無責任な飼い主に飼われていたくーちゃん。ただでさえ病気で不安なのに、そんな状態のまま病院に置き去りにされた寂しいワンコのお話です。

夜間に救急の電話

深夜2時に夜間の動物救急の電話が鳴りました。「急に痙攣を起こしたので今から診てほしい」そんな夜間救急の動物病院ではよくある診察依頼の電話でした。

すぐに連れて来て下さいと伝え、今から用意して30分ぐらいで行けるとの事でした。夜間救急では痙攣を起こして倒れる子の診察はよくある事でした。急に愛犬が発作で倒れる状況は、飼い主さんにとって不安な状況です。冷静でいられない人が多く、焦って早口で今の状況を伝えてきてこちらの伝えたいことが伝わらなかったりすることが多いのですが、何故かその時の飼い主さんはとても冷静で道案内の際も後ろで笑う声が聞こえていた事に違和感を覚えました。

違和感

30分後飼い主さんが犬を連れてきました。まだ痙攣は続いています。すぐに中にいた獣医師と看護師が処置に入り、私は待合室にいる飼い主さんに問診票を渡し記入をお願いしました。電話で感じた違和感は間違いだと思うぐらい見た目は普通のどちらかと言うと愛想のいい若い夫婦です。

ミニチュアダックスの男の子で名前は「くーちゃん」と書かれていました。年齢の所が空欄だったので年齢を確認すると、「譲ってもらった犬なので年齢は解りません」と言われました。
何年ぐらい飼っているか尋ねると「たぶん5年以上かな?」と曖昧な答えでした。自分の愛犬の年齢が解らないなんてと思いましたが、譲ってもらった犬なら仕方ないかなと思いましたが、1番気になったのは問診票を書くのにすごく時間がかかり一度病院の外に出て二人で何か話をしながら外で問診票を書いていました。

狂暴な犬?

やっと書きあがった問診票を獣医師に渡すために処置中の部屋に入ると、薬が効いたのか痙攣は治まりつつありました。その時、私は初めてくーちゃんをじっくり見ました。キレイなクリーム色のダックスなのに、あばらは浮き出るぐらい痩せており、体はおしっこで黄色くなり爪も延び放題で毛玉だらけでした。体からは糞尿の臭いが漂い、素手で触るのを躊躇う位の状況でした。

電話で感じた違和感はこの子をみてわかりました。全く世話をされていないひどい状態でした。飼い主さんに入ってもらい、今の状況をお話し入院させた方が良いと伝えると、「是非お願いします!」とすぐに返事されました。「普段この子狂暴で触れなくて体が汚れていてすいません」と言われました。確かに触らない子なら汚れている事もあるかとも思いましたが、痙攣も治り薬で眠っているくーちゃんでしたが狂暴な犬にはみえませんでした。

迎えにこない飼い主

お預かりの際その時働いていた夜間では同意書の記入をお願いをしており、その際内金として1万円を先に頂くことになっていました。ですが、「急いでいたので今5千円しかなくて。今から急いで取りに帰ってきます。すぐ近くなので」と言われました。住所をみると近かったのでそれでは、とお願いしました。なんと、それが最後の姿でした。

いくら待っても飼い主さんは来ません。電話をかけると、別の人の携帯電話でした。家の電話にもかけてみると「現在使われておりません…」と、アナウンスが流れました。

朝になっても次の日になってもくーちゃんの飼い主は来ませんでした。先生が書かれた住所に行ってみましたが、その住所は工場の駐車場でした。警察にも保健所にも届けましたが全て嘘なので捕まえようがないと言われ、私はあの時何でもっと確認しなかったのかとあの時の自分の行動を悔やみました。違和感を感じていたのに、私の責任です。

普段は夜間救急では必ず朝にはかかりつけに行ってもらいますが、迎えの来ないくーちゃんは例外として、そのまま夜間でお預かりし、処置した先生が付きっきりで様子をみてくれたお陰で、発作も治まり普段の様子に戻りました。
飼い主さんが言うような狂暴性は全くなく、頭を撫でてもらうのが好きな甘えん坊な子でした。全てが嘘で、本当の事は何もありません。あるのは置き去りにされたくーちゃんという存在だけです。

同意書に書かれていること

お預かりする際、同意書を必ず読んでもらいます。同意書の最後の一文には

「お預かりした動物を連絡もなく迎えに来ない場合は警察または保健所にお引き渡しします」

と書いてあります。
それを読んだはずなのに迎えに来ないのは、飼う責任を放棄するだけでなく、殺処分という責任さえも私達に預け、あとは知らないということです。無責任過ぎて、腹が立つというより呆れました。

本来なら警察に引き渡し、保管期間を過ぎれば保健所へ連れて行かなければいけません。しかし、それは出来ませんでした。私は自分が預かった事もあり、私が里親を探すかいなかった場合自分で飼うつもりでいました。でも幸運な事に処置した先生の知り合い方が丁度犬を飼いたいと言っており、先生の話を聞いてくーちゃんを迎えてくれると言ってくれました。

くーちゃんの発作の原因は癌からきていたので、新しい飼い主さんの所では半年も生きれませんでしたが最後は新しい飼い主さんに見守られ穏やかに亡くなりました。

最後に

くーちゃんの事もあり、お預かりするときは必ず飼い主さんの免許証のコピーをとり内金がなければ預からない事になりました。お願いする際、連れてこられた人全てを疑っているような嫌な気持ちが残ります。でもそうするしかありません。

動物愛護法では「愛護動物を遺棄した者は、百万円以下の罰金に処する」と書かれています。ただそれは誰が捨てたかわかった場合です。解らなかった場合、捨てられた犬は殺処分され飼い主は何も罰を受けないまま普段の生活に戻ります。それが今の法律です。

くーちゃんは助かりましたが、以前勤めていた病院の先生が昔働いていた病院では、同意書通り警察に引き渡していたそうです。そうしないと病院の入院室にも限界があり、重病な子が入院出来なくなります。いつになれば無責任な飼い主が減るのでしょうか。責任ある飼い方を出来なければ飼えないような社会になるようそう願うしか私には出来ません。