松尾潔×林剛が語る“90年代ブラック・ミュージック”のベスト・アルバムとは? ビルボードライブ10周年イベント・ダイジェスト対談

写真拡大

 2017年9月24日、東京・二子玉川ライズ内の二子玉川 蔦屋家電にて、音楽プロデューサーで文筆家の松尾潔と、音楽評論家の林剛による対談イベントが開催された。

 【BBL 10th Anniversary Talk Session 松尾潔×林剛 〜Revive 90s〜】と題し、ビルボードライブ10周年を記念して行われたこの日のイベント。これまでも多くの90s以降のR&B、ヒップホップのアーティストのライブを開催し、10月以降もエリカ・バドゥ、ベイビーフェイス、フェイス・エヴァンスの単独公演も控えるビルボードライブ。その周年イベントに、その道の権威と言える二人が登壇し、終始和やかな雰囲気の中、幅広い話題が展開された。この記事では、そんな両者の対話をダイジェストでお届けする。

<松尾潔、林剛が選ぶ90年代のベスト・アルバム(TOP3)>

松尾:今日は事前に「90年代の名盤ベスト3を挙げてくれ」ってビルボードさんに頼まれて用意したんですけど、二人とも「3枚ずつ挙げて下さい」ってメールが来てるはずなのに、林さんも僕も10枚近く挙げていて(笑)

会場:(笑)

林:何かにつけて挙げたくなるんですよね。

松尾:3枚で収めるのは難しいよね。じゃあ、まずは林さんのTOP3からお願いします。

林:色々と前置きをつけたくなるところではありますが、僕の3枚は、トニ・トニ・トニの『サンズ・オブ・ソウル』(1993年)、メアリー・J. ブライジの『マイ・ライフ』(1994年)、キース・スウェットの『キース・スウェット』(1996年)ですね。

松尾:なるほどね。何の異論の余地もありませんけど…林さんってそういう人なんだ(笑)

林:「人生で1枚だけを挙げろ」って言われたらすごく困るんですけど、90年代に関しては、もし「1枚を挙げろ」って言われたら、トニ・トニ・トニの『サンズ・オブ・ソウル』を挙げますね。

松尾:あ、そうなんだ。良いアルバムだけど、そんなに思い入れがあったんですね。甘酸っぱい思い出があるとか? 「俺のピローで寝てみないか?(同アルバム収録のヒット“Lay Your Head On My Pillow”の日本語訳)」みたいな(笑)

林:いやいや、そんな感じじゃなかったですね(笑)。このアルバムがリリースされたのは20代前半の頃で、その頃はタワー・オブ・パワーとかスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンとかのベイエリアのファンク、70年代のファンクとかソウルがすごい好きだったんです。一方で、ニュー・ジャック・スウィングとかも聴いていて。トニ・トニ・トニは、映画『ハウス・パーティーII』(1991年)のサントラにも曲を提供していましたけど、彼らの音楽には70年代ファンクとニュー・ジャック・スウィングの両方を感じたんですよね。まだ学生で評論家でも何でもなかったのに「これは今後のR&Bシーンを占う作品だ!」って友達に力説してました。

松尾:そのお友達って迷惑がってませんでした?(笑)

林:ええ。就職活動をしている友達に語ってましたね(笑)

松尾:でも、いまでもその気持ちに揺るぎはないですか?

林:ないですね。今思うと、その後、ニュー・クラシック・ソウルとかネオ・ソウルと呼ばれたムーブメントの起点にもなっているアルバムなんじゃないかなと思います。

松尾:なるほどね。ちなみにキース・スウェットはなぜ?

林:僕はスロージャムが大好きなので、その代表作かなと。

松尾:これもまた「俺のピローで…」とか、そういう世界観ですよね(笑)。

林:僕って、そういうタイプに見えますか?(笑)

松尾:でも、基本的に、こういうのが好きな人って、そういう世界に憧れがあるんじゃないの?

林:そうですね。

松尾:なんてシンプルなカンバセーションなんだ(笑)。ちょっと真面目に話すと、オリンピックの年に開催地のアトランタから出てきたヒットアルバムで、当時のアトランタのシーンの活況ぶりを示す1枚ですよね。あの頃のキースの周辺には、TLCとか、本当に色んな人達がいましたからね。

林:そうですね。今回『キース・スウェット』は松尾さんとダブりましたね。

松尾:そうですね。じゃあ、先に答えを言われましたけど(笑)、私の3枚を。ジャネット・ジャクソン『ジャネット.』(1993年)、R・ケリー『12プレイ』(1993年)、キース・スウェット『キース・スウェット』。僕にとってはやっぱり『ジャネット.』が金メダルってことになるのかなぁ。

林:ある意味そうですよね。

松尾:彼女はメアリー・J. ブライジと同じように、その時々の自分の人生模様をアルバムに素直にプリントしてきた人だと思うんです。とはいえ“大スターの妹”っていう出自がまずあるから、メアリー・Jみたいに「シスターの代弁者」みたいな見方をされることは少ないんですよね。でも、このアルバムに関しては、タイトルのピリオドで「ジャクソン家とは一線を引いたひとりの大人の女」という決意表明を表現しているような気概を感じましたね。

林:なるほど。

松尾:あと、曲が良かったですよね。「That's The Way Love Goes」のすばらしさ。アシッドジャズっていうロンドン発祥のムーブメントを視野に収めていたともいえます。最近の90sリバイバルでアシッドジャズも再注目されてますよね。ジャミロクワイが日本武道館で追加公演までやったりとか、その影響を隠さないSuchmosって日本の若いバンドが人気を博していたりとか。アメリカのR&Bだけを軸に語るなら、「That's The Way LoveGoes」は “ジャネット流のネオソウル”とか、“ジャム&ルイスが生のグルーヴにも目を向けた作品”って言われがちですけど、当時を思い出してみると「イギリスのソウルファンの大好物を作ったなぁ」っていう印象が強かったですねぇ。

 その頃の僕はアメリカで仕事することも多かったんですが、アメリカの、特にR&Bビジネスの世界に居ると、アメリカの中しか見ないんですよ。あの国って大きすぎて、州を跨ぐと外国みたいなものだから、海外旅行に行かないひとも多い。でも『ジャネット.』には、アメリカ産のR&Bとしては珍しくワールドワイドな視点もありました。まだR&Bがポップ・ミュージック全体の覇権を握るか握らないかくらいの時代で、アフリカン・アメリカンによるアフリカン・アメリカンのためのアルバムが大半を占める時代にあって、このアルバムには国際マーケットへの目配りがありました。

<松尾潔、林剛が選ぶ90年代のベスト・アルバム(&MORE)>

林:松尾さんのTOP10の残り7枚は、メアリー・J. ブライジの『What’s The 411?』(1992年)、Dr. Dre『The Chronic』(1992年)、Nas『イルマティック』(1994年)、ノトーリアス・B.I.G.『Ready To Die』(1994年)、TLC『CrazySexyCool』(1994年)、ディアンジェロ『ブラウン・シュガー』(1995年)、エリカ・バドゥ『バドゥイズム』(1997年)ですね。

松尾:評価も定まっているような歴史的名盤ばかりで、すごく初心者っぽいセレクションですよね(笑)。でも、メジャーもインディーもすごくたくさん聴いてきたうえで、この10枚に至ったと思っていただければ。この10枚全部で10章の物語だとしたら、どのチャプターから入っても良いんです。どこから聴き始めても、必ず他のアルバム全てにたどり着くはずなので。

林:僕が他に選んだものとしては、必ずしもTOP10というわけではないのですが、アリーヤ『Age Ain’t Nothing But A Number』(1994年)、ブラックストリート『ブラックストリート』(1994年)、モニカ『Miss Thang』(1995年)、ブランディー『ブランディー』(1994年)、SWV『イッツ・アバウト・タイム』(1992年)、エスケープ『オフ・ザ・フック』(1996年)、マックスウェル『アーバン・ハング・スィート』(1996年)あたりですね。

松尾:(アルバムジャケットを見ながら)ブラックストリートもモニカもストリートで撮影していて、コンセプトが共通しているんですね。SWVなんて土管にまたがってるぞ(笑)

林:この人たちもビルボードによく来ていて、素敵な年の重ね方をしてますよね。

松尾:ブランディーもビルボードで観ましたね。キレイでした。

<2017年の秋に観る“90年代R&B”の3アクト>

林:2017年は、シドとかブライソン・ティラーとか、松尾さんも年間ベスト候補に上げているセヴン・ストリーターとか、90年代の音楽をサンプリングしてるアルバムが多くリリースされていて、本格的に90年代リバイバルの波が来たなという気がしています。そんな中で、10月からは、エリカ・バドゥ、フェイス・エヴァンス、ベイビーフェイスが来日します。

松尾:林さんは、この中で誰に一番期待してますか?

林:僕はベイビーフェイスに実はかなり期待してます。2016年にも【エッセンス・フェスティヴァル】でベイビーフェイスを観て。それがリアルタイム体験派としては懐かしい、自分か作った曲とかをセルフカヴァーでメドレーで披露する場面とかがあって、ウルウルっと来てしまったというのがありまして。

松尾:作家としての実績が途轍もない人ですからね。今は作家さんってイメージよりも歌い手というイメージがまた強くなってきてる気がしますが、それでもアリアナ・グランデに曲を書いてたりしますからね。

林:そうですね。あと<デフジャム>からの最新作(『リターン・オブ・ザ・テンダー・ラヴァー』2015年)もすごい良かったので、あれを出してからは初来日だと思うので、それも楽しみですね。

松尾:僕はエリカ・バドゥですよ。だって、ビルボードに出るのは初めてですから。今日ご来場のみなさんは「でも(チケットが)お高いんでしょう?」って思ってますよね? 僕もそう思うんで(笑)。ただし1日1ステージに絞って全力投球するんだそうです。そう聞いて「じゃあどんな内容なんだろう?」って興味が湧いてます。

林:そうですね。やっぱり『バドゥイズム』20周年ということもあって、本国のセットリストを見ても『バドゥイズム』的な曲を各アルバムから選んだような内容になってますね。もちろん、来日公演でそのままやるかどうかは分からないんですけど、メンバーもほぼ一緒のようなので。

松尾:良いバンドで来るんですってね?

林:そうですね。RC&ザ・グリッツという、長年一緒にやっているダラスの地元のバンドのメンバーも来たりとか。あと『ワールドワイド・アンダーグラウンド』(2003年)で、「フリークエンシー」っていうプロデューサー・チームをエリカと組んでいたラシャッド・スミスもDJとして来たり。バック・バンドも確かな人たちが来るっていうのはありますね。

松尾:フェイス・エヴァンスはどうですか?

林:フェイス・エヴァンスは最近、元旦那さんのビギーとの擬似デュエット盤(『ザ・キング&アイ』)が出て、もしかしてそこからの曲もやるのかな?

松尾:まあ、ヒット曲も多いですからね。彼女の場合、ビルボードのステージに立ったこともあるから、痒いところに手が届くステージをやってくれるんじゃないですかね。単純にヒット曲のスケール感でいうと、「I'll Be Missing You」という破格のヒットを持っている人ですから。安心感がありますよね。

林:彼女の濡れたような歌声が聴けるのが、今から楽しみですね。

松尾:秋にR&Bを聴くのは、それ自体がもう最高ですから。R&Bを素敵な夜景と美味しいお酒と一緒に楽しめるビルボードライブ。そこでみなさんとお会いできるのを、今から楽しみにしております。


◎イベント情報
【BBL 10th Anniversary Talk Session 松尾潔×林剛 〜Revive 90s〜】
東京・二子玉川・二子玉川 蔦屋家電
2017年9月24日(日)
出演:松尾潔、林剛

◎ビルボードライブ公演情報
【BBL 10th Anniversary Premium Stage
エリカ・バドゥ】
2017年10月1日(日)&3日(火)&6日(金)&12日(木) ビルボードライブ東京
2017年10月9日(月)〜10(火) ビルボードライブ大阪

【フェイス・エヴァンス】
2017年10月5日(木) ビルボードライブ大阪
2017年10月9日(月・祝) ビルボードライブ東京

【BBL 10th Anniversary Premium Stage
ケニー “ベイビーフェイス” エドモンズ】
2017年11月15日(水)〜16日(木) ビルボードライブ大阪
2017年11月18日(土)〜20日(月) ビルボードライブ東京

詳細:http://www.billboard-live.com/

◎その他公演情報
【MTV presents SOUL CAMP】
東京都 新豊洲エリア
2017年10月7日(土)・8日(日)
開場13:00/開演14:00

URL:http://soul-camp.jp/