今となってはまったく違うサッカーをしているのだから、今季開幕当初と比較して、内容的によくなっているのかどうかを判断するのは難しい。

 だが、ただひとつ、誰が見てもはっきりしているのは、このところの成績が急激に回復してきているということだ。

 J2降格危機にあえぐ、サンフレッチェ広島のことである。

 過去5シーズンで3度のJ1優勝を誇る広島は、今季開幕直後から不振にあえいでいた。開幕5試合の成績は4連敗を含む4敗1分け。第6節にして、ようやく今季初勝利を挙げたものの、勝ちは続かず、第14節〜第17節では再び4連敗。第4節終了時点で17位に落ちて以降、ずっと降格圏(16位以下)に沈んでいた。

 そして、ついに監督交代。3度のJ1制覇の功労者である森保一監督を解任し、新たにヤン・ヨンソン監督を迎え入れた。

 瀕死の状態の広島に投与されたカンフル剤は、しかし、すぐには効果を示さなかった。ヨンソン監督の初采配となったルヴァンカップのFC東京戦、続くJ1第19節のサガン鳥栖戦はともに敗れ、新たな船出は連敗でのスタートだった。

 ようやく好転の兆しが見え始めたのは、第20節ジュビロ磐田戦である。

 現在6位と今季好調の磐田に対し、アウェーで3-2の逆転勝ち。以降、第27節清水エスパルス戦までの8試合で4勝1敗3分け。特に第23節からは5戦連続無敗(3勝2分け)が続いている。順位のうえでも、第26節セレッソ大阪戦の勝利でついに15位に浮上。降格圏を抜け出している。


最近5試合は負けなしのサンフレッチェ広島

 とはいえ、内容的に見て目覚ましい改善があるのかと問われると、正直、自信を持ってうなずくのは難しい。何よりピッチ上で繰り広げられるサッカーの方向性が大きく転換されたことに、選手が依然対応し切れていないように見えるからだ。

 森保監督時代(というより、その前任者であるペトロヴィッチ監督時代から)、広島は3-4-2-1の布陣をベースに、低い位置からでも徹底してパスをつないで攻撃を組み立てるスタイルを志向してきた。それはアカデミー(育成組織)も含めたクラブ全体に一貫したものであり、いわば広島のサッカーの代名詞だったと言ってもいい。

 ところが、ヨンソン監督が採用したのは4-2-3-1。しかも、変わったのはフォーメーションだけではなく、1トップに夏の移籍で獲得したFWパトリックを置き、徹底して前線にロングボールを放り込み、パトリックが競ったセカンドボールを拾って攻めるというスタイルの大転換も図られた。

 結果、広島のサッカーは非常に大味なものになり、相手のプレスを無力化させるようなボールポゼッションは影を潜めた。

 直近の清水戦を見ても、前半は広島がボールを保持する時間が長かったものの、(かつての)広島らしいダイナミックなコンビネーションは見られなかった。3度のJ1優勝を知る、MF森粼和幸は語る。

「全員がうまくポジションを取れば、もっとボールを回せるし、もっといい攻撃ができるのに、ボールをもらおうとして近くに寄り過ぎて、相手も来させてしまっている。自ら狭くしてビルドアップしてしまっていた」

 特に気になったのは、以前の広島なら”ナイスパス”になっていたはずのパスが、結果として”ナイス”になっていなかったことだ。

 例えば、近い距離で細かくパスをつないで相手のプレスをかいくぐり、一瞬のスキをついて前線に縦パスを打ち込む。あるいは、逆サイドへ大きく展開すべく、フリーのボランチに横パスが入る。そんなパスがなかったわけではない。ところが、せっかく”ナイスパス”が通っても次への展開が準備されていないため、そこでつぶされてしまうのである。

「それは、前節のセレッソ戦でも見られたこと。(攻撃をスピードアップさせる)スイッチのパスを全員が共有できていない。チグハグなところがある」

 森粼がそう語るように、やはりピッチに立つ選手たちにも戸惑いがあるのだろう。

 ロングボールばかりに終始すれば、攻撃は単調なものになってしまう。かつてのように、パスをつなぐ攻撃も織り交ぜたい。選手たちがそう考えたとしても不思議はない(少なくとも選手たちは、パスをつなぐクセが抜けていないように見える)。

 実践するサッカーが大きく変化した結果、選手たちはふたつの異なるサッカーの狭間で、かなり苦労している。広島の試合を見ていると、そんな印象を受けるのだ。

 もちろん、守備を固めてロングボールを多用する現実的なサッカーへの転換という荒療治が功を奏したと見ることは可能だろう。だが、このところの広島の好調ぶりは、やはり精神的な面によるところが大きいのではないだろうか。

 3度のJ1制覇の一方で、2度のJ2降格という地獄も見ている森粼は、「今季前半戦は(同点に)追いつかれるとガクッときていた。でも、今日の試合(清水戦)は(同点に追いつかれたあとも)全員が勝ちにいったことが勝利につながった」と、チーム内に起きている精神的な変化を口にする。

 森粼は2度の”地獄”を振り返り、「(J2に)落ちたときはチームがバラバラだった」と語る。だからこそ、監督交代という大ナタが振るわれたときに報道陣からコメントを求められると、「監督が代わっただけではダメ。本当の意味でチームがひとつにならなければ結果は出ない」と話していた。メディア(媒体)を通してのコメントではあったが、チームメイトに、そして自分自身に向けて発した言葉でもあった。

 そして現在、「ベンチメンバーも含めて、チームがひとつになってきている。こうなると結果は出やすい」と、納得の表情を見せる。

 清水戦を振り返っても、後半は明らかに相手のペースにはまっていた。先制したものの、怒涛の反撃を受け、追いつかれる展開は、メンタル的に大きなダメージを負ってもおかしくなかった。

 しかし、「相手の攻撃に対応しながら、カウンターを狙うことができた。それは、みんながハードワークしていたから」とDF水本裕貴。交代出場のMF稲垣祥が勝ち越し、ダメ押しの2ゴールに絡むなど、大活躍したことにも触れ、「チーム全体で戦えるということを示せた」と胸を張る。

 ヨンソン監督も「選手は100%のパフォーマンスではなかった」と言い、「考える時間が長く、攻撃が少し遅かった」と苦言を呈しつつも、「守備は規律よくやっていた。心配はしていなかった」と称える。

 こうやって結果が出続けることで、選手たちも手ごたえをつかみ、苦しい展開でも勝利を信じて粘り強く戦えるようになる。ある意味では試合内容の良し悪しよりも、これこそが苦境を脱するために不可欠な要素なのだろう。指揮官も満足げに語る。

「勝ち点3を取って帰ろうという強い気持ちが相手を上回った」

 ロスタイムに2点を奪い返す劇的な勝利に、森粼もまた、「今日の試合は自信にしていい。チームにようやくまとまりが出てきた」と語り、表情をほころばせる。

 次節(第28節)、広島には14位コンサドーレ札幌との対戦が待っている。わずか勝ち点1差で争うライバルとの直接対決に勝てば、両者の順位は入れ替わる。と同時に、トップ3(鹿島アントラーズ、川崎フロンターレ、柏レイソル)との対戦を残している広島にとっては、ぜひとも勝っておきたい試合でもある。

 広島がじわじわと調子を上げてきたとはいえ、降格圏の16位ヴァンフォーレ甲府とは勝ち点2差。まだまだ予断は許さない。それでも、最悪の状況は乗り越えた。そう言って間違いあるまい。

 かつてのJ1王者を取り巻く事態は、確実に好転し始めている。

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