無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者の北野幸伯さんのもとに、読者の方から質問が寄せられました。内容は日本の対中国・対北朝鮮政策に関するもので、先日のメルマガでも取り上げた安倍総理の国連演説が「米国を差し置いた北朝鮮への挑発行為で、日本が第一の標的にされるのではないか」という懸念も抱かれているようです。これに対し、北野さんはどのように答えるのでしょうか。

走りすぎ?北朝鮮問題で安倍総理は…

読者のOさまから、メールとご質問をいただきました。

北野様

 

いつも貴重で目から鱗の情報、ご意見を驚きをもって楽しみに拝見しています。

 

ところで最近の安倍首相の対北朝鮮対応については 疑問があります。中国に対する戦略は相手の真の意図(尖閣、沖縄奪取、アジアの覇権確立)を見抜き米国をうまく味方につけ、バックパッシング戦略を取るべきと主張されていますし私も確かにその通りと深く納得も致しました。(米国と同調し、南シナ海等への侵略を批判するが 先頭に立って非難することは避ける)。

 

北朝鮮に対する戦略も対中国と同様 バックパッシング戦略が妥当と考えますが、現在の安倍首相のやり方は 米国の後ろから応援するバックパッシング戦略よりもむしろ米国より先頭に立って国際社会で北朝鮮非難の旗を振っており、かえって北朝鮮から第一の敵とみなされかねないような危うい行動をしているように見えます。

 

この点(対中国とはあまりに異なる対北朝鮮戦略)について 北野先生は 如何に評価されていますか? 一度ご意見をお聞かせいただければ幸いです。

中国の話、北朝鮮の話に分けてお答えしようと思います。

中国の「対日戦略」、日本の「対中戦略」とは?

まず、対中戦略からみます。

中国に対する戦略は 相手の真の意図(尖閣、沖縄奪取、アジアの覇権確立)を見抜き米国をうまく味方につけ、バックパッシング戦略を取るべきと主張されていますし私も確かにその通りと深く納得も致しました(米国と同調し、南シナ海等への侵略を批判するが 先頭に立って非難することは避ける)。

(Oさまのメールから)

アメリカを味方につける先頭に立って中国を非難することは避ける

この二つはその通りです。ただ、

バックパッシング戦略を取るべきと主張されていますし

という部分、少しコメントさせてください。

日本最大の脅威は、中国である。ほとんどの読者さんは、同意してくださるでしょうか?何といっても中国は、「日本には尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない!」と宣言している。そして、ロシア、韓国と共に、反日統一共同戦線をつくろうとしている。さらに中国は、反日統一共同戦線に、アメリカを入れようとしている。

新しい読者さんの脳内反応がよく見えます。「ちっ! トンデモ、陰謀論メルマガに登録しちまった。容赦なく解除だ!!!!」。

普通の日本人は、そんな反応でしょう。ですから新しい読者さんは、こちらの「絶対証拠」を必ずご一読ください。

● 反日統一共同戦線を呼びかける中国

さて、中国に対抗する方法、論理的には簡単なんです。相手の戦略が見えているわけですから。

中国の戦略は、「アメリカ、ロシア、韓国と反日統一共同戦線をつくり、尖閣、沖縄を奪う」です。であるなら、日本は、これを無力化するために逆のことをやればいい。つまり、「アメリカ、ロシア、韓国との関係をますます強固にすることで、中国の対日戦略を無力化させる」。で、賢明な安倍総理は、これをやっているのです。

アメリカと仲よくし(アメリカに反対されながらも)ロシアと仲よくし(支持基盤の保守に反対されながらも)韓国と仲よくする

おかげさまで、中国は動けなくなり、日中関係もだいぶ良くなってきました。

なぜ日本は、「中国包囲網」を主導してはいけないのか?

これは、第1にアメリカに「バックパッシングされる可能性があるから」です。「バックパッシング」(責任転嫁)とは何でしょうか?

A国には、強大な敵C国がいます。でも、A国は、自分でC国と戦いたくありません。だから、J国をC国とぶつけて、自分は「漁夫の利」を得ることにしました。

つまり、アメリカは、中国を脅威と認識している。でも、中国はアメリカ国債を世界一保有している国なので争いたくない。そこで、アメリカは、日本を煽って中国にぶつける。日本は経済力第3位で、自衛隊もなかなか強い。アメリカは、日中の戦いを静観し、自分だけ得をします。アメリカは、こういうことをする国です。

たとえば、03年の革命で、ジョージア(旧グルジア)には、親米反ロ傀儡政権が誕生しました。ジョージアは、08年にロシアと無謀な戦争をし、敗れ、結果二つの自治体を失いました(アプハジアと南オセチアは、独立宣言し、ロシアが国家承認した)。

たとえば、ウクライナでは14年2月に革命が起こり、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が倒れました。そして、親米反ロの傀儡政権が誕生した。14年3月、プーチンは、「クリミア併合」を決断します。14年4月、ドネツク、ルガンスクが独立を宣言し、ウクライナで内戦が勃発します。これは、どうみても、「米ロ代理戦争」でした。

第2に、「梯子を外される」可能性がある。これは何でしょうか?

日本とアメリカは、元気よく「中国バッシング」をしていた。ところが、アメリカで政権が交代し、「やっぱり中国とは仲良くしたほうがいいよね」となった。それで、「日米 対 中国」という構図が壊れ、「日本 対 中国」になってしまった。

これも、十分ありえます。

たとえば、ロシアとジョージアの戦争は08年8月です。08年9月、リーマンショックが起こった。それで、米ロとも戦い続ける力がなくなり、和解することにした。いわゆる「米ロ再起動時代」が到来した。ジョージアは、見事に梯子を外されたのです。ちなみに、ウクライナも、同じような状態にあります。トランプは、米ロ関係がどうあれ、「親ロシア」。それで、ウクライナのポロシェンコ大統領に、非常に冷淡です。

だから、日本も、先頭を走って「中国バッシング」をするべきではありません。日中関係は、米中関係と同じぐらいの暖かさ、あるいは冷たさであるべきです。

ここで再度Oさんの、

バックパッシング戦略を取るべきと主張されていますし

私が「アメリカをバックパッシングしよう主張している」と解釈されても仕方ないですが。私が主張しているのは、

アメリカ、ロシア、韓国との関係を強めることで、中国の「反日統一共同戦線戦略」を「無力化」させましょう。

この一点です。ここに「アメリカをバックパッシングして中国にぶつけよう」という意図はありません。

たとえば、アメリカが、「対中国バランシング同盟をつくろうぜ!」と言えば、日本はもちろん参加する。たとえば、アメリカが、「やっぱり、中国とは仲良くするべきだよな」といえば、「おっしゃるとおり。平和が大事です」と言って、日中関係を改善させる(とはいえ、中国が尖閣強奪に動けないよう、日米関係は日中関係より強固である必要があります)。

これって、「結局対米従属ってことですか?」と憤る人もいるでしょう? 従属じゃないです。中国の戦略を無力化させるための対中戦略なのですから。これは、日本の「主体的な選択」です。その証拠に、日本は、オバマさんに逆らってロシアと和解したではないですか? これは、中国の「反日統一共同戦線」を無力化させるためです。「対米従属」であるなら、オバマさんから叱られて、「すいません。プーチンを日本に呼ぶのはやめます」となったでしょう。

安倍総理は、北朝鮮問題で走りすぎか?

次、北朝鮮いきます。

北朝鮮に対する戦略も 対中国と同様 バックパッシング戦略が妥当と考えますが現在の安倍首相のやり方は 米国の後ろから応援するバックパッシング戦略よりもむしろ米国より先頭に立って国際社会で北朝鮮非難の旗を振っており、かえって北朝鮮から第一の敵とみなされかねないような 危うい行動をしているように見えます。

(Oさまのメールから)

Oさまのおっしゃることは、もっともです。日本がアメリカ以上に北を挑発すると、弾道核ミサイルが飛んでくる可能性があります。だから、トランプさんに前面に立っていただく必要がある(まだアメリカには、弾道核ミサイルは飛んでこないのですから)。

米国より先頭に立って国際社会で北朝鮮非難の旗を振っており、かえって北朝鮮から第一の敵とみなされかねないような危うい行動をしている

これは、おそらく安倍総理の国連演説のことでしょう。北朝鮮を挑発するのは良くありませんが、国連演説については、「許容範囲」と思います。

世界のメディアを見ると、トランプ演説だけが取り上げられています。トランプは、「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」「北朝鮮は完全に破壊される」などと言った。(トランプは最近、「小さなロケットマン」という言葉を連発しています。よほど、気に行ったのでしょう)。これで、世界中のメディアが大騒ぎしている(しかし、トランプの支持層は、こういう「カウボーイ的発言」が好きなのですね)。安倍総理の発言は、ほとんど問題視されていません。

そして、金正恩も、トランプ発言にだけ異常に強く反応しています。「わが共和国を無くすとの宣戦布告を行った以上、われわれも相応の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」と。よほどムカついたのでしょう。

一方安倍総理の演説は、「なぜ北朝鮮との対話はムダなのか?」を論理的に解説したものです。聞いた人は、「嗚呼、北は日米韓を、騙し続けてきたのだな」と納得したことでしょう。

そうはいっても、Oさまの「北朝鮮非難の先頭に立つべきではない」というご指摘はその通りですね。これからも、この点は、十分気をつけるべきでしょう。

image by: 首相官邸

出典元:まぐまぐニュース!