「MUSICA」(FACT)2017年10月号

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 9月13日と14日には、AAAのメンバーとして東京ドームで2デイズのコンサートを行ったばかりのSKY-HIこと日高光啓。

 8月19日には、自殺対策強化月間となる9月に先駆けて、こころの健康相談統一ダイヤルの電話番号「0570-064-556」をタイトルにした新曲を突如ユーチューブ上にアップしたりと話題には事欠かない。

 そんなSKY-HIが「MUSICA」(FACT)2017年10月号の表紙巻頭を飾りロングインタビューに応えているのだが、その内容が話題だ。

 このインタビューでは、左耳にある先天的な聴覚障害について語ったり、早稲田実業中学・高校および早稲田大学在学時代の思い出、ジャニーズ事務所在籍時の話など、これまで大々的には語られてこなかった逸話も多く語られている。

 そのなかでも、本サイト的にどうしても注目したいのはやはり、共謀罪が強行採決された6月15日のわずか5日後に突如ユーチューブ上で発表された曲「キョウボウザイ」についてだ。

 ツイッターに〈新曲ビート打ってラップしました。Trap系のビートいくつか作ってるトライアル中。主張に関しては曲の通り...否定とか肯定も無くはないけど、それ以前に可決へのプロセスがあんまりすぎてDAMN.〉との楽曲解説コメントが付けられて発表された「キョウボウザイ」はこういった歌詞の楽曲だ。

〈木曜日 朝4時(Morning)
 国民的行事(国会)
 色を変えた常識
 説明ならば放棄
 何らかの事情に
 何らかの理想に
 良い悪いの定規
 それで作るなんてホント正気?(DAMN.)〉

 本人がツイッターで〈可決へのプロセスがあんまりすぎて〉と語っている通り、楽曲冒頭では法案の採決にいたるまでの過程を批判。共謀罪をめぐる国会運営で改めて浮き彫りとなった安倍政権の強権的な姿勢に異議申し立てをしている。そして、この後、ラップはさらに具体的なトピックに踏み込んでいくのであった。

〈燃えた家計簿に(加計)
 火消しをするように
 木で隠した森(Friend)
 丸出しでソーリー
 シンゾウには毛が生えて
 舌の数は無尽蔵
 HP残り36ポイント(支持率)
 保護するのは秘密の方で
 テロと五輪 歪なコーデ
 組み合わせて出来た
 それで治安維持しようぜ〉

「"心臓"と"晋三"」や「"Sorry"と"総理"」などダブルミーニングのオンパレードで、森友学園のことを「木で隠した森(Friend)」と表現するなど、ヒップホップらしい言葉遊びに溢れている。

 スキャンダルの火消しのための強行採決であったこと、安倍首相の答弁は嘘に嘘を塗り重ねていること、テロや五輪など後付けの理由が次々と付け加えられ何のための法律なのかさっぱりわからなくなっていったことなど、ここでラップされている主張はすべてその通りで、まさに「痛快」と言うほかない。

 そして、1分40秒にわたる怒濤のラップで構成される「キョウボウザイ」は、最後、こんな言葉で締めくくられるのであった。

〈黙ってた方が良いか そうか
 たまったもんじゃない〉

「MUSICA」インタビューによれば、共謀罪が強行採決された日、彼はAAAのツアーで広島に行っていたという。強行採決のニュースを見た時点では、彼はこの曲を発表するつもりはなかったという。これだけミュージシャンがいるのだから、誰かがやるだろうと思ったからだ。ただ、もしも広島でのライブを終えて東京に戻った時点で誰も共謀罪をテーマにした楽曲を出していなかった場合、そのときは自分がやろうと思い、巡業先に持って行っていた機材でビートだけはつくっておいたとSKY-HIは語る。結果として、他のミュージシャンからアクションが出ることはなく、彼は「キョウボウザイ」を発表することにした。

「音楽に政治をもち込むな」などというバカげた意見が跋扈する現在の日本で、政治的トピックを扱った楽曲を出せば批判もあるだろう。しかし、そういったネガティブ要因を乗り越えてでも「キョウボウザイ」を世に出すことを決意したのは、ラッパーとして、表現者としての矜持だったという。

 表現の自由を侵害する可能性、表現活動を萎縮させる可能性を指摘される法律が出ているなか、このまま「キョウボウザイ」を出さずにいたら、共謀罪に対してミュージシャンが自らの音楽を通してなんのアクションも起こさなかったという歴史を残してしまう。そのことを彼は危惧した。「このタイミングでそういうものを提示しておくことは、自分にとってというよりも、社会において必要なことだと思って」としたうえでSKY-HIはこのように語る。

「ラッパーは社会を映す鏡であるはずだから、知らぬ存ぜぬの社会にするべきだって言うなら何も言わないが正解なんだろうけど、俺にはそれが正解とはとても思えない──特に人前に立って、人の人生の時間をもらってライヴやったり音楽作ったりしてるってことは、その人が生きる社会の中にいかに自分がちゃんと存在できるか、その人の子供とかに繋がっていった時にいかに自分がいい形でバトンを渡せるかを考えるべきで。だからあのタイミングで誰も提示しないっていうのはあり得ないだろう、と」

 SKY-HIこと日高は、AAAメンバーとして全国ドームツアーを行い、SKY-HI名義のソロでも日本武道館公演を成功させるなど、メジャーシーンで活躍するミュージシャンだ。この立ち位置でこうした政治的メッセージを発信するミュージシャンはめずらしい。所属するエイベックスとは、その方向性を支持してくれるスタッフもいる一方で、政治的なテーマの曲をめぐって衝突したこともあったようだ。

 実際、「ミュージック・マガジン」17年8月号のインタビューでは、これまでにまわりのスタッフやレーベルから政治的な曲はやめたほうがいいとの忠告や衝突があったと明かしている(特定秘密保護法をモチーフにしたラインのある「F-3」など、SKY-HIが政治的な楽曲を出したのはこれが始めてではない)。「ミュージック・マガジン」誌のライターから「これまでに周りのスタッフやレーベルから政治的な曲はやめた方がいいと忠告されたり、そういうことで衝突したこともあるんじゃないですか」と質問された彼はこのように答えている。

「ありましたね。1個学んだのは、人間、怒られた時にちゃんと謝ったら絶対許してもらえるはずだっていうことです(笑)」

 ただ、これまでの活動や上記の発言を見ればわかる通り、SKY-HIは今後も怖じ気づくことなく社会的なトピックを扱った曲を出していくつもりのようだ。実際、彼がいま準備している新曲「Marble」(来月リリース予定)は、人種差別問題についてにも触れた楽曲とされている。その背景には、全世界的に起きている差別に関する問題はもちろん、それに加えて、自身の経験も反映されているという。

 彼はラッパーとして活動するにあたり、常に「所詮はアイドル」という色眼鏡で見られ続けてきた。その経験から偏見により正当な評価を受ける以前の段階で弾かれてしまう人たちの気持ちが理解できると、前掲「MUSICA」でこのように語っている。

「偏見を浴びてる人の辛さもわかるから、経歴や噂とかで人を判断したり不特定多数の人を否定したりしないように生きていたいんだけど、宗教や人種、思想で壁を作ったりっていう悲劇的な事件も最近は多くて。そう考えると、たぶん我々が学ぶべきことって、いろんな人がいて、いろんな価値観があるんだよっていうことでしかなくて。それを知る機会をちゃんと作る必要はあるって思うんですよね」

 彼は自身の活動について、それがなにかと議論を呼んでしまいがちであるということは客観的に認識しているという。ただ、それでも活動の方針を変えるつもりはないとしている。それは自分のためであるとともに、この社会全体のためでもあるという思いがあるからだろう。

「自分がやっていることが過激であるというふうに捉えられるという認識は凄くあるんだけど、それを当たり前のこととしてやらないと、それが当たり前のことになる時代は来ないから」(前掲「MUSICA」より)

 今後のSKY-HIの活動に注目したい。
(新田 樹)