

われわれが、オットーさんの身に何が起きたかを正確に知る日が来るかどうかわからないが、北朝鮮当局により、想像を絶する虐待を受けている人々がいるのは確かだ。

核・ミサイル問題ばかりでなく、北朝鮮の人権問題についてもいっそう注目していく必要がある。