JOLEDの高精細ディスプレイ。こうした商品をどのように売り伸ばしていくのか、伊藤嘉明CMOのちからが試される(撮影:今井康一)

ジャパンディスプレイ(以下、JDI)は、2017年6月21日付けで、同社が15%を出資するJOLEDの社長を務める東入來(ひがしいりき)信博氏を兼務のままで会長兼CEOに迎え入れた。その上で8月9日に中期経営計画を発表。これは2014年の東証一部上場以来、一度も最終黒字化したことがない経営体質にメスを入れるものであり2019年度には、営業利益で400億円以上、営業利益率5%、フリーキャッシュフローで300億円以上を見込む。
9月27日、そのJDIに新幹部がやってくることが明らかになった。家電メーカーのアクア(前ハイアールアジア)で社長兼CEOを務めた伊藤嘉明氏だ。伊藤氏は、10月1日付けで執行役員チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)に就任する。
2年間のアクア社長在任期間中には、世界一小さい洗濯機「コトン」や「スター・ウォーズ」シリーズの人気キャラクターである「R2-D2」の原寸大冷蔵庫など、ユニークな製品を相次ぎ投入。短期間に黒字転換させた経営手腕は、「家電業界の風雲児」とも評された。伊藤氏はなぜJDIの経営に参画するのか、そして何を目指しているのか。伊藤氏を直撃した。

日本の企業には優れた技術がある

――なぜJDIの経営再建に参画することになったのですか。

それは、アクアの社長兼CEOの仕事を受けたときと同じ理由です。日本の企業には、優れた技術があります。私は、子供の頃から海外に住み、それを目の当たりにしてきました。日本の技術の高さを、ずっと誇らしく思ってきました。

しかし、その一方で、日本の企業を見ると、素晴らしい技術を生かし切れていない。生かし切れていないどころか、殺してしまっている。それがずっとジレンマだったのです。JDIも素晴らしい技術を持っていながら、生かせていない。だからこんな状態になってしまった。

アクアは、旧三洋電機の洗濯機および冷蔵庫事業を母体として設立した企業ですが、三洋電機時代から15年間赤字続きでした。しかし、技術は変わってないし、社員も変わっていないにもかかわらず、それが2年で黒字化しました。それはやり方次第なのです。JDIは、日立製作所、ソニー、東芝、セイコーエプソン、三洋電機、パナソニックという日本を代表する6社の液晶事業を統合してスタートした会社です。優れた技術者がいて、素晴らしい技術がある。その原石を磨き切れていないのがいまのJDIの姿です。

東入來さんと話をするうちに、これをなんとかしたいという気持ちが出てきました。そして、これを誰かがやらなくてはいけない。評論家や批評家のような形で、JDIを、外からああだこうだ言うのではなく、自分で中に入って、それをやろうと。私自身、「出る杭になれ!」ということを言い続けてきましたから、それを自ら実践しなくてはならない。そうした人が増えなくては、日本の企業も、日本の国も変わりません。日本の覚醒もできません。そうした意識を持って、JDIの経営に参画することにしました。


8月9日の会見での東入來信博会長兼CEO(撮影:大澤 誠)

――JDI入りは、東入來氏からの要請によるものですか。

ひと言でいえば、そうなります。50代後半や60代が役員を占めるなかで、47歳という最年少で、よそ者を入れることは、社内からの反発も想定されますが、それをわかっていて、私に期待してくれていることを感じました。

――なにが心を動かしたのでしょうか。

東入來さんの姿そのものです。話を聞くと、本気になってこの会社をなんとかしなくてはならないと考えていることがヒシヒシと伝わってきました。すでに、ビジネスマンとしても、経営者としても成功を収めた東入來さんが、69歳になって、わざわざ火中の栗を拾いに行く必要はありません。そうした立場であるにもかかわらず、JDIの再建に本気で挑んでいる。しかも、6社の文化を持った会社をまとめなくてはならないという苦労も伴うわけです。


伊藤嘉明(いとう よしあき)/1969年生まれの47歳。タイのバンコクで生まれ、米国オレゴン州コンコーディア大学マーケティング学士号及び米国サンダーバード国際経営大学院でMBA 国際経営学修士号を取得。その後、タイでの自動車メーカーのサーブを販売するオートテクニックタイランドでキャリアをスタートさせ、日本アーンスト・アンド・ヤング・コンサルティング、日本コカ・コーラ、米デル、米レノボ、アディダスジャパン、ソニー・ピクチャーズ エンターテイメントを経て、ハイアールアジアグループ(のちにアクアに社名変更)の社長兼CEOに就任した。主にBtoC分野での経験が長い(筆者撮影)

ただ、いくら 東入來さんでも、それを一人ではできない。私も、アクアで、同じ立場を経験し、一人では何もできないということを痛感していますから、話を聞いていると、嫌なことまでを含めて、まるで、デジャブーのように思い出されるんです。そうした東入來さんの姿を見て、私も一緒になって火中の栗を拾いに行くことを決めました。請われているのに行かないというのは、「卑怯」な気がしてしまったというのもありますね(笑)。そして、頭がすごく柔らかい方であり、人柄の良さ、人望の高さといったところも魅力でした。結構、波長が合う部分もあると思っていますよ。

――これは、やりたい仕事ですか。

確かに、東入來さんからお声がけをいただかなかったら、この会社に来ることはなかったですね。2016年3月にアクアの社長を退いてから、X-TANKコンサルティングを設立し、ベンチャー企業や中小企業などを対象にコンサルティング活動を行っています。これはすごい楽しい仕事です。もっともっとやりたいと思っています。しかし、いまやらなくてはならないのは、JDIの再建であると考え、この仕事に取り組むことに決めました。

短期間で結果を出さないと意味がない

――JDIへのかかわりは、時限的なもの?

私は、経営は短期間で結果を出さないと意味がないと思っています。30年、50年続く会社は素晴らしいと思います。ただ、長く留まって経営を担うのは、私の役割ではありません。アクアの社長兼CEOも2年契約でした。JDIも1、2年で結果を出さないといけない。

いや、JDIには時間が残されていないといったほうがいいかもしれません。6カ月、12カ月、18カ月、24カ月という期間で、それぞれに結果を示す必要があります。まずは年度内にどれだけの成果が出せるかが勝負です。一定の成果が出たあとは、中期的に見て、私の仕掛けたものが成長すればいいと思っています。


2014年6月、ハイアールアジアインターナショナル社長兼CEOとして取材に応じる伊藤嘉明氏(撮影:尾形文繁)

――X-TANKコンサルティングの仕事は休止することになりますか。

この活動は並行的に行っていきます。それは東入來さんにも認めていただいています。ただ、これからは力のほぼ100%をJDIに注ぐことになりますね。

――BtoC分野での経験が長い。BtoBとなるJDIで、その手腕を発揮できるのでしょうか。

アクアなどでの経験を見て、私のことをマーケッターであるとか、モノづくりのイノベーターである、というように言う人が多いのですが、私は、マネジメントが仕事です。アクアのときには、マネジメントを行うなかで、自らが広告塔の役割を果たしたほうがいい、あるいは、自分が表に出るべきだと判断したことで、前面に出ていたたわけです。私の強みは、ビジネスマネジメントです。企業再生もその仕事のひとつです。

改革の進捗状況を的確に伝えていきたい

――「経営のプロ」として、社長業にこだわっているのかと思いました。

今回は、執行役員 CMOという役職ですが、経営陣の一人ですから、基本的にやることは同じだと考えています。また、営業もマーケティングのひとつと考えていますから、各カンパニーの営業部隊と一緒になって、全体像を見ながらそこにも取り組んでいきたいですね。

また、執行役員でもありますから、営業、マーケティング以外でも、CMOというタイトルに関わらずに取り組んでいくつもりです。そして、CMOとしては、広報にも責任を持っています。いま、JDIの改革はどう進んでいるのかを的確に伝える必要があります。情報は積極的に公開していくつもりです。

――JDIでは、これまでの経験がどう生きますか。

8月頃から、中に入って見ていたのですが、JDIは、6社の文化が交じり合った会社ですから、余計な階層があったり、過去の会社の文化が絡み合っていたり、それによってしがらみが生まれたりというところに課題があります。これが、力を出し切れていない理由のひとつです。

私の役割は、社内にある「潰れては駄目な企画」を拾い上げることです。いい炎が着くはずなのに、なにかの理由によって、火が消されていたものを見つけ、それを炎にしていくことが役割だと思っています。また、JDIは、スピード感に欠けている部分があります。意思決定に対するスピードが、グローバル企業に比べると明らかに遅い。私は、米国企業や中国企業の意思決定の圧倒的なスピードを体験していますから、それをJDIの経営の中に持ち込みたいと思っています。

いまのJDIに一番欠けているのは、スピードです。そして、決定したことを実行に移すことに対する意識が低い点も課題です。決めたのはいいが、実行に移さない「オオカミ少年」のような状況が散見されます。しがらみがあって実行できないという部分がこれまでにはあったようですが、ここは、しがらみがない私が貢献できる部分ともいえます。大切なのは、決めたことでなく、決めたことをやって、なにが起こったかということなんです。そこを社内に徹底していきます。

――改革には痛みが伴います。「悪者になる」ぐらいの意識ですか。

個人的には嫌ですよ(笑)。でも、それが求められるのならば、「悪者」になります。経営というポジションは、好かれたり、人気者になったりする役割だけではありません。とくに、JDIのいまの立場は、好かれる、好かれないなどと言っている場合ではないんです。

産業革新機構の出資による会社ですから、そこには税金が投入されているわけです。最大の株主の期待に応えられていない状況にあります。応えるための体制、文化、姿勢を作りたいですね。

組み合わせで新たな価値観を生み出せる

――CMO傘下の組織づくりはどう考えていますか。

CEO直轄で、全カンパニーを横串にするマーケティング&イノベーション統括部を設置します。この組織は、フレキシブルに考えていくつもりです。海老名の開発設計部門に何度か足を運んで、技術を見せてもらったり、30〜40代の技術者や、50代の幹部とも話をしたりしています。

話をしていてわかるのが、技術者は自分たちの技術がどう生きるのかということに強い関心を持っているということです。そこで、私が考えていることを話すと、とても共鳴してくれるのです。いままでは、しがらみがあってできなかったことが打破できるようになると、期待してくれている技術者もいます。私が考えるイノベーションは、革命的なものではなく、いまあるものを、どのように組み合わせるかということです。組み合わせによって、新たな価値観を生み出すことができると考えています。


9月26日に行われた記者会見で、初めて登壇した伊藤氏は、「"第二の創業"を担うスピード改革」「モノ作りだけではないコト作り」「顔の見える企業コミュニケーション」をあげ、「これが私の役割である」と述べた。そして「第二の創業で掲げた『破壊と創造』のうち、創造の部分を受け持つことになる」とも語った(筆者撮影)

――JDIが目指す「コト作り」とは? ディスプレイのJDIがどうやってコト作りをするのか、ピンとこなかったのですが。

JDIは、世界最高峰の技術を持っている会社です。それを、部品として作り、これを完成品メーカーに納めてきたのが、これまでのJDIでした。しかし、こうしたモノ作りだけに留まらず、コト作りが、JDIのこれからの新たな方向性となります。

従来ならば、シーズベースやニーズベースで部品を納めるというスタイルでしたが、これからはウォンツベースでなにかできないのか、ということを考えていく企業に変わります。パートナー企業からのリクエストだけでなく、自らこんなことができるのではないかということを提案し、中長期のビジネスにつながるようにしたいと考えています。

もちろん、一朝一夕にできるものではありません。ただ、アクア時代には、IoTを活用した新たな可能性を追求しましたが、このときには社内のリソースが少なく、外部企業を巻き込んで製品開発を進め、IoTによるコト作りを行っていたのに対して、JDIを見てみると、アクアのとき以上にリソースがあり、もっと可能性があるということを感じます。

持っている技術はとにかく多い。私からすると15倍、20倍もできることがあると感じます。だから、すごくワクワクしているんです。

インターフェース屋に進化させたい

――たとえば、どんなものがありますか。

一例をあげれば、指紋センサーなどのセンシングを活用することで、これまでにはない「コト」が提案できると思います。IoTは、モノではなく、それがつながって、なにができるかが大切です。ディスプレイ屋がディスプレイを作るだけでは、やはりディスプレイという製品にしかなりません。しかし、ディスプレイに、センシング技術を組み合わせると、ディスプレイ屋が、インターフェース屋に進化するのです。

インターフェースの切り口を持つと提案力が広がります。ここでは、コンソーシアムを作って、大手企業からベンチャー企業までの幅広い企業を巻き込みながら、さまざまな応用を模索することもできます。むしろ、ここではベンチャー企業のスピード感を生かしたほうがいいと思っているくらいです。日本の覚醒に向けて、「この指止まれ」という仕組みを作ることで、アイデアを持ってきてもらい、一緒に、コトづくりを加速したいと考えています。

単に製品を作り上げるということだけでなく、サービスといった領域にもJDIは踏み出すこともありだと思っています。10月1日付けで、モバイルカンパニー、車載インダストリカンパニー、ディスプレイソリューションズカンパニーの3つのカンパニー体制としますが、このカンパニーに共通しているのは、いずれも部品屋のカンパニーであるということです。

私は、これ以外のビジネスが出てこなくてはいけないと思っていますし、次のステップでは、ソリューションカンパニーのような部品屋とは違う新たなカンパニーが、JDIの中に生まれてもいいのではないかと思っています。そのためのリソースが社内に少ないのであれば、外部の企業と組んでもいいですし、主導権は持たなくてもいい。そこに、JDIの技術、製品を提供することで、コト作りができると思っています。

――東入來会長兼CEOが打ち出した中期経営計画では、ノンモバイル事業の拡大、車載事業の成長、産業機器への取り組み強化、そして新事業の創出を打ち出しました。コト作りはこれに連動したものになりますか。

これはいま持っている技術や事業を対象にしたのものであり、コト作りは、これとは別の話になります。JDIがビジネスモデルを変えていくには、サービス提供、ソリューション提供といった新たな取り組みが必要です。私の役割は「創造」する部分。そこに全力投球していくことになります。