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宮城県名取市で家族4人が東日本大震災での津波の犠牲となり、遺族が市に損害賠償を求めている裁判で、仙台地裁の裁判官が9月21日、現地を視察した。

報道によると、視察には裁判官3人に加え遺族側、市側の関係者が同行した。家族が被災した閖上地区を一望できる丘や住民の避難ルート、地震発生直後に故障し鳴らなかった防災無線などを確認したという。

裁判官が実際の現場に足を運んで視察するというのは珍しいように思えるが、何のために行うのだろうか。その結果は判決にどのように影響してくるのだろうか。裁判官をしていた経験がある尾崎康弁護士に聞いた。

●裁判官が事件をより理解するために行われる

「裁判官は多くの事件を抱えており、半日あるいは一日を費やして現地に出かけることはなかなかできません。現地に行くかわりに、証拠として出された現地の写真やビデオを見て済ませることが多いと思います」

尾崎弁護士はそう話す。ではなぜ現地視察は行われるのだろうか。

「事件を理解するために裁判官が自分の目で現地を見ることは有益です。当事者から裁判官に現地を見てほしいという強い要望が出されることもあり、これに応えることは裁判所の判断に対する当事者の納得を得ることにもつながります。そのため事件によっては裁判官の現地視察が行われます」

現地視察はどの段階で行われるのか。

「現地視察の時期は、普通、争点整理が終盤を迎えるころでしょう。というのは、第1に、せっかく行く以上、残さず見るようにしなくてはいけません。そこで、争点整理で当事者の主張が出尽くし、見るべきところを的確にリストアップできてから行くわけです。

第2に、あまり早い時期に裁判官が見ても、その裁判官は解決までの間に転勤してしまうかもしれません。そこで、争点整理も終盤となり、後は、集中証拠調べをして結審し判決を出す、あるいは、和解を目指すという解決間近の段階になってから、現地を見るのがよいことになります(もっとも裁判官はいつ突然に転勤するかわからないのですが)」

●原告や被告が報告書にまとめて証拠にすることも

現地視察した結果は、裁判で証拠として使われるのか。

「現地視察も法の根拠が必要ですが、よく用いられるのは『進行協議期日』(民訴規則95条1項)として視察する方法です(現地進行協議)。この方法によると、現地で裁判官が見聞きしたことについての詳しい調書は作られません。裁判所としても負担が軽く採用しやすい手続です。

進行協議期日で見聞きした内容については、原告・被告が写真やビデオに撮って報告書にするなどして書証として提出すれば、判決に用いることのできる証拠となります」

他にはどんな方法があるのか。

「現地で見分した結果を裁判所書記官が詳しい調書に残さなければならない「検証」(民事訴訟法232条)という手続きがあります(現場検証)。これは、その場での見分自体が証拠調べです。検証は裁判所にとっての負担が大きくなります。私は書記官もしていたことがありますが、検証調書には測量をした図面などもつけなければならず、作るのに苦労しました。

そのほかに『和解期日』を用いても、裁判官が現地を視察することができます(現地和解)。これは和解(民事訴訟法89条)の協議の一環として現地を見るわけです。このときも詳しい調書は残しません。和解協議の段階に入ったならば利用できる手続です」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
尾崎 康(おざき・やすし)弁護士
早稲田大学法学部卒業後、裁判所事務官・裁判所書記官として勤務。平成9年に弁護士登録。平成16年〜平成21年は地裁の裁判官として勤務(民事担当)。平成21年に弁護士再登録。現在、尾崎法律事務所(さいたま市浦和区)所長。
事務所名:尾崎法律事務所
事務所URL:http://www.ozaki-law.in/