おじぎを美しくするだけで、相手の印象が変わります(写真:Rawpixel / PIXTA)

身なりが整っていなかったり、ちょっとした所作が雑だったり――。そんなビジネスパーソンが同僚や取引先からの絶対的な信頼を勝ち得るのは難しいでしょう。結果として仕事の成果にも結びつかないはずです。
一方、ちょっとしたことですが、仕事のできるビジネスパーソンは外見や心、所持品といった部分に細心の注意を払っています。あまりに「微差」のため多くの人は気づきませんが、わずか数年で「大差」を生む。ビジネスパーソンなら知っておきたい「3つの美意識」を、『きれいでなければ稼げません』の著者でもある渡辺ゆきよ氏が解説します。

「外見」「心」「所持品」。ビジネスパーソンが大事にしたいのは、この3つの美意識です。

【外見の美意識】“美しいおじぎ”で空気が変わる!

まずは「外見の美意識」。「見たこともないような美しいおじぎ」を身に付けてしまいましょう。ビジネスの場では「おじぎ」はとても必要です。このほんの一瞬の出来事で、相手の印象が決定づけられてしまいます。身に付けてしまえば、一生のスキルになり、おじぎするごとに好印象を振りまくことになります。

注意すべきなのは「見たこともない」レベルまでやりきること。相手が「いやいや、そこまでしなくても……」と恐縮して、苦笑いするくらいまでやっても問題ありません。おじぎはしているつもりでも完全にできていないことが多いからです。

「おじぎなんてちゃんとやっているよ」

とツッコミたくなる人もいるでしょう。そんな人に質問です。自分のおじぎをちゃんとチェックしたことがありますか?

あいさつの基本は「語先後礼」。「よろしくお願い申し上げます」と言いきってから礼。「ありがとうございます」と言いきってから礼。「失礼いたします」と言い終わってから礼、がルールです。

完全に言い終わってから、礼。これがわかっていてもできないのです。しっかり伝え、言葉を言い終える。まずしっかり相手の目を見て言いきることです。言葉がまだ終わっていないのに、おじぎをしてしまう。意外とそういう人は多いのですが、せっかくのお礼の言葉が相手にとって聞き取りづらくなり、感謝の気持ちが伝わりません。

また、相手によっておじぎの度合いを変えてはいませんか? 成功される人は、相手を上下で判断しません。こんな些細なことでも、人はよく見ているものです。誰にでも一定の礼節で接するのが望ましいでしょう。

【心の美意識】うわべを見繕っても所作で心はわかる

次に「心の美意識」です。心は必ず所作に現れます。「部分は全体を表す」という言葉がありますが、わずかな所作にその人の人間性は必ず出ます。真の姿は隠せないのです。だからこそ些細な所作を「きれい」にしていくことが必要です。

たとえば、どんな時でも手を添える心づかいを。そんなこともわかっている、とあなたは言うかもしれません。

しかし、名刺1枚、紙1枚を相手に求められ、片手で渡してしまうことはありませんか? 名刺なら、きちんと渡せても、紙一枚となると片手で渡してしまうケースは結構あります。

たとえば商談の見積書。そこに記された金額が50万円なら、その紙1枚には50万円の価値があります。その重みを思えば、片手で手渡すという軽い気持ちは持てないはずです。

ごく身近にある日用品でも同じこと。たとえば、オフィスにあるサインペンやボールペンを同僚に貸す時、片手で渡すことがあるかもしれませんが、そこから見直してみるといいでしょう。日常の姿がありのまま、ビジネスの場でもかたちとして現れます。上辺だけ取り繕っても見抜かれてしまうのです。

紙1枚にも、両手を添えて渡す。それは「これは大切なものです」「大切なあなたにお見せしたいものです」という付加価値を乗せる行為にほかなりません。相手はあなたのそんな行動を見て、自分が大切に思われていることを、言葉もなく感じ取ります。そう感じた相手は、あなたのことを「自分を大切にしてくれるひと」として、向こうからも大切に思われるでしょう。

この『心の美意識』は、すでに活躍している成功されているという方も実は注意です。

成功したり実績がついてきたりすると、知らずに人を大切に扱わなくなることがあります。これは、あなたがどんなに繕っていても必ず相手には伝わります。

友人から聞いた話です。彼はある日、突然、事業家として大成功しているYさんとの取引を白紙にしました。理由を聞くと次のとおり。Yさんの会社の周年パーティーに参加した時のことです。

Yさんは、笑顔で親切に参加者と接しているようには見えましたが、そこで交換した名刺を、そばにある机に無造作に置いていたそうです。

ある人はYさんに新商品のパンフレットを見てほしいと持ってきたのですが、Yさんはまともに見もせずに乱雑に半分に折り、また机に無造作に置いていたそうです。

ある人は、「これプレゼントです」とYさんのお気に入りのアーティストのCDを、素敵なラッピングをして渡しましたが、Yさんはプレゼントの上に自分のワインを置いていたそうです。

新商品のパンフレットはちょっと売り込みが強かったのかもしれませんが、友人はそういう態度の裏側にあるものを感じたようです。

何人もの仲間がそのような光景を目にして、Yさんの人格に疑問を持ち始めたのです。そして、それから友人と友人の仲間は次々に取引をやめていったというのです。

このように「心の美意識」は自分でも気づかないうちに相手には伝わっているものなのです。

【所持品の美意識】鞄の中をお客様に見せられますか?

最後は「所持品の美意識」です。取引先に訪問した時、カバンから書類を出すことがあるでしょう。そのとき相手の視線はいやがおうにもカバンに向かいます。まったく整理されていないごちゃごちゃとした中身だったら、それが相手の目に入る可能性もあります。

相手はどう思うでしょうか? 少なくても、いい印象は抱かないでしょうし、こちらから渡したものも、その「ゴチャゴチャ」の中に入れられるのかと思うと、雑に扱われている気すら起きるでしょう。

鞄は持つ人の心そのものです。つねに相手に見せられるよう、隠し事なく、正直に、整理しておくのがベストです。鞄の中身が乱れていると、仕事も乱れがちです。きちんと整理して、スッキリとした状態でビジネスに向かうことが、うまくいく秘訣の一つです。

所持品の美意識を考えるうえで、カバンの中に入れておくといいものがあります。それは「人に貸せるハンカチ」です。相手がすごく多忙な人で、時間に追われ、小走りで商談場所に来るかもしれません。汗をかかれて拭くものがないかもしれませんし、また商談中にアイスコーヒーがはねてしまうこともあるかもしれません。それで相手が困ることだってあり得ます。

そんなとき、さりげなくスッと差し出すキレイなハンカチは、相手に強い好印象を残します。難しければ、ポケットティッシュでもかまいません。たった一つのアイテムですが、それがキレイで人に見せられる状態であれば、その人の行いや性格、仕事への評価などすべての信頼性が増すものです。

所持品を変えて業績がアップしたOさん


営業成績が年間8台という自動車のセールスマンだったOさん。身の回りのことに気を遣わないOさんは、1000円の理容室で髪を切り、爪を噛むのでボロボロ、所持品にはこだわらずおカネをかけたくないと、ディスカウントストアで購入した100円の名刺入れと2000円のカバンで営業をしていました。もちろん手入れもしないので、名刺入れもカバンもボロボロです。そんなある日、高級車の商談にきた企業経営者に指摘されたそうです。

「『高いものを持て』とは言わないけど、少なくとも、会社を代表して商談をするのに、その名刺入れをみたら話をする気持ちがなくなってしまいました。新しい車に乗ろうという意欲が低下してしまいました。もう一度だけ時間を取りますから、せめてキレイに整えた状態で向き合ってほしいです」

そこでOさんは、高級ブランドの正規ショップに行き名刺入れを購入しました。そして、そのブランドショップの対応や所作の一つひとつに感動し、爪を噛むのをやめ、所作に気を配り、日々、身の回りを整え始めたそうです。
それから約半年、以前は営業努力と反比例していたセールス実績は正比例しうなぎのぼりになったそうです。もちろん、その後、Oさんに指摘をしてくれた社長との商談も締結。以来、長きにわたる得意先となり、見込み客をたくさん紹介してくれたそうです。

「3つの美意識」が、一期一会の価値を最大化する

人は人との出会いによって成長します。今日会う人が、人生を変える運命の人だという可能性だってあります。すべては一期一会。その出会いの数十分を、誰でもできる心づかいで、最高の瞬間にするのが「3つの美意識」を整える目的です。