J1デビュー以来、9試合連続で先発出場のチャナティップ。その高いテクニックで観衆を魅了する。(C) J.LEAGUE PHOTOS

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 タイの若きスター、チャナティップ・ソングラシンが北海道コンサドーレ札幌へ移籍合流して3か月。DAZNのお陰で何処へ居ても試合が視聴出来る今日なのだが、彼のプレーを観る度になんだか晴れない気分になっていた。筆者が知る彼のプレーぶりではないからだ。理由を探りたくなり札幌へと飛んだ。

 
 J1残留争いのライバル、アルビレックス新潟とのリーグ戦を翌日に控えた22日、練習は定刻通りに始まった。澄んだ空気と心地良い陽が射しこむ、宮の沢白い恋人サッカー場。ウォーミングアップからボール回し、最後にはハーフコートを使った紅白戦を45分。この練習を最初に切り上げてきたのは意外にもチャナティップだった。
 
 出待ちするファンへサインと笑顔を振る舞った後の囲み取材、ローカル局の番記者から試合への意気込みを聞かれ対応する姿には、やはりどこか元気がないのである。
 
 チャナティップの動向は、ネットメディアを中心に本国タイでも連日報道されている。タイメディア大手、サイアム・スポーツは、常駐3名体制で彼を追い続けている。
 
「昨日はタイ人が練習場をジャックしていましたよ。練習見学ツアーで多くのタイ人観光客が押し寄せ、またそこへチャナティップの彼女(ピッチャナー・サクサゴーンさん/タイの国民的女優)やご両親が遊びに来たものだから大変な賑わいでした」と彼らは誇らしげに話してくれた。また右腕となっている通訳は、ムアントン・ユナイテッド時代から彼をよく知り、常に傍でサポートしている。そこには多くのタイ人に囲まれた生活があり、また札幌にはチャナティップ旋風が吹き荒れていた。
 
 移籍後9試合連続でのスタメン出場を続け、チームにも十分に馴染んでいることは分かった。また新潟戦では、付き纏う相手を圧巻のテクニックで剥すプレーは魅力的だったし、試合後、マッチアップした新潟DFの富澤清太郎は「独特の間合いやモーションで突っ掛けて来る」と、この日前線を外国人で固めた札幌の攻撃セットの中で、真っ先に彼のスキルを評価した。
 
 来日中のチャナティップの父、コンフォップ・ソングラシン氏は「息子は日本が大好きで強い憧れを持っていたんです。数年前、マレーシアのクラブから好条件の移籍オファーをもらった際にも断りを入れ、日本移籍のタイミングを計っていたぐらいですから」と逸話を披露してくれた。彼が望み選んだ移籍だったことは改めて理解したのだが、あの元気のなさは何なのだろうか。
 実はずっと感じていた。今の彼はタイで輝きを放っていた彼とはまるで違う。これでもかという程に小刻みにボールを触りながら自らのリズムを作りだして試合を作るタイプの選手にも拘らず、今はまわりとの連係を意識するばかりにボールタッチが極めて少なく彼の持ち味が出せていない。ティーラシン・デーンダー(ムアントン・Uの王様/タイ代表10番)やクレイトン・シウバ(BECテロやムアントン・Uで長年チームメイト)と奏でていたような、ファンをとろけさせる滑らかな崩しは存在しない。
 
 彼ならもっともっと出来るのに、そんなやるせない想いをタイメディアチームに投げると「俺たちだってそうは思っているけど」と苦笑いを浮かべながら、返答に困る表情を見せた。立場を察してくれということなのだろうか。
 
 間違いなく彼は、今まで経験したことのないレベルの大きな壁にぶち当たっている。人懐っこくて真面目な性格ゆえに、タイで活躍を楽しみにしている多くのファンや道民の期待を上手に消化できていないのかもしれない。また取材を通じ、ストライカーではなくチャンスメーカーである彼に、ファンや地元メディアがゴールを期待し続ける現状も、彼にはプレッシャーになってしまっているのであろうと。
 
 しかし彼は助っ人だ。期待に応えなければならない立場であり、彼の活躍が東南アジアサッカー界の今後をも左右しかねない立場でもある。もう彼だけの問題ではなく、ここで明確な数字を残さなければ、アセアン年間最優秀選手の名も廃りかねないのだ。
 
 だからこそあえて言いたい。チャナティップよ、今こそエゴイストになるべきだ! もっと野性的に、本能のままにやってみろよと。彼本来の輝きこそが、チームのJ1残留への近道だと信じて止まないのだ。
 
取材・文:佐々木裕介