北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの脅威が日本の国家や国民の存立を脅かすようになった。日本はどうやって自国と自国民を守るのか。今や日本の防衛のあり方が根底から問われている。いや、日本のあり方そのものが重大な危険の試練を浴びるようになったといってもよい。そうなると、どうしても現在の憲法のあり方への疑問が提起されてくる。

 日本が北朝鮮の脅威に対応する手段としては、まず外交努力、経済制裁、日米連帯、国際協力など非軍事的な方法が挙げられる。だが、それらの手段をいくら試みても、北朝鮮の核とミサイルの脅威は減らない。むしろ逆に「日本列島を核爆弾で海中に沈める」という恫喝の言葉が象徴するように、日本にとっての危機は増している。

 北朝鮮の脅威は、まさに軍事的な脅威に他ならない。北朝鮮はミサイルや核兵器での攻撃を示唆して日本を威嚇し、実際に攻撃もしかねない。そうした軍事的脅威に対して普通の国ならば、抑止や予防という意味で軍事的な対策を準備するだろう。それは最悪の事態への備えでもある。

 ところが日本は自国の防衛にさえも軍事的な手段を禁じている。あまりにも明白で切迫した核兵器とミサイルの脅威に対して、わが日本は軍事面での防衛も抑止もあまりに無力なのだ。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

「平和憲法」という“虚名”

 その根本の原因は憲法である。日本は「平和憲法」という“虚名”の下に一切の軍事を排してきた。

 あえて虚名という言葉を使うのは、そもそも日本には、日本国憲法は存在しても、平和憲法という名の憲法はないからだ。この名称は「なにがなんでも今の憲法を変えるな」という勢力が作り出した政治色のにじむスローガンだという感じが強い。今の憲法を保つことだけが平和であり、その憲法が平和をもたらす、という発想に基づくのだろう。

 憲法9条は、国際紛争を解決する手段として、武力、つまり軍事力を一切禁止している。「自国の防衛ならば武力を行使してもよい」というのがこれまでの憲法解釈だが、9条は戦争も交戦権も、戦力も、軍隊も、禁じている。

 また、日本国憲法は前文で日本の安全と生存に関して、自国の防衛努力ではなく「諸国民の公正と信義」への信頼による、としている。つまり、他国の善意を信じれば、日本の平和は守られるという発想なのだ。

 軍事とは簡潔にいえば、国を守るための物理的な力の保持である。外部の敵に対して、話し合っても、譲歩をしても、なお自国への脅威や侵略が避けられないというときに、最後の防衛手段として使うのが軍事力である。だから全世界の主権国家は自分の国や国民を守るために不可欠として軍事力を保持している。

日本自身の対処はどこにあるのか?

 安倍晋三首相は北朝鮮の核武装への動きやミサイル発射のたびに「断固として許さない」と言明する。

 だが北朝鮮は平然と核実験を重ね、日本の方向にミサイルを発射し続ける。首相の言明はむなしく終わる。日本が、「断固として」とか「許さない」という言葉に実効をもたらす物理的な手段を何も持たない事実をみると、空恐ろしいほどのむなしさと言ってよい。

 日本自身に北朝鮮の軍事脅威を抑える軍事能力が皆無となれば、他国に依存するしかない。だからこそ日米同盟を強化しようとしているわけだが、最近の安倍晋三首相の米国へのアプローチをみると、米国への依存がますます強まるだけである。日本独自の軍事面での対策はツユほども出てこない。日本の防衛とは首相が米国大統領と会談することなのか、とさえ思えてくるほどだ。

 野党も北朝鮮危機への対処となると、やはり完全な他国依存のようである。民進党幹事長だった野田佳彦氏は「中国を含めた関係国に働きかけを」と主張していた。まずは米国、そして韓国、国連、さらには中国、ロシアと、とにかく他国との協力と連携を唱えるだけである。そこに日本自身の対処は見られない。

 この現状は、憲法9条の帰結だといえよう。外敵から国民や領土を防衛するのは、主権国家の基本的な責務である。だが今の日本にはその防衛の能力も意思も、メカニズムも、概念もない。北朝鮮が日本にミサイルを撃ち込み、さらに第二撃、第三撃を加えてくる構えをみせても、その第二撃、第三撃を止めることができない。憲法9条が軍事を全面的に否定し、禁止しているからだ。

米国で広がる「日本は憲法改正を」の声

 米国は、日本の防衛に自らの犠牲を払ってでも責任を持つことを誓っている。その米国で、北朝鮮の脅威を払いのけるなんの術も持たない日本の状況をみて、「日米同盟強化のためには日本憲法の改正を」という声が超党派で広がってきたのは、ある意味、当然と言えよう。

 そうした声を反映して、大手紙ウォール・ストリート・ジャーナルは最近の社説で「日本の憲法9条は日本自身の防衛にとって危険だ」という主張を打ち出した。

 こう述べてくると、日本の絶対護憲派は「前のめりの危険な軍事志向」と反発することだろう。だが、護憲派に求めたい。今こそ憲法9条の真価を発揮させて、北朝鮮の軍事脅威をなくしてほしい。また、9条の力で韓国による日本領土の竹島の不当な軍事占拠も止めさせてほしい。さらには中国による日本領土の尖閣諸島への軍事的な侵犯も止めてほしい、と。

 それができないならば、「憲法9条こそが平和を守る」という主張の旗を降ろすべきである。そうした旗こそが、日本の防衛という国家、国民にとっての当然の自己保存の責務を妨害するからだ。

筆者:古森 義久