戦術的にもハマったオーストラリア戦で、ロシア行きを決めたハリルジャパン。日本のスタイルは世界でも勝てる可能性を秘めているが、その確率を高めるには多くのことをクリアする必要がある。 写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

写真拡大 (全2枚)

 ロシア・ワールドカップ出場を決めたハリルジャパンだが、世界の強豪と渡り合えるのだろうか?
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、選手に「戦闘力」を求める。戦闘力とは、単純な体力、走力のインテンシティーに置き換えられる。
 
 選考メンバーにはフィジカルプレーヤーが圧倒的に多いが、どれだけ闘争心を見せられるか、気迫の部分も問われる。原口元気、井手口陽介らはまさに「ハリルの申し子」と言えるだろう。
 
「デュエル」(1対1の球際)
 
 その一言で、ハリルホジッチは選考基準を端的に表現する。まずは個で負けないことが基本。「1対1」には、相手のマークを剥がし、ゴールに迫る、という攻撃的志向より、「相手に好きにさせない」という守備的志向に発想の出発点がある。
 
 いわゆるリアクション戦術だ。
 
 相手がボールを持っていることが前提。それを“狩る”わけで、強度と連係が最重要となる。その帰結として、できるだけ迅速に少ない手数でゴールに迫る。トランジッションで一気にアクセルを踏むのだ。
 
「前線からボールを追い、攻撃的に出ています」
 
 そんな表現がテレビ解説でされるが、フットボールにおける「攻撃的」は、ボールを敵陣で握り、ゴールに迫ることを指している。「積極的な守備」ではあっても、ボールを追うことは攻撃的ではない。それはあくまで、守備戦術のひとつである。
 
 では、戦闘力の高い選手を集めたリアクション戦術で、日本は世界の強豪に勝てるのか?
 
「ハリルホジッチの受け身の戦術は、相手が強い方が有効に働く」
 
 協会関係者からは、そんな意見も漏れ聞こえる。その一面は、間違いなくあるだろう。
 
 事実、ハリルジャパンはW杯出場の常連のオーストラリアとは、敵地でも本拠地でも、会心のゲームをしたものの、格下のシンガポールに引き分け、シリア、UAEには敗れている。ボールを“持たされた”試合では、しばしばノッキング……。真価を発揮できなかった。
 
 ただ、本当に強いチームが、格下に弱い、というはずはない。
 多様性、順応性に欠けることは、拭い去れない不安として残る。
 
 例えば、ハリルジャパンはボランチ(もしくはアンカー)の長谷部誠が抜けるだけで、戦術としてはほとんど機能していない。
 
 今年3月のUAE戦、タイ戦は、「勝っただけ」という試合内容。まともにボールをゴール前に運べていない。6月のイラク戦は、勝利すらもおぼつかなかった。W杯で戦う相手を考えれば、スパーリングパートナーとしても力量不足の相手に、凡庸な試合に終わっていたのである。
 
 ハリルホジッチ監督がリアクション戦術を選択することは、代表監督として当然の権利だろう。リアクション戦術が“絶対的な悪”というわけでもない。まずはデュエルにおいて勝利を、というのもひとつの発想だ。
 
 しかし、戦術を十全に運用するのには、要所にインテリジェンスの高い選手を配置する必要がある。さもなければ、たったひとつのデュエルで綻びが出ただけで、日本は逆境に立たされる。
 
 リアクション戦術の弱点のひとつは、先制されると苦しいという点にある。相手を待ち受け、そこに隙を探すだけに、(相手が)負荷をかけて攻めてきてくれなければ、活路を見出すことができないのだ。
 
「基準となる試合」
 
 ハリルホジッチ監督は、W杯出場を決めたオーストラリア戦について語った。ベースとしては悪くない。しかしW杯で対戦する相手は、ボールを握る力も、持ち運ぶ力も、こじ開ける力も強いはずだ。
 
 10月にはニュージーランド(6日)、ハイチ戦(10日)、11月には海外遠征が予定されている。
 
 どこが相手であれ、戦術の精度を上げる一方、バリエーションを試すことはできる。W杯に向け、ひとつの試合も無駄にはできない。

文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、今年3月にはヘスス・スアレス氏との共著『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』(東邦出版)を上梓した。