最近なんだか交通事故に遭う確率が増えたなぁ、おや?最近なぜか物怖じしなくなったぞ、そんな風に思ったことはありませんか。そんなあなたはもしかするとネコを飼っているのかもしれません。そして、それらが全て寄生性の原虫「トキソプラズマ」の感染によるものだと言われたら、あなたは信じられるでしょうか。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、著者で早稲田大学教授・生物学者の池田清彦先生が、ネズミだけでなく人の心さえ操ると言われる「トキソプラズマ」の不思議について面白いエピソードを紹介しています。

心を操るトキソプラズマ

『心を操る寄生生物』(キャスリン・マコーリフ著 インターシフト)という本を読んだ。ちょっとまとまりが悪くて読みづらい本だが、内容はなかなか面白い。怪しげな説も多いけれど、トキソプラズマ感染症に関する話は信憑性が高そうだ。

トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)はApicomplexa門という余り聞きなれない門(界の下、綱の上の分類学上のランク)に属する寄生性の原虫で、全世界の30%強の人がこの原虫に感染していると言われるほど、世界中にはびこっている生物である。感染率は地域差が激しく、日本では10%程度だが、フランスでは85%にも上る。マラリア原虫も同じ門に属するが、こんなに寄生率が高いのに、あまり問題にならないのは、ほとんどの人は感染されても、体に変調を来たさないからだ。

ネコ科の動物が終宿主で、腸の中で有性生殖をおこなう。ネコ科の動物に取り込まれたトキソプラズマはプラディゾイドという成虫になって、有性生殖を行って接合子を作り、それがオーシストと呼ばれる子虫になって、糞とともに排出される。不思議なことにネコがオーシストを排出するのは感染後1回だけだ。排出されたオーシストはしばらく感染能力がなく、数日後に成熟してこれを取り込んだ人や他の動物に感染していく。

ネコ科以外の動物に感染したオーシストは感染動物の体内でタキソイドという子虫になって無性生殖で増えるが、しばらくすると寄主の免疫によって攻撃されて、これから逃れるべくシストと呼ばれる厚い殻に閉じこもって、筋肉や脳内に潜伏する。シストを取り込んだ動物は感染するが、ネコ科以外の動物の体内では有性生殖ができないため、ネコ科の動物がいないとトキソプラズマの生活環は完成しない。

さて、ネコはネズミを食べる。ネズミの脳に入り込んだトキソプラズマのシストはネズミの脳を操って、ネコに食べられやすいように行動パターンを変化させるというのだ。感染されたネズミはやたらと活発になりネコに見つかりやすくなったり、ネコを見ても恐れなくなったり、ネコの尿の匂いにひきつけられたりするようになるらしい。

ヒトはネコに食べられることはないので、ヒトの脳を操ってもトキソプラズマに有利にはならないが、トキソプラズマにはヒトの脳とネズミの脳の区別はできそうにないので、ヒトの脳もトキソプラズマに操られて、多少とも行動パターンが変化するかもしれない。実際、感染された人が交通事故に遭う確率は、同じ年齢の感染されていない人の2.7倍に達するという。もっと一般的には、感染者は実直さが薄れ、より外交的になるようだ。統合失調症になる確率も多少上昇するらしい。感染されたネズミのドーパミンレベルが上がることが知られており、これが派手な行動や統合失調症の発症に多少とも関係していることは大いにあり得る。ふと思ったのは、最近ネコ好きの人が増えてきたのは、トキソプラズマに感染された人が増えてきたせいかもしれないね。(つづく)

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出典元:まぐまぐニュース!