Paula Seligson and Tim Reid

[インディアナ(ペンシルバニア州)/チリコシ(オハイオ州) 19日 ロイター] - 米国でオピオイド系鎮痛剤の乱用による死者数が増加するなか、この新たな薬物危機の最前線に立つ地域社会が、財政負担という思わぬ打撃に直面している。

オハイオ州コロンバスから南に1時間の距離に位置する人口7万7000のロス郡は、オピオイド系鎮痛剤の乱用に関連する死亡件数が急増している。2009年の19人に比べ、昨年は44人に。薬物乱用のまん延は、人命を奪うだけでなく、郡の財政にも負担をかけている。

同郡当局者によれば、州の養護施設に収容されている児童200人のうち、両親がオピオイド中毒に陥っている割合は、5年前の約40%から約75%に上昇。こうした児童の場合、専門家によるカウンセリングや、長期収容や治療が必要になるため、養護コストがかさむという。

これが原因で、ロス郡の児童養護関連予算は130万ドル(約1億4600万円)から約240万ドルへ2倍近くに跳ね上がった、とダグ・コルコラン郡政委員は語った。

一般予算がわずか2300万ドルの同郡にとって、これは大きな財政負担だという。現在、郡政委員らは、青少年向けプログラムや経済開発スキームなど、膨れあがるオピオイド中毒対策コストを賄うために削減できる予算項目はないか検討している。

「郡予算のうち、削減できる裁量部分はきわめて少ない。非常に厳しい」とコルコラン氏は言う。

全米の市町村や郡が、2015年だけで3万3000人の犠牲者を出した薬物中毒危機による財政コスト増への対処に頭を悩ませている。地方自治体の当局者や郡予算の専門家ら20数人へのインタビューとデータからそうした状況が明らかになった。

これらは、地方自治体に与える財政影響を垣間見せてくれるが、完璧な全体像の把握には程遠い。というのも、郡や州からの情報を整理した、中枢となるべきデータベースが存在しないからだ。したがって、問題の本当の大きさは依然として捉えることが出来ない。

主に処方薬としての鎮痛剤であるヘロイン、フェンタニル(モルヒネより50─100倍強力な薬剤)を中心とするオピオイド系薬物は、米国の「薬物過剰摂取」問題に拍車をかけている。

トランプ大統領は先月、オピオイド中毒を「国家的な緊急事態」と呼んだが、まだ国家非常事態宣言は発令されていない。もしそのような動きがあれば、各州は対策のために連邦予算を利用できるようになる。

<全体像の把握はこれから>

 

薬物過剰摂取の増加に取り組む郡は、緊急通報の増加、監察医や検視官への支払い増加、刑務所や裁判所の過密状態によるコスト高に直面している、と全米3069の郡や地方自治体を代表する全米カウンティ協会のエグゼクティブ・ディレクター、マット・チェイス氏は語る。

同協会が7月に年次総会を開いた際に、会場を埋めた参加者の前で、各郡当局者がオピオイド中毒対策のノウハウ、危機がもたらした財政問題を発表した。危機が郡予算に与えた財政上の影響をより完全に把握するため、全米カウンティ協会は初期段階の情報収集に努めている、とチェイス氏は語る。

山がちの地形で村落地域を主体とするペンシルバニア州インディアナ郡の状況は、オピオイド中毒が、いかに地方におけるサービス及び財政を圧迫しているかを物語っている。

郡庁所在地インディアナには、現代的な大学のキャンパスが立地し、メインストリートにはレストランが並び、星条旗が飾られている。

だが、静謐な外観の下では、オピオイド中毒が至るところでまん延している、と郡の麻薬対策タスクフォースを率いる秘密捜査官デビッド・ロスティス氏は語る。

ロスティス氏の車に記者が同乗した際、彼は次々に様々な場所を示してそれぞれ説明した。それらは、医師がセックスのためのオピオイド系薬剤を売っていたビル、ティーンエイジャーが過剰摂取で死亡した裕福な家族の住む家、最近ドラッグ絡みの殺人事件が起きた小道、過剰摂取のため女性が車中で死亡しているのに道行く人々が気づかなかったガソリンスタンド、などだ。

インディアナ郡における薬物過剰摂取による死亡率は昨年、人口10万人当たり50.6人だった。これは州平均の36.5人を大きく上回っている。

同郡における検視や毒物検査のコストは、2010年の約8万9000ドルから2016年には16万5000ドルへと、6年間で2倍近くに膨れ上がった。

裁判コストも増大している。地元の当局者によれば、これは主として、オピオイド中毒関連の犯罪の訴追及び被告人のための公選弁護人費用のためだ。

インディアナ郡政府の上級幹部マイク・ベイカー氏は、検視官報酬コストの増大を危険準備金で賄っていると言う。こうした準備金の拠出は、2014年の1万9000ドルから、昨年は6万3000ドルに急増した。2014年、同郡における薬物関係の死亡数は10件だったが、2016年には53件に増えている。

インディアナ郡から南に約480キロ離れたウェストバージニア州マーサー郡では、オピオイド中毒関連の刑務所費用が、人口6万2000人を抱える同郡の1200万ドルという小規模な年間予算を侵食している。

同郡における今年の刑務所費用、2015年に比べて10万ドル増加する勢いだ。ここでは収容者1人あたり1日48.50ドルを刑務所に支払っているが、郡当局のデータによれば、今年の「収容者・日」は、2015年に比べ、2000以上も増えそうだという。

「こうした刑務所費用の増加分の少なくとも90%はオピオイド中毒関連だ」と語るのは、同郡の郡政委員で、全米規模の郡オピオイド中毒対策タスクフォースに参加するグレッグ・パケット氏。「毎月、刑務所のために支出する金額は、経済開発、保健部門や救急サービスの費用の総計よりも多くなっている」

ウェストバージニア州はオピオイド危機の最前線にいる。

2015年に、同州は3年連続で、薬物過剰摂取による死亡率で全米1位を記録。2016年の暫定数値では、薬物過剰摂取による死亡が883件記録されており、そのうち755件は少なくとも1種類のオピオイド系薬物が関連していた(2014年は全体で629件だった)。

<検視のビジネス化>

 

シドニー・ゴールドブラット氏、カーティス・ゴールドブラット氏の父子ほど、オピオイド中毒について詳しい人はほとんどいない。

ゴールドブラット父子は、ペンシルバニア州ウィンドバーを拠点に、検視業務のForensicDXと薬物検査業務のMolecularDxという2つの企業を経営している。両社は、インディアナ郡を含む州内10郡で検視業務を請け負っており、遺体1体当たり2000─3000ドルの報酬を得ている。

ゴールドブラット父子によれば、2014年に彼らが対応した死亡例のうち、薬物過剰摂取によるものは約40%だった。昨年はこれが62%に跳ね上がった。父親のゴールドブラット氏は50年にわたって検視業務に携わっているが、これほどの規模の薬物中毒の蔓延は経験がないという。彼が検視を始めた頃は、薬物の過剰摂取はまれだった。

ゴールドブラット父子が2014年にForensicDxを開業したとき、スタッフは3人で、業務の範囲は3つの郡に留まっていた。現在ではスタッフが7人、10郡に事業を拡張。主として薬物関連の需要に応えるためだという。

インディアナ郡の救急サービスも、やはりオピオイド中毒のまん延で財務面で苦境に置かれている。同郡の救急サービスの主力となっている非営利団体Citizens’ Ambulance Serviceでオペレーション担当ディレクターを務めるランディ・トーマス氏によれば、2016年以来、オピオイド中毒関連の呼び出しだけで、10万ドル以上の損失が出ているという。

オピオイド過剰摂取の患者が病院に搬送された場合にのみ報酬を得る仕組みだが、同氏によれば、過剰摂取の薬物に適切な治療を施した場合でも、彼らが病院に行くことを拒否すれば報酬は得られないという。

オピオイド系薬物の過剰摂取から命を守るナロキソン(別名「ナルカン」)の投与を受けて死の淵から生還した人々は、意識を回復すると怒り出し、攻撃的になり、病院への搬送を拒むことが多い、と同氏は言う。

オピオイド中毒関連コストが膨らむなかで、インディアナ郡のベイカー郡政委員は、今後どのような状況になるか確信が持てないという。州政府、あるいは連邦政府による介入がない限り、郡としてはサービスを削減するか増税するしかない、とベイカー氏は言う。

「これによって完全に基準が変わってしまった。予算管理における予測不可能性がこれまでとまったく違うレベルになった」とベイカー氏は話している。

オピオイド中毒禍のせいで郡財政が大きな問題に直面しているとはいえ、ベイカー氏にとって何よりも辛いのは、それによって奪われた人命だ。昨年秋、フェンタニルの過剰摂取で甥を失っている。

23歳だった甥の死について語っていたベイカー氏は、気持ちを整理しようと黙り込んだ。「何よりも辛く、困難な経験だ。世界の誰にも、このような思いを味わってほしくない」

(翻訳:エァクレーレン)