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黒木 渚は年上のおじさまにモテる。その最大の理由は、豊かな文学性と独特のエロティシズムを感じさせるシンガーソングライターとしての才能。さらに頭が良いくせにどこか危うげで、誰にも媚びない雰囲気があるうえに、日本風の美人だからだろう。

筆者自身も若干そうなのだが、彼女に接すると「この子を自分が押し上げてあげなくてはいけない」というわけのわからない義務感を覚えてしまうのだ。おそらく彼女は、そんなこと微塵も求めてないだろうが。

大学在学中にバンド「黒木渚」を結成し、福岡県内の市役所に務めながら音楽活動を継続。2013年に1stミニアルバム『黒キ渚』でデビューした後、さらに自分自身の音楽を追求するためにバンドを解散、ソロアーティストとしてスタートを切った。

彼女が注目を集めたきっかけのひとつは、音楽シーン、芸能界の先輩(年上のおじさま)に評価されたことだ。桑田佳祐は自身のラジオ番組でシングル「はさみ」を取り上げ、「今時こんな歌詞が書けるヤツがいるんだ?!」と絶賛。



さらに名プロデューサー小林武武史もその歌唱力を高く評価し、小林が中心となっているイベント『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』に出演した。

また、伊集院光も自身のラジオ番組で「アーモンド」(アルバム『自由律』収録)をオンエアし、“首に腫瘍のある鳩は”など独特の言葉遣いを評価。「西野カナの真逆の良さ。同じ世代に、このわかりにくい歌詞もウケるんだって、ちょっとグッときた」とコメントした。



誤解を恐れずにいうなら、黒木 渚の楽曲は決してわかりやすくはない。“日常の身近な出来事を歌って共感を得る”というタイプではなく、文学的な知識に裏づけられた(彼女は大学でポストモダニズム文学を専攻していた)比喩表現を駆使しながら、独特の世界観を描き出すスタイルだからだ。

しかし、じっくりと楽曲に向き合ってみると、その独創的な言葉遣いと奥深いメッセージ性に驚かされることになる。例えばアルバム『自由律』に収録された「大予言」には“汚れた海から怪物がうまれる”“捨てられた戦車で猫が産まれる”といったフレーズが並んでいる。



一見すると寓話的な世界なのだが、楽曲が進むにつれて、それが単なるファンタジーではなく、リアルな現実に根差した表現であることがわかる。現実社会をそのまま描写するのではなく、豊かな想像力と語彙力によって、さらに奥深い歌詞の世界を表出させる──これこそが黒木渚の真骨頂なのだと思う。

さらに特筆すべきは、彼女の音楽に含まれるエロティシズムだ。“君に股がって旅をする”と歌う「白夜」、情事の後の風景を詩的に映し出す「枕詞」。これらの楽曲からは、上質の性表現がたっぷりと感じることができる。

相変わらず子供向けのラブソングばかりが目立つ日本のシーンにおいて、大人の性愛を上品に表現できる彼女の存在はきわめて貴重だ。

2016年8月に咽頭ジストニア(無意識に筋肉が動くなどの症状が見られる神経系の疾患)によって活動休止、その間に初の小説単行本『本性』を発表した黒木 渚は、この秋、ついにシンガーソングライターとして復帰を果たした。

復帰作となるシングル「解放区への旅」は“孤独は宇宙だ 真空で息もまともに吸えない”から始まり、“はがゆさも悲しみも喜びも/噛み締めて/今を生きる”というフレーズで終わる。



これまで以上にストレートな歌詞からは、この先の音楽人生に対する覚悟と決意が伝わってくる。彼女の楽曲に込められた文学性、ライブにおける圧倒的な表現力に惹かれ続けている筆者(年上のおじさん)も当然、黒木 渚のあらたなキャリアをフォローしていきたいと思う。

TEXT BY 森 朋之

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【黒木 渚 チャンネル】