都営地下鉄の駅に設置された訪日外国人向けの次世代券売機(筆者撮影)

最近、都営地下鉄の駅でSuicaやPASMOにチャージしようとして「おやっ?」と思ったことがある人もいるだろう。これまでより明らかに画面の大きな券売機が増えてきているのだ。

実際に使ってみた人もいるかもしれない。試しにICカードにチャージしてみようと画面をタッチすると、まるでスマートフォンのようにきびきびと動いて気持ちがいい。さらに、切符を買う場合は券売機の頭上にある路線図を見なくても、画面上の路線図を指でタッチするだけでいい。使っていて気分のいい券売機なのだ。

路線図から買える新型券売機

東京都交通局では、東京を訪れる外国人向けに、東京地下鉄(東京メトロ)と共同で券売機の改良・開発に取り組んできた。今年2月から導入されたこの券売機は、32インチの大型高精細ディスプレイを採用。これまでは日本語と英語だけだった対応言語も、中国語(簡体字)・中国語(繁体字)・韓国語・フランス語・スペイン語・タイ語を加えた8言語となった。

この券売機では、画面上に表示した路線図から目的地を選んで切符を購入できるほか、駅番号や予測変換による駅名の入力もできる。駅名でなく、浅草や東京スカイツリーなどといった外国人観光客に人気の高い観光スポットを選択することで、そこに行くための切符を買うことも可能だ。路線図、または観光スポットから選択した場合は、目的地までの乗車経路も表示される。

この券売機は、都営地下鉄では外国人利用者の多い31駅に導入されている。路線図から目的地を選べるなどの新たな機能を備えた大画面の券売機は、どのような狙いで開発されたのだろうか。

東京都交通局の電車部鉄軌道事業企画専門課長、大塚淳さんは、大画面化について「券売機の上(にある路線図)を見なくても買えるように、路線図を入れてしまおうという発想」と説明する。「これまでの15インチの画面では、求められる条件に対しては画面が小さすぎた。訪日外国人や不慣れな人が迷わずに切符を買うにはどうしたらいいかを考え、32インチの大画面にした」のだという。


券売機の32インチディスプレイに表示された路線図(筆者撮影)

最初からこの大きさを考えていたわけではなく、違う案もあった。「20インチでスマートフォンのように画面を動かすというのもやってみたが(画面上の)どこにいるかわかりにくかった。より使いやすくということを考えると、この大きさがベストということになった」という。

対応言語はさらに増やせる

券売機の初期画面は英語。これは訪日外国人を意識してのことだ。しかしいまや、日本にはさまざまな国や地域の外国人が来るようになった。現在対応しているのは8言語だが、「さらに言語を加えてほしいという声があれば増やせる」と大塚さん。メーカーによると16言語まで表示でき、「翻訳を埋め込むことで言語の追加ができるようにしている」とのことだ。

この券売機では、都営地下鉄、都営・東京メトロの連絡乗車券のほか、「都営まるごときっぷ」などのお得な乗車券の購入、ICカードのチャージができる。大きな画面で多言語に対応していることなどを考えると、もっと機能を増やすこともできそうだが、大塚さんは「あまり機能を詰め込むのもどうかと思います。定期券の発券機能などは考えていません」と、その点については否定した。多機能化で複雑になるよりも、多くの人に使いやすい券売機であるべきということだろう。

ちなみに、券売機の多機能化や交通系ICカードの普及で券売機の台数は減っており、これまで設置していたスペースには空きができている。東京都交通局は、こういったスペースに「ハンディガイド」や観光パンフレットを置いているという。券売機や運賃表だけでは伝えることのできない案内のために活用しているわけだ。

この券売機をつくったのは、鉄道信号や券売機などの大手メーカーである日本信号である。


初期画面は英語表示。日本語・英語を含む8言語に対応している(筆者撮影)

「押し間違いがないように、いままでの券売機は反応を受けるスピードを落としていた。しかし、いまはスマートフォンやタブレットPCなどで使う側も画面を触ることに慣れてきた。そんな中で、処理を早くしようと工夫をした」と、同社営業本部AFC事業部AFC営業部長の渡邉聡さんはいう。実際、操作した感覚はタブレットPCに近い。

新型の券売機は「機械自体の性能も上がり、スペックも向上している」と渡邊さん。それが形になったのが、美しい表示を実現した新型の券売機だ。ただし、技術最優先というわけではない。渡邊さんは「サービス向上を考えてこの券売機の形にした」と話す。「開発する側の考えと(実際につくられた)券売機が、利用者の考え方に沿ったものになるように」というのが、券売機のつくり手たちの願いなのだ。

「他の鉄道でも使ってほしい」

この券売機は展示会などでも紹介されており、その使いやすさで「いままでの券売機とは違う」との評判が寄せられるという。渡邉さんは「高齢化によってわかりやすい案内をしなければならなくなった。次世代券売機とは別に、機能をしぼった券売機も必要。世の中の背景を見つつ、これからの券売機をつくります」と意気込む。

東京都交通局の大塚さんは、この券売機について「他社でも使ってほしい」という。「どこの鉄道会社でも使い勝手が一緒というのが理想だから」だ。

券売機にはさまざまなニーズがあるが、交通系ICカードへのチャージ専用機があるように、ハイスペックであるだけではなくシンプルな券売機も必要だ。そういったニーズを考えつつ、鉄道事業者もメーカーも使いやすい券売機を提供してほしい。