投資ファンドの「第三者保有」サッカークラブが乗っ取られる?

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月刊フットボリスタ17年10月号では「Jリーグも逃れられない『選手=株式』欧州サッカー移籍ゲーム」と題して、かつてない高額移籍が相次いだ“移籍バブル”の構造を掘り下げている。キーワードとして登場するのが「プレミアTV放映権料」「第三者保有」「中国・ロシア資本」「代理人」「アカデミービジネス」の5つ。今回はその中から「第三者保有」の解説記事を特別公開。

文 木村浩嗣

 “選手の株式化”。嫌な言葉である。選手は物ではなく人である。“人身売買”なんて言葉も連想させる。しかしだ、例えばモンチ(現ローマSD)がセビージャでやっていたことは選手を株のように売り買いすることではなかったか? 安く買って高く売る。選手を資金源としてクラブの財政を強化する。モンチが世界一のスポーツディレクターとして称賛される要因となった選手の売買と、投資ファンドの第三者保有による「株式化」はどう違うのか?

 違いは「目的」である。モンチは生え抜きのスターだってチームの柱だって遠慮なく売ったが、それはあくまでクラブを強化するためだった。売買によるお金儲けの手腕ではなく、売った金でチームを補強しタイトルを獲得し続けたからこそモンチは絶賛されたのである。

 これに対して「株式化」の目的はあくまでお金儲け。選手という株に投資し高値が付いたら売って売却金を投資家の間で山分けする。単純にして明快。そこで問題になるのは、何パーセントの利回りが出たかという投資効率であって、クラブ愛とかタイトル獲得とかコンペティションの正当性とかは関係ない。もっと言うと、サッカーに興味がないという投資家すらいる。彼らにとっては小豆の先物取引だって詐欺まがいのマルチ商法だって儲かるならなんでもいいのだが、たまたまサッカー移籍市場がインフレで利回りがいいから投資対象としているだけである。

 こういうサッカーを愛してもいないお金持ちの資金、それも出所の怪しい金が10年ほど前からサッカー界に大量に流れ込んでいる。移籍金高騰は莫大なTV放映権料が流れ込んだせいだと言われているが、それだけではない。民主主義が浸透していない国で搾取された金、ドラッグの売買や違法ギャンブルや脱税行為などを由来とする汚れた金が匿名の投資ファンドをトンネルとして注ぎ込まれ、インフレを起こしている。インフレだから金が集まり、金が集まるからインフレになる。そういう理屈でないと、相場の異常な上昇は説明できないのだ。

 つまり選手の株式化の弊害とは、.汽奪ー愛やクラブ愛とは無関係の金が流れ込みインフレを起こしていること、∩農の怪しい人物の素性の怪しい金の洗浄や金儲けにサッカーが利用されていること、0Δないからクラブが潰れようが選手の人権が損なわれようが関係なく、結局サッカー界が大きな損害を被ること、とまとめることができる。

暗躍する「ドイエン・スポーツ」
ロホとスポルティングの悲惨な契約

14年夏からマンチェスター・ユナイテッドに所属しているマルコス・ロホ

 
 この株式化の手口としてよく使われたのが「第三者保有」である。

 仕組みは非常に簡単だ。アトレティコ・マドリーがファルカオを獲得した時の例で説明しよう。ファルカオの移籍金は4000万ユーロ(約52億円)だったが、アトレティコ・マドリーに全額払える資金力はなく、その半分2000万ユーロを投資ファンド「ドイエン・スポーツ」が負担し、33%の所有権を手に入れた。その2年後ファルカオは4500万ユーロで売却され、その売上を所有権比率67%:33%に従ってアトレティコ・マドリーとドイエン・スポーツが山分けした。「第三者保有」と呼ぶのは、選手売買の当事者である買い手と売り手のクラブ以外の第三者が、移籍に介入し選手の保有権を手にすることからだ。

 このファルカオのケースは、アトレティコ・マドリーは半額の負担で補強しELとコパ・デルレイを獲得。売却時には利益も手にしたし、ファルカオの方も売却先のモナコで当時コロンビア史上最高の年俸を手にして三方丸儲け。「めでたし、めでたし」で誰も損しなかったが、FIFAは2015年5月1日以降、この第三者保有を全面禁止にした。なぜか? 次のような事例があるからだ。

 2012年スポルティングはロホを獲得したが、その移籍金400万ユーロ(約5.2億円)の25%しかスポルティングは負担せず、ドイエン・スポーツが75%を負担。所有権も同じ比率で分け合った。その2年後ロホは2000万ユーロで売却されたが、スポルティングはその75%をドイエン・スポーツへ渡さず、「売却を強制された」ことを理由にドイエン・スポーツとの契約を解除。ドイエン・スポーツ側はこれを不当として裁判になった。訴訟の方はスポルティングの契約違反が明らかで分が悪いのだが、問題は裁判の過程で明らかになったロホの契約内容だった。

 ドイエン・スポーツは「800万ユーロ以上のオファーが届けば移籍を強要できる」、「スポルティングが2015年7月1日以前に売却しなければ、75%の所有権を負担金に12.36%の利子を付けて買い取らせる」となっていたのだ。これは移籍への介入だけでなく、ドイエン・スポーツ側は高値が付けば売れて儲かるし、たとえ売れ残っても買い取らせるから絶対に得をする、というノーリスクの証明でもあった。リスクを負うのはスポルティングとキャリアを担保にされたロホだけだったのだ。

 どう見ても不利な契約にサインしたスポルティングが悪いのだが、そうでもしないと高騰した移籍市場で、彼らのような中堅クラブは欲しい選手が買えないのも事実である。選手の値段が倍になるのに今なら1シーズンもあれば十分だが、クラブの売上高が同じペースで増えることはあり得ない。つまり、投資ファンドの金が流入することは、投資ファンドに頼らないと補強できないという必要性を生み出していることになる。言葉は悪いが、放火してから放水するマッチポンプなのだ。

投資ファンドの浸食は阻めない
FIFAの禁止令の5つの抜け道

2015年11月に開設した暴露サイト『フットボール・リークス』

 
 ファルカオのように誰もが得をするケースもあるからFIFAの禁止令には反発もある。例えばスペインのプロリーグ協会テバス会長の「投資ファンド抜きでは補強できずリーガは競争力を失う」というのが禁止令反対派の代表的な意見だ。だが、FIFAには今のところ禁止令を覆す動きはない。いや、実のところその必要すらない。禁止令で撤退するほど投資ファンドは甘くないのだ。

 禁止令をかいくぐるにはいくつか方法がある。単純な方から紹介していこう。

1 所有権ではなく肖像権に投資する
 一般に移籍金が上がれば肖像権は上がる。FIFAのサッカーの論理が及びにくい純粋な商業行為である肖像権ビジネスへ金が流れる可能性はある。ただし、良いサッカー選手が良い広告塔になるとは限らないから、投資のうま味はどうしても少なくなる。

2 第三者保有の事実を隠す
 FIFAに提出する契約書とは別に、裏の契約書を作れば良い。2015年FIFAは、第三者保有禁止令に違反したトゥエンテの欧州カップ戦出場権を3シーズンにわたってはく奪すると発表したが、違法行為を告発したのはFIFAでもUEFAでもなく『フットボール・リークス』だった。これはつまり、リークやハッキングなどの手段を使わねば裏契約の発見は極めて難しいことを意味している。

3 融資の形で投資する
 クラブに資金を貸し出すことは違法ではない。補強費に事欠くクラブに投資ファンドがお金を貸し、2、3年後に極めて高利で返済する契約にサインさせる。クラブが返済のために主力選手を売ったとしても、それは投資ファンドの預かり知らぬこと。このやり方では投資ファンドが特定の選手を保有する代わりに、選手全員が借金の担保になることになるから、第三者保有の方がまだましだ。金融行為である融資を禁止することはFIFAにはできないから(禁止しても一般法廷で必ず敗訴するだろう)、これは完全に合法である。

4 クラブを買う
 お金を貸して間接的に操るなんてまどろっこしい。経営難のクラブを丸ごと買ってしまおう、というもの。クラブは第三者ではなく移籍の当事者だから禁止令には抵触しない。これも合法だが、もし投資ファンドが経営権を握れば、それこそFIFAが恐れる最悪の事態が起きるだろう。投資ファンドの経営するクラブでは、選手の売却によって儲けることを最大の目標とし、勝利やタイトル獲得は二の次ということになるからだ。補強担当はチーム事情とは無関係に青田買いで若手ばかり獲ってくるだろうし、監督は値が上がりしそうな選手を優先的に起用するだろうし、選手は注目度の高い試合にしか出たがらないだろう。そうして値が上がった選手はどんどん売られ、下がった選手は躊躇(ちゅうちょ)なくクビが切られる――こんなクラブはもうサッカークラブとは呼べない。

 スペインのあるビジネスコンサルタントはFIFAの禁止令を「野原に扉を付けるようなもの」と形容した。儲かるから集まり儲けのためには手段を選ばないという金の洪水に、サッカー界は木の葉のように翻弄され続けている。

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【9月12日(火)発売】『月刊フットボリスタ第49号』https://t.co/PFW7rXjYuN17年10月号の特集は『Jリーグも逃れられない「選手=株式」欧州サッカー移籍ゲーム』ネイマールに約290億円。「強化」から「投資」へ歪みつつある移籍ゲームの構造を考察する。 pic.twitter.com/kEp0KEwrgc- footballista (@footballista_jp) 2017年9月8日

 
Photos: Getty Images