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●テクノロジーが変える教育産業

教育のICT化が急がれている。授業でのタブレット端末・PC活用、プログラミング教育、リモートによる授業など、民間・自治体・政府などが強力に取り組みを推進。そうしたなか、「EdTech」(エドテック)というワードが注目され始めている。

ちなみにEdTechとは、「Education」と「Technology」を組み合わせた造語。すでによく耳にすることが多くなった、金融でのICT活用「FinTech」と同じ論理で生まれた言葉だ。同様のワードは、「AgriTech」(農業)、「HelthTech」(医療・健康)、「FoodTech」(食)、「LegalTech」(法務)といったように、多くの産業で使われ始めている。このようなワードを総称して「X-Tech」と呼ぶ。

○海外で先行するEdTechの事例

さて、このEdTechの持つ可能性について、デジタルハリウッド大学大学院 教授 佐藤昌宏氏が解説した。

EdTechを簡単に表すと「デジタルテクノロジーを生かした教育イノベーション」ということ。佐藤氏によると、すでに海外ではEdTechによる教育事例が数多くあるそうだ。

たとえばMOOC(ムーク)と呼ばれるオンライン講座。一流大学の動画講義が受けられ、しかも基本的に無料ということもあり世界中に広がりをみせている。なかには、16歳のモンゴルの少年が、一握りしか100点を取れないテストで見事に満点となり、その才能が認められてMITの特待生になったという。

また、スタンフォード大学やハーバード大学よりも狭き門といわれるミネルバ大学では、オンラインで学生のディスカッションが行われている。世界7カ所に寮があり、その学生たちが海を越えて舌戦を繰り広げる。その際に、学生の発言回数を記録し、発言内容の“質”も分析されるという。なお、この分析のアルゴリズムは公開されていない。

「このようにEdTechにより、経済格差や環境的格差、地理的格差を埋めることができます」と、佐藤氏はそのメリットを語る。

●入試が不要になるかも知れないEdTech

また、ビットコインで注目された「ブロックチェーン」を教育に活用する動きがあるという。ブロックチェーンは、分散型ネットワークに公開鍵暗号などを組み合わせることで、記録改ざんや不正取引を防ぐ技術で、おもにFinTech領域で注目されている。

そのブロックチェーンを教育に生かすとはどういうことか。佐藤氏によると、これまでの学習履歴をブロックチェーンで記録するのだという。つまり、改ざんできない学習履歴記録が残るということだ。

佐藤氏は「どのような学習を行い、どのような成績なのか改ざんできない記録が残ります。つまり、入学試験などが不要になるということです。これまでの入試では、極端なハナシ、カンニングに成功すれば合格できました。ですが、改ざんできない学習記録があれば、本当の実力が示されますので試験が不要になります。同様に卒業もです」と、教育にブロックチェーンを活用した際の可能性を語る。

教育産業は、全世界で自動車産業よりも規模が大きい約400兆円の市場だという。とはいえ、その市場の大半をまだまだ“アナログ”が担っている。そこにEdTechが急速に普及すれば、“入試・卒業なし”といったような“破壊的ともいえるイノベーション”が巻き起こるかもしれない。

○日本のEdTechプレーヤーは?

では、日本のEdTechはどのような状態か。教育にデジタルテクノロジーを生かす取り組みは、ベンチャーを中心にプレーヤーが増えている。その状況について、Studyplus 代表取締役社長 廣瀬高志氏が解説した。

日本のEdTechプレーヤーは、さまざまなカテゴリに分類でき、着実に増え続けているが、それぞれのカテゴリで課題があるという。たとえばStudyplus自体、どのくらい学習したのか、勉強時間の累積時間はどのくらいかといったことをチェックする学習管理アプリ。現在、学習管理の難しさから、学習に対するモチベーションを維持できなくなっている生徒がみられるが、こうしたアプリを活用することである程度サポートできるという。だが、まだまだこうした機能を利用する教育機関は少ないのが現状だ。

そして、冒頭で述べたように、多くの産業にX-Techと呼ばれるようなテクノロジーが浸透してきている。そうした状況のなか、深刻になっているのがエンジニア人材の不足だ。小学校におけるプログラミング教育必修化が義務づけられたが、まだ緒に就いたばかり。プログラミング学習に関わるEdTechをいかに浸透させるか、急がれるところだろう。

ここまで、EdTechに関する先進事例や日本の現状について解説を受けたが、ほんの少しばかり引っかかることがある。それは、“学びの場”は学力向上のためだけにあるのか、ということ。友人と無駄話をしたり部活に打ち込んだり、コミュニケーション能力を高め協働性を磨く場でもある。EdTechに100%傾倒してしまうと、完全個人主義の学習となりかねなく、“人とのつながり”がおろそかにはならないか……。塾や自習ならばよいが、公共教育の場にEdTechをどのくらい活用するのか、バランスが難しいと感じた。

そしてもう一点。これは完全にどうでもよいくだらないことだが、EdTechのワードを聞いたとき「江戸テック」というのを連想した。今はなき東京・多摩地区のテーマパーク「多摩テック」の派生のようで、少し和んだ(笑)。

●過疎に悩む自治体こそEdTech活用を

さて、しょうもないダジャレはさておき、EdTechによるひとつの可能性を示す事例が紹介された。それは、過疎に悩む地方の教育機関での活用例だ。それについて、まちなか鳳雛塾 アドバイザー 熊野謙氏が解説した。

石川県・能登町も過疎に悩む自治体のひとつ。教育を必要とする子ども世代が激減し、それにともない学校の統廃合が進んだ。もともと農業系だった能登高校に水産系高校が統合されたが、最初は多様な一次産業を学ぶ高校として期待された。

○町営塾の開設で“高校魅力化”

ところが、町内の中学校からは町外の高校に進学する生徒が目立った。これは、一次産業を学ぶよりも確実に大学進学を目指せるほかの高校に人気が傾いたからだ。そこで、能登高校では学校内に公営塾を設置。大学進学を目指せる環境を整えた。さらに公営塾を発展させ、高校の外に町営の「まちなか鳳雛塾」(ほうすうじゅく)を開校。町内中学校からの進学者を増やすことに成功した。

ただ、大きな問題がある。大学進学のための専門知識を持った指導者が不足しており、映像授業に頼らざるをえない。ただ、映像授業では生徒の学習進捗状況や理解度を把握するのが難しく、適切な指導につながらない場合も考えられる。

そこで、前出したような学習管理アプリを導入。映像を使ったリモート学習をサポートする体制を強化した。また、能登町は平成の大合併で生まれた広い自治体のため、通塾に難がある生徒の指導にも効果があるという。

地方の自治体にとって“高校魅力化”は、ひとつのテーマだ。高校に生徒が集まらず廃校となってしまうと、子育て世代がその自治体にとどまらず、さらなる人口減少となり、中学校や小学校の統廃合におよぶという悪循環につながる。EdTechをうまく活用すれば、高校魅力化の一助になるかも知れないが、地方の教育機関には長いこと続いた“保守的な教育”にこだわる指導者も多く、なかなかICT化が進まないところもあると聞く。

冒頭の佐藤氏は、こんな表現をしていた。「100年前の医師と学校の先生が現代にタイムスリップしてきた場合、医師は施術を行えないだろう。だが、先生は授業を行える」。昔の医師は先端の医療機器は使えないが、先生は黒板とチョークがあれば授業できるというたとえだ。やはり、教育現場のイノベーションは早急に進めるべきだろう。