くるりが、9月23日に第11回目となる【京都音楽博覧会2017 IN 梅小路公園】を開催した。

 12:00。毎年くるりの開会宣言で幕を開ける京都音博に、今年ひとりのメンバーが帰ってきた。ファンファン(Tp)だ。育児休暇を経て今年のフジロックフェスティバルより本格的に活動復帰となった彼女が岸田繁(Vo&G)、佐藤征史(Ba)の横に並び「京都音博2017」の開会を高らかに宣言。

 12:05。今年のトップバッターはインドネシアより初来日のディラ・ボン。赤とオレンジのビビッドな衣装に身を包み、たった一人で舞台へ登場した、小柄の女性シンガーはその透き通る歌声で、いきなり存在感を放った。特に、故郷のバンドゥンに対する感謝の気持ちを込めた「Punkak Pohon Bandung」では、会場にそよ吹く秋風にも似た心地よさで梅小路公園を包み込む。彼女が描くそのメロディには、どこか歌謡曲にも通じるような懐かしさがあり、お互いに島国である日本とインドネシアが生み出す旋律に共感せずにはいられない時間となった。

 12:30。2アクト目に登場したのは、アルゼンチンのバンドネオン奏者、トミ・レブレロ。今回が3回目の京都音博出演となる彼は、満面の笑顔でステージに現れる。昨年出演がかなわなかったものの、2年ぶりの梅小路公園がまるでホームグラウンドのように、喜びに満ちた表情を浮かべパフォーマンスを披露。バンドネオンのみならずアコースティックギターやウクレレを巧みに操りステージを展開していた。もっとも歓声が上がったのは「Matsuo Basho」。聴きなじみのある言葉が、予期せぬタイミングとリズム感で繰り出され、大勢の観客の注目を集め、トミも情熱あふれる唄と演奏でそれに応えた。音博の特徴ともいえる ボーダーレスを、強く印象付けるアクトとなった。

 13:30。京都音博フィルハーモニー管弦楽団の登場だ。音博フィルは京都市立芸術大学卒のメンバーを中心に全国で活躍する若手奏者だけで構成されており、この日のために結成された。くるりにとっては、昨年荒天中止のためアンバサーデ・ オーケストラとの共演が果たせなかった経験をリベンジするかのような新企画。同じく京都市立芸術大学卒の大谷麻由美によるしなやかで華麗な指揮のもと、岸田にとっての思い出の曲「ホルベルク組曲より『前奏曲』」と、FMレギュラー番組用に 書き下ろされたテーマ曲「2017年の行進曲」の2曲を披露した。オーケストラの生音と、時折会場に響く汽笛の音が、音博ならではの有機的な空間を作り上げていた。

 13:40。音博フィルがそのままステージに残り、最注目のデュオ、アレシャンドリ・アンドレスとハファエル・マルチニが姿を現す。 二人の登場を前に、佐藤は「自分たちがやっている『くるり電波』でこの1年半くらいブラジル・ミナスの音楽をよく流してきた」と 紹介。そんな紹介に会場中が固唾を呑む中、屋敷豪太(Dr)と小谷和秀(Ba)そして音博フィルを従え5曲を披露。時に、下手に座るハファエルがキーボードでえもいわれぬ美しい旋律を奏で、中央のアレシャンドリがアコースティックギターを持ち、アーシーな歌声を聴かせる。時に、アレシャンドリがフルートを響かせ、ハファエルが張りのある歌声でオーケストラ&バンドサウンドをリードする。その巧みな二人の表現に、多くの聴衆は自然と体を揺らし、終わりの一音を鳴らせた直後、会場中からオ ベーションが巻き起こった。音楽における新時代の扉が開いた気さえする。

 15:10。くるりの演奏が始まる。今年にかける意気込みが感じられるこの出演順。11回目となる音博は主催者の演奏がイベントの中盤を務め、肝いりの企画が最後に待ち受けているのだ。昨年この会場でなしえなかったフルオーケストラとの演奏。 早速冒頭からその管弦楽のダイナミクスが会場に届く。10年前に発表されたシングル「ジュビリー」。奇しくもこの楽曲がリリースされた2007年から京都音博が始まったというのもまた、これまでのくるりとこのイベントにおけるストーリーを感じずにはいられない。「everybody feels the same」の世界観と、音博の掲げるコンセプトもまたベストマッチだ。続けて、京都の玄関口にある、ジェイアール京都伊勢丹の創立20周年を記念し提供された「特別な日」、そしてニューシングル「How Can I Do?」を披露。バンドとオーケストラのサウンドに乗せられ岸田の歌声も高らかに響き渡った。アクトの最後に演奏したのは「奇跡」。昨年の無念を今年返せたという想いをタイトルにも込めてかみしめているように見えた。

 17:05。いよいよ始まるメインイベント、「京都音博“生”歌謡ショー」。岸田がチェリスト・徳澤青弦とともに時間をかけて完成させた管弦楽アレンジに乗せ、5組の多彩なボーカリストが登場した。1番手はGotch。彼がハンドマイクで歌う姿自体あまりお目にかかれないが、屋敷、高桑圭(Ba)が刻む力強いビートに乗ってステージを縦横無尽に踊る姿というのもまた、これまでに見られたことはないだろう。歌い手にとってそこまでの興奮を覚える推進力がオーケストラのダイナミクスによって生まれているというのが実感できる。「Taxi Driver」では、しなやかなボーカルと管弦楽のマッチングが会場中を優しく包み込んでいた。

 17:25。この日のボーカリスト2人目は田島貴男(ORIGINAL LOVE)。CMやドラマで耳なじみの深い曲を連発し、色気 あふれる歌声が夕暮れ時にあいまって、一気に大人の雰囲気を醸し出す。そんな田島も「このアレンジで歌うのは難しい」と 話したのは、「接吻」。岸田の言う「スコアを通じてのセッション」というミュージシャンとしての魂のぶつけ合いはこのMCからも垣間見えた。岸田と徳澤による斬新なアレンジに舌を巻きながらも、その美声で会場中を魅了した田島。まさに歌謡ショー、 その歌声に酔いしれていく聴衆が際立ってきた。

 17:45。蛍光色の衣装に身を包み現れたのはUA。佐藤が「実はレーベルメイトなんです」と紹介された彼女は京都音博初出演。大学時代京都に通っていたと明かし、このステージで歌うことに対する喜びを語った。目立つ衣装はさることながら、彼女が存在感を見せたのはやはり歌声。その声色と伸びに聴衆がじっくり耳を傾ける。この日披露された「AUWA」はすべてを包むこむ母なる愛がテーマ。4人の子を持つ彼女による入魂の楽曲に、新たな視点でアレンジが加わり、 Dr.kyOn(Key)と屋敷のポリリズムによる独特の空気感が会場中を包んだ。歌謡ショーといいながら、サウンドは異国風の薫りも感じさせ、純和風とはいかない音博ならではのステージが続いていく。(続く)

 18:05。言わずと知れた布施明がステージに登場。老若男女を問わず、誰しもが耳を傾けてしまう完成度の高いボーカルに歓声と静寂が交互にやってくる。「シクラメンのかほり」では、佐橋佳幸のギターと徳澤青弦のチェロ、そして布施のボーカルという三音のみで始まるアレンジに。単なる力強さでは表せない、歌の力、音楽の力がひしひしと伝わってくる印象だ。会場の外まで響くその歌声に公園全体が耳を傾けているようで、この日一番の感動を呼びこんでいた。

 18:25。歌謡ショーのトリに現れたのは、真っ白な衣装をまとった二階堂和美。「なぜ自分が布施さんの後なんでしょうか!?」と登場時のMCで叫んでいたが、その軽やかではつらつとしたボーカルは、夜に向かっていく梅小路公園を再び朝陽のように照らすまばゆい光のようだった。「いてもたってもいられないわ」で見られた躍動感は、歌謡ショーそして音博のフィナーレに向かっていく空気も生み出し、自然と会場全体に笑顔が生まれていった。

 18:45。5人の歌謡ショーが終わり、くるりの3人が再登場。音博に来場した11,000人の聴衆へ向けて、感謝の気持ちを改めて述べた。フィナーレは「宿はなし」。新たに今回挑戦した”生”歌謡ショーというスタイルも相まって、岸田の歌声が梅小路公園中に最後まで響いた。

◎公演情報【京都音楽博覧会2017 IN 梅小路公園】
2017年9月23日(土)
京都・梅小路公園 芝生広場
OPEN10:30 START12:00
出演:くるり/Alexandre Andres & Rafael Martini/UA/ Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)/田島貴男(ORIGINAL LOVE)/ Dhira Bongs/Tomi Lebrero/二階堂和美/布施 明/ and 京都音博フィルハーモニー管弦楽団
総合司会:野村雅夫
写真:井上嘉和