金正恩氏

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韓国政府が国連児童基金(ユニセフ)と世界食糧計画(WFP)からの要請を受け入れ、北朝鮮に対する人道支援に800万ドル(約9億円)を拠出することを決定したことが、波紋を呼んでいる。支援をめぐり、韓国国民の6割以上が否定的に見ているという世論調査の結果もある。

一方、北朝鮮は韓国の発表に一切反応していない。しかし、国連総会に出席するために訪米している北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は国連に対して支援を要請しており、これに対しても韓国から非難の声が出ている。

空から汚物が

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、国連開発計画(UNDP)の関係者は、「国連駐在の北朝鮮代表部の要請で22日に李外相一行に会い、UNDPの対北朝鮮支援プロジェクトについて議論を交わした」と明らかにした。ユニセフの関係者も、日程は特定しなかったものの、李外相との面談を認めているという。

核・ミサイル問題をめぐり米国や国連を非難しているにもかかわらず、国連に支援を求める北朝鮮のこうした姿勢に対して、韓国の大手紙・朝鮮日報は「物乞い外交」と非難した。

支援を要請しているということは、北朝鮮がいまだに慢性的な経済難から抜け出せていないことを認めたことになる。北朝鮮への人道支援が、1990年代の未曾有の大飢饉「苦難の行軍」から20年以上続いていることからもそれは明らかだ。

それでも金正恩党委員長は、地道に国民経済を発展させることよりも派手な見かけ重視の経済成果を最優先する。

その代表例が平壌市内の高層マンション街だ。金正恩氏は、2015年には「未来科学者通り」、今年には「黎明(リョミョン)通り」という高層マンション街を完成させたが、いずれも今の北朝鮮の経済事情からすれば分不相応な大型ハコモノ事業だ。それだけでなく、完成した高層マンション群は見かけは立派だが、電力不足でエレベーターが満足に稼働せず、トイレ事情も最悪というほど、中身が伴っていない。

(参考記事:空から汚物が…「金正恩住宅」のトイレ問題が深刻

労働者を虐殺

金正恩氏の歪な経済政策から取り残され厳しい環境に置かれているのが、乳幼児などの脆弱階層なのだ。

人道支援に関しては、支援物資が本当に必要とされる人の元に届かないという懸念もある。北朝鮮当局が物資を没収し市場に横流しすることもあり、断腸の思いで人道支援に異を唱える脱北者もいる。

それでも国連の各機関は、北朝鮮の乳幼児など脆弱階層に対する支援事業を根気よく行っている。ユニセフの発表によると、北朝鮮では約495万人の乳幼児が人道支援が必要な状態に置かれているという。こうしたことから、2017年上半期に、児童170万人にビタミンA、虫下し、栄養粉を支給し、4万人の重度の栄養失調の子供と急性栄養失調の子供に対して治療を行っている。

米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、ユニセフ関係者の話として、米国のオバマ前政権が、昨年北朝鮮を襲った水害被災者に対する人道支援として100万ドル(約1億1200万円)を拠出したと伝えた。国連食糧農業機関(FAO)は北朝鮮の住民170万人を対象に栄養強化食品を支給する食糧支援事業を行っている。

北朝鮮に対する人道支援には、韓国だけでなくスウェーデン、ロシア、スイス、ドイツ、カナダなど世界各国が予算を拠出していた。

しかし、核実験、ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮に対する反発から世界各国が拠出を中止した。支援事業は資金不足に陥っており、各機関は予算不足を訴えている。それでも、アイルランドは8月に農業分野の支援に600万ドル(約6億7300万円)を拠出することを決めた。

支援しようとする国家は存在するが、金正恩体制が無謀な挑発で躊躇させている。

結局のところ、北朝鮮の体制は国民の窮状など二の次なのだ。大飢饉のさなかで、自国民が食糧調達のために下した英断に対して粛清や虐殺で臨むのが北朝鮮の独裁体制なのである。

人道支援には様々な問題が含まれている。それでも筆者は北朝鮮に対する人道支援の道を探るべきだと考える。もちろん、慎重にタイミングや手段を選び、そして本当に必要な人々に支援物資が届いているのかを徹底してモニタリングすることは必要だ。そうしたなかで国際社会が「北朝鮮の人々のことを見捨てていない」というメッセージを伝えることがなによりも重要だ。