ここまで9試合で12ゴールと際立った数字を残しているメッシ。ネイマール退団の影響を微塵も感じさせない。写真:Rafa HUERTA

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 今年の6月上旬、アルゼンチン代表の一員としてオーストラリアで開催されたブラジルとの親善試合に出場したリオネル・メッシは、結婚式が行われる地元ロサリオに飛び立つ前の数日間、バルセロナで休暇を過ごした。
 
 その間、バルセロナ新監督に就任したエルネスト・バルベルデと話す機会があり、お互いに近未来のチーム構想について意見交換した。もちろん、ネイマールもチームの一員であることが前提のミーティングだったが、その後にブラジル人アタッカーはパリSGへと去っていった。
 
 しかし、その無二の相棒の退団後も無関係と言わんばかりに、メッシの得点力と攻撃力に陰りが見られるどころか、ここまで公式戦9試合で12得点と驚異的なゴールラッシュを披露。少なくともゴール前で見せるプレーに関しては、偉大なキャリアの中でも最高級の輝きを放っている。
 
 この開幕以来のメッシの大爆発を後押ししているのが、バルベルデ監督の存在だ。その事実を証明するように、「レオはエルネストと良好な関係を築いている。とても満足している様子だ」とメッシの関係者が語れば、クラブ関係者も「エルネストはメッシの取り組みぶりにとても満足している」と話す。
 
 ネイマール退団が決まった直後、バルサ・ファンの多くはパニック状態に陥った。当初はクラブもメルカート中の後釜探しに躍起になっていた。実際、ネイマールのバルサでの貢献ぶりについては、「他人が真似できないテクニックの持ち主だ。彼のプレーはファンタジーに満ち溢れている。攻撃の要の一人として、バルサの勝利に絶大な貢献を果たしてくれた」とあるクラブ幹部が認めるように、異論を挟む余地はない。
 
 しかし、チームの好調ぶりを後ろ盾にシウタ・デポルティーバ(バルサの練習場)の関係者の一人は、ネイマール退団のポジティブな面を語る。
 
「ネイマールがいなくなったことで、チームが強くなったという見方もできるかもしれない。いや、そこまでは言い過ぎだとしても、守備のコンパクトネスが増して、チームとして戦う意識が強くなったことは間違いない」
 
 メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールからなるMSNを戦術の軸に据えた弊害として、前線トリオが守備をサボることで全体が間延びしてしまうことが近年のバルサの大きな課題だった。今夏のチーム作りの際に、「守備のコンパクトネスを向上させることでメッシを輝かせ、チーム全体のプレークオリティを高める」を合言葉にしたのも、そうした背景があったからだ。
 
 開幕以来、メッシを昨シーズンまでの右サイドではなく、中央に置いて「偽のCF」的に自由にプレーさせるバルベルデ監督の采配もその一環だ。
 
「僕はメディアプンタ(トップ下)だ」
 
 マシア在籍当時、長髪でニキビ顔の一部が隠れていたメッシ少年はそう語っていたが、新指揮官から与えられたジョゼップ・グアルディオラ時代と同じポジションでナンバー10は、組み立て、崩し、フィニッシュと大車輪の働きを見せている。
 
「あのポジションだと、守備の負担も軽減される。メッシには前線で思う存分自らのサッカーを表現してもらいたい。少なくともゴール前で決定的な仕事する能力において、彼を上回る選手はいないからね」
 
 クラブ関係者の一人もバルベルデ監督の決断に賛同する。そして、当のバルベルデ監督の見解はこうだ。
 
「レオはいざとなれば、どこのポジションでもプレーできる。彼のプレーエリアが変わることによってチームもアジャストする必要があるが、言うまでもなくそれはポジティブな意味でだ。それにレオは本能的にゴールチャンスを嗅ぎ分ける嗅覚を持っている。ポジションを問わず、ゴール前で決定的な仕事を見せられるのは、そうした彼独特のセンスの賜物だ。組み立てに絡み、得意のパスやシュートでフィニッシュに違いを作り出してもらう。それが我々の狙いだ」