「職場受け取り」は再配達問題の有効な解決策の1つだ(写真はイメージ)


 筆者は今年3月、本コラムで、近年日本で大きな問題となっているいわゆる再配達問題への対策として、宛先を職場に指定して平日昼間に荷物を受け取る「職場受け取り」の方法を紹介しました(「『再配達地獄』を解決するシンプルで効果的な方法 中国式『職場受け取り』のススメ」)。筆者が住んでいる中国では、職場受け取りが一般的な方法です。

 この記事には多くの人が賛同してくれました。ところが一方で、「電車通勤では持ち帰れない」「ダンボールを会社に処理させるのか?」「大企業じゃ無理」など、日本での導入について否定的な意見も散見されました。

 そんな中、電子商取引(EC)業界関連企業を中心に、職場受け取りを推進する「職場受け取り運動」という活動が展開されていることを知りました。

 そこで今回は、この「職場受け取り運動」について取材するとともに、再配達問題の当事者たちに再配達の現状や職場受け取りへの見解を聞いてみました。

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EC業界の一員としての社会的責任から

「職場受け取り運動」は、リスティング広告を手掛けるネット広告代理企業、カルテットコミュニケーションズによって始められ、同社の主導によって展開されています。同社が「職場受け取り運動」の推進サイトを公開したのは今年3月でした。同時期に配信された筆者の記事を、たまたま同社の関係者が読んでくれていたことから、今回の取材へとつながりました。

 そもそも、なぜ物流業界とは直接関わりのない企業が「職場受け取り運動」を始めたのでしょうか。同社はその理由を「EC業界の一員として、再配達問題に取り組む必要があると考えたため」と説明します。

 現在の再配達問題は、言うまでもなくネット通販市場の拡大が原因です。この問題を放置すれば、物流業界が苦境に陥るだけでなく、EC市場の発展も阻害しかねません。そこで、多くのEC業界関係企業を顧客に持つ同社も、EC業界の一員としてこの問題に取り組む社会的責任がある、と考えたとのことです。

 こうして始まった「職場受け取り運動」は、ウェブサイトの公開以降、口コミやサイト経由で賛同者が集まり、現在の賛同企業・団体は64団体(2017年9月時点)にまで増えました。中心となっているのはEC関連企業です。「EC業界に携わる企業としての責任から」という強い問題意識を持って賛同している企業が多いそうです。

 また物流業界からは、業界団体の「日本物流団体連合会」(物流連)も賛同団体に名を連ね、元理事・事務局長の村上敏夫氏が「職場受け取り運動」へ推薦メッセージを寄せています。

「配達のチャイムで子供が起きずに済む」

 実際にこの運動に賛同して職場受け取りを導入した企業では、社員からどのような反応があったのでしょうか。「職場受け取り運動」賛同企業各社に、その点について尋ねてみました。

 すると、ほぼ全社から「不在を気にすることなく受け取れるようになった」(ネクセルインターナショナル)など、肯定的な回答が返ってきました。

 多かった回答としては、「単身者が確実かつスムーズに荷物が受け取れるようになった」という声のほか、「以前は午前受取りを指定した場合、自宅で待機することもあったが、そうした手間が省けるようになった」(CS.2)という声もありました。

 また意外な意見としては、「これまでは、配達員が来てチャイムを鳴らしたり、配達員に対応することで、寝かしつけた子供が起きてしまうことがあった。職場受け取りを行うようになってからは、自宅に来る配達員の数が減って、子育て面でも負担が減った」という感想も寄せられました。

「職場受け取り運動」に賛同する企業への質問と回答(一部)
(カッコの中は回答した会社の名前)


ダンボールのごみはむしろお金になる?

 では逆に導入によるデメリットはないのでしょうか。この問いに対しては、「メリットしかなく、業務への支障もない」という回答が多く見られました。

 一方、「運送会社ごとに配達に来るので訪問者が多少増える」(花のや)や、今後の課題として「配送に使われる梱包材などのごみ問題が顕在化していく可能性が考えられる」(ネクセルインターナショナル)という意見も見られました。また、「趣旨には賛同しているが(社員の)利用は少ない」(ミューズ)という、職場に一種の抵抗感があるような状況も報告されています。

 先ほどの課題意見として挙げられた、ダンボール箱をはじめとする梱包材のゴミ処理問題は、かねてから職場受け取りへの批判意見としてよく挙げられていました。ただ、「会社で受け取ればダンボールを資源ごみのリサイクルに出せるので、環境問題にも貢献できるのではないか」(アンダス)といった肯定的な見方もありました。

 筆者はその点について、あるビルオーナー関係者に確認してみました。その関係者によると「そもそも、ごみ廃棄は業者に委託しているので、量が変動したところで処理費用はあまり変わらない。ダンボールのような資源ごみはまとめて資源回収業者へ売却しているので、むしろお金になる」そうです。

 職場受け取りに伴うごみ処理の問題は、確かに懸念事項です。しかし、きちんとした仕組みを整備することでリサイクルにもつながり、環境的にもプラスとなる可能性はあるのではないでしょうか。

コンビニ大手も職場受け取りを導入

 こうした「職場受け取り運動」とは別に、独自に職場受け取りを推進・導入する企業も現れてきました。

 コンビニ大手のユニー・ファミリーマートホールディングスもその1つです。同社は今年から、主に社内のオフィス勤務者を対象に、宅配便の職場受け取りを認める方針を打ち出しています。

 同社広報によると、「社内で業務改善意見を募集した際、一社員から提案があり、価値のある提案だと判断して全社での導入を決めた」とのことです。再配達問題への対応だけでなく、社員の利便性向上という福利厚生にもなるとして、職場受け取りを評価しています。導入後の社員の反応は、コンビニ運営企業なだけに「便利」という一言に尽きるとのことで、特に一戸建てのような宅配ボックスのない家庭などで好評を得ているそうです。

環境省や宅配大手の見解は?

 再配達問題に取り組む当事者たちは、こうした職場受け取りの広がりについてどう考えているのでしょうか。

 環境省は「COOL CHOICE」(できるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン)という、宅配日の再配達防止に取り組むプロジェクトを推進しています。「COOL CHOICE」の担当者に取材してみたところ、「職場受け取り運動」の存在は把握しているものの、現在はまだ再配達問題への対策として大きく取り上げて紹介することはしていないそうです。ただし今後は運動を紹介したり推進することはありうる、とのことでした。

 この再配達問題の最大の当事者でもあるヤマト運輸にも、話を聞いてみました。同社の広報担当者は職場受け取りという方法自体は知っていましたが、「職場受け取り運動」については認知していませんでした(物流連元理事が賛同していることも把握していませんでした)。

 今後、宅配ボックスなどの方法と同様に職場受け取りを消費者に訴える可能性があるか尋ねてみたところ、「ニーズのある対策であれば、他の再配達対策同様に取り入れ、推進していきたい」とのことでした。

 最後に、現在の再配達問題についてヤマト運輸にざっくばらんに見解を尋ねてみました。すると、「ほんの数年前まで、通販配達取扱量がこれほどまで増えるとは予想できず、ある意味、今まさに物流の仕組みや制度を変えるべき時期に来ているのかもしれない」とのコメントが返ってきました。

 この見解には、筆者も深く同意します。ネット通販の急速な発達によって消費者の生活は大いに便利になりました。しかし一方で、そのひずみが再配達問題となって物流業界に跳ね返ってきているのが現在の状況と言えるでしょう。それだけに、当事者であるEC業界や物流業界だけでなく、消費者もこの問題について無関係な立場ではいられないはずです。

 何も、すべての配達を職場受け取りに切り替える必要はありません。物流業界の負担軽減に向けてできるところから対策に取り組むことが、何よりも重要なのではないでしょうか。

筆者:花園 祐