オーバメヤン(下)との連係も十分に機能している。昨シーズン、デンべレがチームにフィットするのも速かったが、フィリップはそれ以上であり、早くも不可欠な存在となりつつある。 (C) Getty Images

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 フライブルクからドルトムントに2000万ユーロ(約25億6000万円)で移籍したマキシミリアン・フィリップは、その素質の高さを認められてはいたものの、こんなにも早くチームにフィットし、すぐに素晴らしい活躍を見せると、一体、誰が思っただろうか。

 そもそも、今シーズン開幕前のスタメン候補にフィリップの名前はなかった。
 
 ウスマンヌ・デンベレ、アンドレ・シュールレ、クリスティアン・プリジッチ、そしてマリオ・ゲッツェ……。これらの選手が万全の状態でシーズンがスタートしていたら、フィリップがバックアップメンバーの域を超えることはなかったかもしれない。
 
 ところが、デンベレがバルセロナを新天地に選び、シュールレは負傷で離脱。そしてゲッツェに関しては、ここまで中盤で起用されている。
 
 こうして出場機会を得たフィリップだが、序盤の数試合では、相手の隙を衝いて動き出しても、味方選手とのタイミングが合わず、良いかたちでボールを貰えない場面が少なくなかった。
 
 目に見える結果を出そう、という焦りがなかったわけではないだろう。クラブがアンドリー・ヤルモレンコという、直接ポジションを争うライバルを獲得したことを、意識しないわけがなかった。
 
 そんなフィリップを、ブンデスリーガ第4節ケルン戦でのゴールが重圧から解放した。
 
「解き放たれたよ。チームは僕を、いつもサポートしてくれている。そして自信も出てきた」
 
 この試合でドルトムントでのファーストゴールを含む2得点をマークすると、6節のボルシアMG戦では縦横無尽の動きで味方からのパスを次々と引き出し、2得点1アシストの大活躍を見せた。
 
 味方選手と入れ替わるようにスペースに飛び出すタイミングは秀逸で、チャンスメイクからゴールメイクへと関わっていく。ピエール=エメリク・オーバメヤンやヤルモレンコとの連係も日に日に良くなり、それぞれがスペースを作り、使い・使われる関係性が出来上がってきている。
 
 フィリップは、王道の育成ルートを歩いてきた選手ではない。
 
 17歳までは、ベルリンにあるTeBeベルリンというアマチュアクラブでプレーをしていた。ある時、バイエルンが面白い選手がいるという噂を聞きつけ、フィリップをU-19チームの練習に招待したことがある。だが、うまくいかなかった。当時のことを、彼はこう振り返る。
 
「トライアルの時は軽い肉離れを負っていて、結局、話はダメになってしまったんだ。全てそうなるようになっていたのかな? と、今にして思うんだ」
 その後、エネルギー・コットブス、フライブルクのU-19チームを渡り歩いたフィリップは、技術の高さを認められながらも、まだ肉体的に華奢で、精神的にも大人しい青年だった。
 
 それが、U-23チームで心身ともに鍛えられ、少しずつ逞しさを増していく。そして2014年4月5日のシュツットガルト戦、フィリップはついにプロデビューを飾った。
 
 フライブルクの監督、クリスティアン・シュトライヒは、その才能を認め、3年間、継続的に起用。フィリップはその期待に応え、欠かすことのできない主力選手へと成長し、3シーズンで88試合出場・18得点23アシストの成績を残した。
 
 昨シーズンは25試合に出場して9得点3アシストの活躍を見せ、フライブルクを7位へ押し上げている。
 
 フィリップの最大の魅力は、そのキック精度の高さ。難しいセンタリングでも正確にボールを捉え、角度のないところからでもゴールマウスを射抜く。ドルトムントのミヒャエル・ツォルクSDは、「シュートの正確性に関してはマルコ・ロイスのようだ。うちのチームでもベストのひとり」と絶賛している。
 
 ボールを持った時の懐が深いのも特徴だ。リズムが独特で、相手守備に飛び込ませる間を与えないのも面白い。狭いスペースでもバランスを崩さずに抜け出し、シュートまで持ち込む動きは一見の価値がある。
 
 まだまだ独りよがりなプレーが多く、粗削りであるのは改善点だが、見ていてとてもワクワクさせられる選手だ。
 
 ドイツ・サッカーのレジェンドで、元バイエルンSDのマティアス・ザマーも、「遅かれ早かれ、ドイツ代表に入ってくる選手だ」と、フィリップの今後の活躍に太鼓判を押している。
 
 またひとり、ドイツ代表のポジション争いをさらに激化させる選手が登場してきた。
 
文:中野 吉之伴
 
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。