『ゼロからのプレゼンテーション』三谷宏治著 プレジデント社

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「パワーポイント」に文章を書き込むとき、フォントのサイズはどれぐらいに設定しているでしょうか。外資系コンサルティング会社で「達人プレゼンター」として活躍してきた三谷宏治さんは、「フォントを大きくすれば、自然と論理的な思考ができるようになる」といいます。三谷さんが「プレゼン上達のコツ」を解説します(全3回)。

※以下は三谷宏治『ゼロからのプレゼンテーション』(プレジデント社)からの抜粋です。

■読んでわからないものは聴いてもわからない

あなたのプレゼンテーションの資料は、声に出して読んだとき、相手が「聴いてわかる」でしょうか。本当にシンプルでわかりやすい文章や表現でなくては、「聴いて」わかりはしません。これは資料が「わかりやすいかどうか」の指標になります。

人間の脳はいまだ、文字を読むための十分な進化を遂げてはいません。私たちは文字を読み始めてまだ数千年しかたっていないのだから当然です。脳が文字を一度に処理できる量は限られていますし、シンプルな表現でないとすぐ混乱します。

一方、書きもの自体は、つい長くなり、装飾的になりがちです。確かに歴史的には、小林秀雄の芸術評論を筆頭として、長くて複雑で形容詞や漢語の多い文章ほど「名文」でした。そしてそういった文章を読みこなす訓練こそが、脳の処理能力向上には最適でした。

個人的には小林秀雄、大好きです。しかし、それでは「伝わる」書きものとは言えません。人間は書きものを黙って読む(黙読)ときでも、頭の中では音読しているのと同じです。だから、「伝わる」書きものとは、「聴いてわかる」ものなのです。

■言いたいことは、まず文章で書き下す

大学4年の夏、ボストン コンサルティング グループ(以下BCG) でインターンをしていました。40代後半のベテランコンサルタントが突然、われわれチームの部屋に入ってきて言いました。「おいお前ら、インターンやってるんだって。30秒やるから、なんか面白いこと言ってみな」なにか伝えようとモゴモゴもがきましたが、「つまんねえな」と一言残して彼は去っていきました。でもつまりはそういうこと。本当に伝えたいことは、図や絵に頼らず30 秒で話せないとダメなのです。なにか伝えたいことができたなら、まずは、文章にして書き下しましょう。図なんて書きません。文章だけで、ストーリーを描き出すのです。分量は、最大でもA4レポート用紙1枚で。そこで、シンプルでわかりやすく、驚きのある『物語(ストーリー)』になっているか、よくよく読み返してみましょう。これでよしと思ったら、人に読んでもらいます。大抵「よくわからない」と言われるでしょう。そこからまた推敲を重ねます。最後は、それを口頭で誰かに伝えてみましょう。1回読むだけで相手にすっきり伝われば合格です。聴いて覚えていられる情報量は限られています。その限界のなかで、理解できるシンプルなロジックになっているか、構造になっているか……。そのチェックを入念に行いましょう。パワーポイントに取りかかるのは、それからでいいのです。

■アウトライン機能を使いこなす

パワーポイントやMS ワードには、活用すべき機能があります。それが「アウトライン機能」です。私が最初にアウトライン機能に触れたのは、BCG 入社後、2年ほどたった頃でした。アメリカMBA 帰りの若手コンサルト河田卓さんが、アウトライン専用のソフトウェアを教えてくれたのです。「三谷さん、これ、使うといいよ。『マインドプロセッサー』っていうんだ」と。

使い始めて、確かにそのとおりだと、感じました。自分の考えを、処理するのにとても役立ったからです。アウトライン機能には、シンプルな構造(だけ)があります。それは、階層と親子関係です。ビジネス文章・資料なら、これで十分です。プレゼンテーションスライドの構成を考えれば、

―レベル1はスライドの題名
―レベル2はその下のメインボディ
―レベル3はそのサブ

といった具合。詳細説明のためにレベル4まで使うかもしれません。でもそこまで。
階層をそれ以上深くしてはいけません。プレゼンテーションスライドではなく、ソフトウェアのプログラミングになってしまいます。最初はアイデアやストーリーの細切れをどんどん打ち込みます。そしてそれを眺め渡して構造をつくります。階層を上げたり下げたり、親子の分類をし直したり。削ったり増やしたり。そうしてシンプルな構造をつくっていくのです。

できたと思ったら、レベル1だけを表示してみます。スライドの題名だけがならぶはず。それで、話しが通じるでしょうか? 通じるならOK。次はレベル2も表示してみます。スライドの題名で言っていることを、ちゃんとサポートしているでしょうか? 以下、繰り返します。アウトライン機能でつくれるものは、精妙な芸術作品ではありません。ブロックを積み上げていく地味な構築物だけです。でもだからこそいいのです。シンプルな構造だからわかりやすいのです。アウトライン機能は言わば、強制的にあなたの考えをシンプルにする矯正マシンなのです。聴いてわかる、読んでわかりやすい資料にするために、私はまだまだ技を積み上げます。だって、しゃべるの下手なんですから……。

■文章は1行。フォントは18ポイント以上で

伝わりやすい文章の極意はズバリ、「文が短いこと」です。長い文章をヒトの頭脳は処理しきれません。じっくり本で読むならともかく、プレゼンテーションの場ならなおさらです。その文章を載せたスライドは、一瞬で目の前を通り過ぎていきます。当時のBCG東京にはプレゼンテーション資料において、暗黙のルールがひとつありました。それは「文章は1 行で、フォントは18ポイント以上」というものです。当時のプレゼンテーション資料はA4縦だったので、余白を考えると、1行には全角で22文字しか入りません。そして、1文は2行にわたってはいけないので、31音の短歌は漢字・仮名まじりでギリギリです。

今はA4横なのでもう少し余裕がありますが、それでも「1文30文字前後」を目指しましょう。そのためには、フォントを大きくすることです。使用フォントを大きくすることで、自動的に文章は短くなります。パワーポイントだったらヘッドライン24ポイント以上、本文18ポイント以上が最低限の目標です。MSワードなら11ポイント以上に設定しましょう。もちろん余白は通常設定で。ビジネス文章は大部分が横書きですから、こうすることでA4用紙だと、横1行が38文字になります。五・七・五・七・七の短歌が、(仮名で書けば)各句間のスペースも含めれば35文字分ですからちょうど同じくらいですね。1文は、可能な限りこの1行に収めましょう。

この「フォント縛り」は本当に強力で、伝える表現を簡潔にするだけでなく、ヒトに論理的な思考を強制します。フォントを大きく、そして1行に収まる文章に! これこそ伝えるプレゼンテーション資料作成のための、「大リーグボール養成ギプス」です。

(K.I.T.虎ノ門大学院教授、早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授 三谷 宏治)