増谷栄一の経済コラム: グリーンスパンFRB議長、住宅バブルに再び警鐘鳴らす
2005年08月28日23時34分 / 提供:ライブドア・ニュース
−今週の株式市場、議長発言めぐって波乱の展開も−
【ライブドア・ニュース 2005年08月28日】− 今週の米株市場は、アラン・グリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長の景気発言をめぐって、波乱が起きそうだ。先週末の26日、同議長はワイオミング州のリゾート地、ジャクソン・ホールで開かれた「グリーンスパン時代−未来への教訓」と題した、カンザスシティ地区連銀主催の講演会で、この18年間、FRB議長として米国の金融政策の舵取りを任されてきたことへの思いを噛みしめながらも、しっかりと米国の将来の経済の舵取りについても直言をすることを忘れなかったからだ。グリーンスパン議長は、来年1月末で退任することが決まっているが、この日の講演で、やはり、気がかりなこととして、今の住宅バブルがある日、突然、崩壊し、米国経済が景気後退に陥る可能性があること、また、産業界に根強い貿易保護主義の姿勢やホワイトハウスと米議会による双子の赤字(財政赤字と貿易赤字)解消に向けた取り組みの不十分さによって、米国経済がこれまで、長く享受してきた「resilience(強靭性)や「flexibility(柔軟性)」さえも危うくなることを指摘したのだ。同議長はもし、米経済の強靭性と柔軟性が失われるようなことがあれば、金利の上昇など投資リスクプレミアム(リスクに対して支払うコスト)の上昇を招き、住宅バブルの崩壊や株価急落など富裕資産価値の下落は避けられないと警告する。
今回の講演で、同議長は「米国の経済インバランス(不均衡)」という言い方で、ここ数年の住宅市場の過熱ぶり、特に、住宅価格の高騰に懸念を改めて強調した。同議長は、「2000年の株価急落によって、家計の可処分所得に対する(富裕)資産の比率は低下したものの、その後、ここ数年間で株価や住宅価格が上昇に転じ、再び、この比率は大幅に上昇している」と述べ、所得以上に巨大化した住宅資産などの富裕資産のバブル化に警鐘を鳴らした。同議長は、この富裕資産の含み益は、「(景気が悪化して)投資家が突然、慎重な態度を取るようになれば、リスクプレミアムが上昇し、富裕資産はいとも簡単に消えて無くなる」と住宅バブルの崩壊の可能性を指摘する。ただ、これは同議長のこれまでの持論を繰り返したもので、特段、目新しいことはないのだが、この発言が出るたびに株式や債券、為替の市場関係者は大きな警鐘として受け止めている。26日の株式市場は、同議長発言を米経済の先行き懸念として受け止め、ダウ平均株価は下落、債券市場も金利上昇懸念から長期債は下落した。
住宅バブルについては、同議長は、米国全体がバブルになっているという認識は持っていない。ただ、米国内のいくつかの地域で住宅バブルの現象が見られるという。5月のニューヨークでの講演で、同議長は「フロス(泡)」という言い方で初めて、バブルを指摘している。最近でも、7月に、同議長は住宅ローンの新商品として登場してきた「インタレスト・オンリー・ローン」という、最初の10年は金利だけの返済で済むローンや「ハイブリッド変動金利ローン」という最初の3−10年間は固定金利で、その後は変動金利というハイブリッド型の荒手のローンの利用に危惧を示した。これだと資金を容易に借りられるので、住宅ブームという“火”に油を注ぐようなものだからだ。
また、同議長は7月に、「投資家は金利上昇リスクに無関心すぎる」とも警告している。これは、4年連続で過去最高を更新して好調な住宅販売の背景には、低金利政策の恩恵があり、個人が低金利の住宅ローンを使って、積極的に住宅購入を進めているわけだが、今後、金利が上昇し、リスクが高まる可能性があることに注意すべきだと言っているのだ。FRBは米国の政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を引き上げてきており、この金利上昇リスクについて、個人も含めた投資家の認識は甘いとグリーンスパン議長は指摘する。
この日の講演でも、グリーンスパン議長は「このような(富裕)資産価値の上昇は、しばしば、市場関係者の間では、構造的、かつ、恒久的なものと受け止められている」と述べ、金利上昇リスクに対する無関心さを批判した。その上で、いったん、景気が悪くなれば、資産価値は急落し、借金の取り立てが起き、株価や住宅価格は急落すると警告する。「長い間、低リスクプレミアムを享受していたあとに来る後遺症に対して、歴史は寛大だった試しはない」とまで言い切る。実際、1990年代の株式相場のバブルのとき、同議長は1996年12月にあの有名な「irrational exuberance(根拠なき熱狂)」という名言を残して、市場に冷静になるよう警告したが、市場はそれを無視して、株価は高騰し、結局、2000年に株式相場のバブルが崩壊、数兆ドルもの含み益が泡と消えている。それ以来、市場にとって、同議長の警告は重みが増しているのだ。
FRBは、2001年のブッシュ政権発足直後から始まった景気後退を乗り越えようと、銀行間のオーバーナイト金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を、46年ぶりの超低金利といわれた1%まで引き下げて行くが、景気の回復に伴い、昨年6月から、金融引き締めに転換、FF金利の誘導目標を「measured(徐々にゆっくりとした)」ペース(0.25%ポイントずつの小刻み)で、これまで10回連続で引き上げ、現在は3.5%まで上昇してきている。しかし、それでも、住宅ローン金利の指標である10年国債の利回り、つまり、長期金利だが、これだけはなぜか短期金利の上昇に連れて上昇しないため、住宅需要の強さは変わらず、住宅価格も6月までの1年間で平均12.5%も上昇しており、バブルは依然続いている。
同議長はFF金利の上昇は長期金利の上昇に波及して行かない理由をうまく説明できないことから「なぞ」と呼んでいるのだが、市場でよく言われるのが、日本、そして、中国などアジアの新興市場国が膨大な外貨準備の運用先として、世界的に見てまだ金利水準が4%台と高い米国の国債を積極的に購入しているため、長期金利が上昇しにくいという説だが、同議長自身は、この説だけでは、過去の現象の説明にはなるが、ここ最近の長期金利の上昇が起きない理由としては、不十分な説明だとしている。
債券市場が、この日の同議長の発言で注目したのは、同議長がイールドカーブ(利回り曲線)に言及した点だった。同議長は、イールドカーブや国際商品市況、名目所得などの経済指標はどれも単独でFRBの金融政策を決定することは難しいという見方を示唆したからだ。26日時点で、長期金利の指標である10年国債の利回りは4.17%、一方、短期金利の2年国債の利回りは4.04%で、その長短金利差はわずか13ベーシスポイント(0.13%ポイント)しかない状況になっている。この長短金利差を示すイールドカーブは、景気がいいときはインフレ期待が高いため、長期金利の方が短期金利よりも高くなるため、右肩上がりの曲線を描くが、いまは、平坦で、いずれ、右肩下がりのイールドカーブ、つまり、逆イールドカーブになる可能性すら聞かれる。右肩下がりということはインフレ期待が低いという表れで、景気の低迷の兆候となるから、単純に考えると、FRBは、利上げをここら辺で一休みするだろうと思うところだが、市場では、この日の同議長の発言では、イールドカーブだけで判断しないと言っているので、当面、利上げは継続すると受け止めたのだ。
グリーンスパン議長は、この日の講演で、米経済の柔軟性と強靭性があるからこそ、原油先物が1バレル=68ドルという記録的な高騰が続いても対応できるとしたが、その強靭さも産業界の保護主義的な傾向や2008年には団塊の世代が退職し、巨額な年金を支払わなければならない時代が来ることから、財政赤字の悪化は避けがたく、早めに財政赤字を圧縮しないと米経済の強靭性も柔軟性が失われると警告した。同議長は4月21日、米上院予算委員会でも、「今後も財政赤字が拡大すれば、米経済が停滞、あるいは悪化する恐れがある」と証言し、膨張する財政赤字に対して議会が対応しなければ、米経済が長期的に悪化する恐れがあると警告している。米政府は2004年度に4120億ドルの財政赤字を計上したが、2005年度は、4270億ドルの財政赤字が予想されているのだ。
同議長は、財政赤字の削減が進めば、国民の貯蓄率が改善(上昇)するので、海外から巨額の資本流入が抑制され、経常赤字の削減にもつながると主張する。そして、この日の講演で、同議長は、「経済の柔軟性が長期的に安定して維持される限り、経済のインバランス、特に経常赤字と住宅ブームは、雇用や所得、生産を通じた痛みを伴う是正ではなく、金利や為替、物価を通じて是正されるだろう」と楽観的な見方を示した。しかし、株式市場は、その言葉の裏を取って、グリーンスパン議長は景気の悪化懸念を示したとして、26日のダウ平均株価指数は53ドル安の1万0397ドルに下落したのだった。 【了】ライブドア・ニュース 増谷栄一記者
(参照:http://blog.livedoor.jp/emasutani/)
(経済コラム:http://blog.livedoor.jp/eiichimasutani/)
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