脳に関する常設展「C3RV34U」。仏パリのシテ科学産業博物館で(2014年9月15日撮影、資料写真)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】長年にわたり重度の昏睡状態にある男性患者(35)の意識レベルが、神経刺激技術によって向上した可能性があるとの研究結果が25日、発表された。

 米科学誌カレント・バイオロジー(Current Biology)に掲載された研究論文は、いわゆる植物状態となった1人の患者のみに基づくものだが、15年前の交通事故で無反応状態に陥ったこの男性に改善が観察されたため、今回の研究の適用範囲を他の患者にも拡大することを考えていると、研究チームは述べている。

 今回の観察結果について、仏リヨン(Lyon)にあるマーク・ジャンヌロー認知科学研究所(Institut des Sciences Cognitives Marc Jeannerod)の研究者、アンゲラ・シリグ(Angela Sirigu)氏は「希望が消え失せたように思われる場合でさえ、脳の可塑化や脳の修復は可能」で「この世界における患者の存在感を向上させることができる」と語っている。

 この治療では、脳とその他の主要臓器とを結ぶ迷走神経に電気パルスを送るために、胸部に埋め込んだ電極を使用する。迷走神経刺激療法は、てんかんやうつ病などの患者を治療するためにすでに利用されている。

 論文によると、迷走神経の刺激を1か月間施した結果、男性患者は注意、動作、脳活動などに著しい改善を示したという。

 男性患者はまず、物を目で追ったり、言われた向きに頭を傾けたりなどの簡単な指示に反応し始めた。また、注意力が増したように見え、療法士が本を朗読するのを聞いている時は目を覚ましていることができるようになった。

 さらには、何年もの間みられなかった、脅迫的な刺激に対する反応も示すようになった。研究者が突然、男性に向かって顔を近づけると目を見開いたのだ。

 だが、今回の治療によって男性が以前の状態に戻ったというわけではない。

 動作、感覚、認識などに関与する脳部位での改善を示した脳スキャン結果によれば、男性患者は植物状態のカテゴリーから「最小意識状態」に移行したと考えられる。

 英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)の認知・脳科学の専門家、トム・マンリー(Tom Manly)氏は、これは「意識レベルは重度に変化した状態のままだが、植物状態とは大きく異なり、自己や周囲についての意識があることを示す最小限ではあるが確定的な行動証拠が存在する」ことを意味していると説明する。同氏は今回の研究には参加していない。

 マンリー氏は今回の研究を「潜在的にきわめて心躍る」と評する一方で、「男性患者のこの変化が実際の変化かどうか」に関しては慎重に判断する必要があるとしている。
【翻訳編集】AFPBB News