「私が以前率いていたPSGは、いまやヨーロッパのなかでも最も大きなビッグクラブになりました。昨夜のバイエルン戦をみなさんがご覧になったかはわかりませんが、非常にレベルの高い試合でした」
 
 傍らの手書きの大きな紙には、ポゼッション率が37.6%―62.4%、パス本数が368本―568本、シュート本数が12本―16本と主なスタッツではPSGが劣っていたことが示されていた。それでもバイエルンに圧勝した理由を、こう熱弁した。
 
「ポゼッション率やパス本数ではバイエルンが圧倒していました。しかし、デュエルの成功率ではPSGが上回りました(57.4%―42.6%)。そして結果は、PSGの決定力の高さもあり、3-0でした。繰り返しますが、ポゼッションのみではまったく意味がありません。モダンフットボールではゲームコントロールを準備しなければいけません。引いてブロックを作り深い位置で守るのもひとつのやり方で、バイエルン戦のPSGはそれを利用しました。ネイマールやカバーニなどのプレーが生かされる形です。ネイマールは天才であって、別枠で捉えるべきですがね」
 ポゼッションよりもデュエルが大事だと実例を挙げて説明したハリルホジッチ監督は、さらに次のように続けた。
 
「デュエルについても以前から言っていますが、地上戦、空中戦の両方で重要です。昨夜の試合を観て、この一戦を説明しながら私の考えを伝えたかった。日本のサッカーは日本人選手の特長を生かした独自のアイデンティティーを築くべきです。私にとって重要なのは、デュエルとスコアです。唯一の真実は結果です。伝わったかどうか分かりませんが、お話したかった」
 
 18分間にも及んだこの独演会。しかも、メンバー発表を終えた最後にも、改めてこう語る徹底ぶりだった。
 
「ポゼッションが高いチームが勝つというのは正常ですが、私はポゼッションが高いから勝つのだと思っていない。モダンフットボールではそれと違った側面もあります。ポゼッションが高ければ勝てるという罠に、日本のサッカーは陥ってほしくない。A代表だけでなく、アンダー世代の監督やコーチにもしっかりこのメッセージを伝えたいと思います。多くの指導者がポゼッションに対して、脅迫観念に近い気持ちを持っている。それだけがすべてではない、それだけが真実ではないということを理解してもらいたいと思い、私の意見を伝えています」
 
 記者会見ではえてして独演会になりがちなハリルホジッチ監督だが、メンバー発表前の18分間という長さはやはり異例。日本の“ポゼッション至上主義”に、よほど警報を鳴らす必然性を感じていたのだろう。