駅のホームを眺めていて気付くことがあった。関西の主要鉄道駅のベンチの角度が殆どすべて変わっていたのである。それもある時期一斉に、ベンチの角度が列車進行方向に対して直角になった。どこかの駅だけ、どこかの路線だけ、というような変わり方ではない。気づいたら一斉に変わっていたのである。筆者が気づくのが遅いのもあったかも知れないが、それにしてもなぜだろうか?

【こちらも】関西の鉄道20社局「お酒の失敗。駅でも気をつけよう」キャンペーンを実施  調べてみたら、酔っ払いの線路への転落防止対策ということだった。線路への転落事故の60%がベンチからそのままホームの端に向かって歩き転落するものだったことが、ビデオ画像を大量に集めて分析したところ分かったのだという。JR西日本の管内である北陸でも見られるこの対策、首都圏でも一部に見られるというが、ホームドアの設置が進んでいる首都圏では限定的だ。

 安全への対策にたった一つの答えはない証と云えるかも知れない。ホームドアを設置して線路に落ちようがない環境を作るのが恐らくは万全の対策なのだろう。しかし、すべてに抜け落ちなくホームドア設置をすることは費用と時間がかかる。すぐに打てる手を、限られたリソースの中から割くやり方、それも徹底した事故要因の分析から得られたちょっとした工夫一つで、安全確率を上げるこの対策に寧ろ拍手を送りたいと思うのである。

 タテのものをヨコにするやり方で解決するのは、碁盤の捉え方に繋がる。街づくりが碁盤の目から入っている旧都の跡があちらこちらに残る関西の街並みの中に暮らしていると、自然に浮かぶ発想なのかも知れない。大阪の本町で、東西にまっすぐ約1km延びた船場ビル内に、繊維問屋が縦横、上層階に向かって区画整理されて並んだ姿からも、タテヨコの網目に何かの意味、意図を持たせる方法を連想させるのである。ベンチを直角にした酔っ払い転落防止の安全対策から、地政学の裏付けを取ったユニークで実効性の高い安全対策の在り方に鉄道事業が今後光って行くであろう将来像の一端を見出した、と言ったら言い過ぎだろうか。

 なお、このベンチはちょっとした擬似会議場にも使えるほどよくできた構造である。差支えないときに打合せに使って試されてみることをことをお勧めしたいとも思うのである。