米朝の軍事衝突を避けるにはどうすればいいのでしょうか(写真:ロイター/KEVIN LAMARQUE・KCNA)

ドナルド・トランプ米大統領の国連デビューは世界の耳目を集めた。もともと口の悪いことで定評のあるトランプ氏は、北朝鮮の金正恩労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、北朝鮮を「完全破壊」するとまで言った。


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これに対して金正恩氏も黙っていない。初めて自ら声明を発し、トランプ氏を「老いぼれの狂人」呼ばわりした。それを受けて同国の李容浩外相は「太平洋上での水爆実験」にまで言及し、国連演説では冒頭からトランプ氏を「神聖な国連を汚した」と非難した。

こうした言葉の応酬に対して、国連本部で記者会見したロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、「まるで幼稚園児のけんか」と表現し、「ほてった頭を冷やせ」と双方に自制を求めた。そのうえで欧州の中立的な立場の国々などが仲介役になり、対話を促すべきだと述べた。

仲介役は金氏の留学先スイスが最適?

このラブロフ外相のメディアに向けて発した「まるで幼稚園児のけんか」発言は、言葉の表層的な意味では、米朝両首脳にとって相当きつい表現だったが、そのメッセージはズバリ「和解への勧告」、少なくとも「和解方向への示唆」と筆者は読んでいる。

トランプ氏と金氏の感情的な言葉の応酬は、いつ何時、軍事的、突発的な衝突も招きかねないものだ。米メディアを筆頭に世界のメディアが大々的に取り上げれば取り上げるほど、その危険性は高まる。「ほてった頭を冷やす」べきは、双方首脳はもちろんだが、メディアもそのらち外ではない。

さらに、「欧州の中立的な立場の国々が仲介役になりうる」というラブロフ外相の指摘は、示唆に富むものだ。それは「和解方向への示唆」であり、同時に米朝軍事衝突を避ける方向で、一条の光明が差したといっていいだろう。

仲介役としては、これまで休戦会談や和平会議の場を何度も提供してきたスウェーデンやノルウェーなど北欧諸国が候補に挙げられよう。また、国連安保理事国以外の国では、たとえば「P5(ピーファイブ)+1(プラスワン)」の「1」とされるドイツが仲介役を買って出てもおかしくない。

仲介役として最もふさわしい国の一つは、スイスでもありうる。スイスは文字どおりの中立国であり、ジュネーブなどで、国際的な和平会談や平和会議の場をしばしば提供している。そればかりではなく、何よりも金正恩氏の留学先でもあったことだ。

今回のラブロフ外相の発言は、筆者にとって交渉論理上、「待ってました!」と言っていいタイミングだった。いささか我田引水になるが、今年5月20日付の本欄「トランプ大統領に『一発逆転戦略』はあるのか」で、筆者はこう指摘した。

当時、トランプ大統領は「ロシアゲート」疑惑真っただ中にあった。その渦中でトランプ大統領に「ウルトラC戦略」があるとすれば、それは「ロシアの仲介で北朝鮮とトップ会談を行うことではないか」と予言した。今回のラブロフ外相発言によって、その予言が的中ないし、その寸前のところまできた感がする。

中国との交渉は大統領自らが仕切る

トランプ大統領も暴言ばかり発しているわけではない。米メディアの見方は、トランプ大統領の動静を面白く伝えさえすればいいとばかりに、しばしば一面的だ。北朝鮮問題はトランプ政権にとって最大の課題であり、その打開に向けて、口も出し、手も打っている。

トランプ大統領による今回の国連デビュー演説と、その直後に発した「大統領令」は、特に注目に値する。それには、トランプ氏がビジネスの世界で鍛え上げた独特の交渉力、もっと言えば、交渉の芸術家としての力量が試されている。

1つは、北朝鮮問題のカギを握る中国との交渉を自分の手に引き寄せたことだ。それはどういうことか。従来、中国との交渉は北京駐在の米国大使と優秀なナンバーツー(国務省から出向の官僚)に任されていた。あたかも北京に米国務省だけでなく、米大統領までいるかのように、米中双方にとって納得のいく交渉がなされ、安定した関係が築かれてきた。

その証拠の一つとして、ジョージ・ブッシュ(ジュニア)政権下で、リーマンショックに至る金融危機が起こったとき、肝心要のヘンリー・ポールソン財務長官はどこにいたか。当時、彼は中国政府との交渉で、北京の米大使館に張り付いていた。それほど中国との安定した関係を重視してきた。

ロナルド・レーガン政権下では、米ソ軍縮交渉の一部について、ウォール街の法律事務所の腕っこき「国際弁護士」を代理人にして、交渉の難局に当たらせたこともある。「国際弁護士」とは、ウォール街の米国弁護士をおいてほかにない存在だ。

そんな切れ者の「国際弁護士」が北京には駐在している。レーガン元大統領のあとを継いだジョージ・ブッシュ(シニア)元大統領も、「米中連絡事務所所長」だったこともある。ことほどさように、米大統領に影響力のある大物が北京に駐在してきている。

その布陣はいまも基本的に変わらないが、今回、トランプ大統領はその交渉を自分で直接やる、自分の交渉力で仕切ることにした。今年4月の米中首脳会議でも、中国との交渉は自ら買って出た格好だったが、今回の国連デビュー演説で、そのことを公然と打ち出した。

米財務長官に対外的金融制裁パワーを与えた

もう一つ手を打ったのは、北朝鮮と取引する個人および法人に対する制裁を強化する大統領令に署名したことだ。それは、北朝鮮を国際社会の金融・物流ネットワークから遮断し、孤立させる「経済封鎖」を狙ったというよりは、北朝鮮を支援する国や企業を、真綿で締めるような2次的、3次的な制裁の色彩が濃い。

そういう新たな制裁を課す強い権限を財務省に与えた。今回のスティーブン・ムニューシン財務長官への指示は画期的なことだ。もともと米国の財務省は、奥に引っ込んでいる地味な存在であり、日本の財務省、特に旧大蔵省のように「官庁の中の官庁」という中心的な存在ではない。ましてや、国際交渉で米財務省が目立つことは少ない。ビル・クリントン政権下のロバート・ルービン財務長官は出張嫌いもあったが、海外出張が少ないことで有名だった。

米国では、官より民が強い。事実、ウォール街のほうが財務省より、パワーでも格でも上回っているというのが定説だ。今回、そのパワーを財務長官に与えたことは、国務省だけでなく、財務省にも対外的な交渉力を与えたことになる。

ムニューシン財務長官はニューヨークでの記者会見で、「朝鮮半島の非核化を達成するため、世界中のすべての国に北朝鮮との取引を断つよう求める」と述べた。それは、トランプ大統領の意向を代弁したものであり、財務長官の対外的なパワーを改めて示したものだ。

今回の制裁措置は、特に中国という「国」に向けられたものではない。そのことはムニューシン財務長官も名言している。すでに中国政府は、巨大銀行を含めた個別銀行に対して、北朝鮮との取引を停止するよう通達を出している。それについて、トランプ大統領も「習近平国家主席の思い切った措置に感謝する」と評価している。

今回のトランプ大統領の大統領令は9月21日に出された。その当日、日米韓3カ国首脳会談の場でトランプ大統領は「米国とビジネスをするか、北朝鮮の無法な体制の貿易を手助けするか、各国の銀行はその選択に直面することになる」と述べた。

今後、各国の銀行が北朝鮮に資金協力をすれば、米財務省がその銀行を、米国の金融システムから排除できる。そういう事実上の道をつけたことになる。この米国の金融制裁強化については、日本を含む世界各国が強く支持している。中国政府は、結果的に粛々と協力していく構えである。

北朝鮮包囲網に向けたそれぞれの役割分担

いま一度、前後関係を整理しておこう。トランプ大統領の国連演説は18日だった。金融制裁強化の大統領令に署名したのは21日。ロシアのラブロフ外相が、欧州の中立的な国々による仲介役の可能性を示唆した記者会見が行われたのは22日だった。

この世界中の各国連携プレーが功を奏するかどうか。これからの各国の出方次第だが、それぞれの役割分担によって、米朝軍事衝突が避けられそうな、かすかな光明が差してきたことは確かだ。

米朝首脳の言葉のやり取りは過激であり、テレビの情報番組にとっては、かっこうのテーマといえるだろう。しかし、今はいたずらにあおるべきではない。ここはひとつ米メディアを含めて、世界のメディアには冷静であってほしい。