北朝鮮・平壌で開かれた反米集会の様子(提供:KNS/KCNA/AFP/アフロ)

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 本連載前回記事で、北朝鮮のミサイル開発にロシアのマフィアが関与している事情や、北朝鮮がミサイル発射をやめられない理由について論じた。今回も、北朝鮮問題を少し違った角度から見ていきたい。

 北朝鮮では、「スーパーノート」と呼ばれる偽ドル札が流通していることが知られている。これは、北朝鮮製の偽ドル札の中でももっとも精巧なつくりで「本物と見分けがつかない」ともいわれる。

 たとえば、2001年にアメリカで同時多発テロが発生した後に「SERIES 1992」(1992年発行)と刻印された偽ドル札が香港で出回ったのだが、あまりに精巧であったため、アメリカが本物の「SERIES 1992」の一部を無効にしたという逸話もあるぐらいだ。

 北朝鮮はマカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」を利用して、その偽ドル札と本物の紙幣を交換していた。その際に使用されたのが「SWIFTコード」だ。これは、国際銀行間金融通信協会(SWIFT)が提供する識別番号で、銀行口座の住所にあたる。

 まず、北朝鮮はバンコ・デルタ・アジアにスーパーノートを移送する。そして、SWIFTコードを利用してアメリカへの送金手続きを行う。すると、アメリカの銀行口座にテキストデータが送られるので、現地の工作員が引き出して現金化する。その後、バンコ・デルタ・アジアが偽ドル札を使って決済すれば、北朝鮮はドルを安全に入手できるという仕組みだ。これなら、100万ドル単位でマネーロンダリングを行うことも可能である。

 一方、アメリカ財務省は北朝鮮による偽ドル札の流通を追及しており、2005年9月に「マネーロンダリングに関与した疑いの強い金融機関」として、バンコ・デルタ・アジアをブラックリストに入れるという制裁を行った。

 北朝鮮には、金正日直属だった「朝鮮労働党39号室」という機関がある。これは、麻薬密売、通貨偽造、偽造タバコ密売などの不法活動を指揮する組織だ。アメリカは制裁でバンコ・デルタ・アジア内の北朝鮮関連とされる52の口座および約2500万ドルを凍結したのだが、それらのなかには「朝鮮労働党39号室」関連の口座や金正日の個人資産も含まれていたといわれる。

●北朝鮮の偽ドル札は中国経由でアジア全域に流通

 北朝鮮のスーパーノートについては「CIA(中央情報局)の情報戦略だ」「コストが合わないからあり得ない」という意見もあるが、共著『ヤクザとオイルマネー 石油で250億円稼いだ元経済ヤクザが手口を明かす』(徳間書店)の共著者である猫組長氏は、実際に売買の現場に立ち会った経験があるという。

 バンコ・デルタ・アジアがアメリカから制裁を受けた後も、「SERIES 1992」の偽ドル札は中国経由でラオスに流れていた。外国為替管理制度が厳格化されていないラオスには、無申告で大量の外貨を持ち込むことが可能なのだ。そして、ラオスにプールされた偽ドル札は陸路で国境を越えてタイに運ばれる。猫組長氏は、このタイでアメリカ人が経営する両替業者に偽ドル札が売買される現場を見たという。

 偽ドル札は、そこからアジア中の両替商に売られていく。本物にしか見えない偽ドル札は、本物の紙幣より格安で取引される。アジアにはライセンスを持った街の両替商がたくさん存在しており、彼らが小口の両替に偽ドル札を使えば、かなり儲けることができる。両替された偽ドル札は、やがてアメリカにわたってどこかの銀行に回収されることになり、北朝鮮としては自動的にマネーロンダリングが完了するわけだ。

 現在、日本と北朝鮮との間に国交はないが、北朝鮮と国交を結んでいる国は意外と多い。アジアでいえば、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアの東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国とは国交がある。

 国交のない日本にも拠点があるぐらいなので、国交を結んでいる国々にはより強固な拠点があることは想像に難くない。各国に北朝鮮の人々が多く居住するコミュニティや北朝鮮料理のレストランなどがあり、工作員や諜報員の拠点となっているのが実情だ。

●北朝鮮のミサイル発射が3月から増えたワケ

 前述したバンコ・デルタ・アジアへの制裁によって、北朝鮮は国際金融の裏ルートを失った。しかし、核開発をめぐる「6カ国協議」に参加する見返りに、アメリカは北朝鮮に対して一種のお目こぼしを与えていた。そのひとつが、ロシアへの送金だ。

 北朝鮮の貿易会社がロシアの銀行に口座を持っており、バンコ・デルタ・アジアの制裁後、北朝鮮はそのロシアの口座を海外送金の拠点としていた。そして、ロシアン・マフィアが仲介するかたちで武器や麻薬とドルが取引されていたのだが、アメリカはそれをわかっていて目をつむっていたのだ。

 しかしながら、今年3月にSWIFTが北朝鮮の全銀行に対するサービス停止を発表した。これによって、北朝鮮はロシアへの送金も禁じられたことになる。ドナルド・トランプ大統領が就任したアメリカが本気で手綱を締めにかかったわけだが、その3月のSWIFT停止以降、北朝鮮のミサイル発射回数が格段に増えたことは周知の通りだ。
(文=渡邉哲也/経済評論家)