右脚骨折という負傷が完璧に癒えない状態でレース復帰を果たしたバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)が激しいトップ争いを繰り広げ、最後は5位でチェッカーフラッグを受けた。


ロッシは骨折からわずか3週間でレース現場に戻ってきた

 ロッシがエンデューロバイクでのトレーニング中に右脚の脛(けい)骨と腓(ひ)骨を骨折したのは8月31日。即座に手術を実施し、1週間後に迫っていたホームグランプリの第13戦・サンマリノGPは欠場を余儀なくされた。復活は最速でも第15戦・日本GPかと思われていたが、驚異的な回復と強靱な精神力を発揮して、今回の第14戦・アラゴンGPでレース現場へ戻ってきた。

 レースウィーク初日、金曜のフリープラクティスは午前から雨が降り、慎重な走り出しになったが、ロッシにとっては週末を走り切れる手応えを掴んだいいセッションになった。ドライではなく、ウェットの走り出しであったことがかえって功を奏したと、この日の走行を終えたロッシは初日を振り返った。

「雨の走行は、ほんの少しのミスで転んでしまうリスクもあるけれども、あまり無理をせずに走れる。肉体的にかなり楽なので助かった。午前と午後の2回のプラクティスを終えて、脚の痛みもひどくなっていないし、腫れてもいない。明日以降は天気がよくなるという予報で、通常のセットアップを試すので、自分のレベルも見極められると思う」

 土曜午前はタイム次第で、午後の予選の上位と下位の組を振り分ける重要なセッションだが、ロッシは10番手タイムを記録して上位の組へ進出を果たした。15分のタイムアタックでグリッド順を決定するその予選では、終盤に一時トップタイムを記録し、あわやポールポジションかという状況にもなった。その後、チームメイトのマーベリック・ビニャーレスとホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ・チーム)がロッシのタイムを上回ったものの、最終的には3番手でフロントローを獲得した。

 このグリッド位置にはロッシ自身も「自分でも驚いた」と話し、翌日の決勝レースは「アラゴンは通常のコンディションでもキツいのに、この体調ではさらに厳しいと思うけれどもがんばりたい」とレースに向けた抱負を語った。「明日の決勝は、リアタイヤの選択(ソフト、ミディアム、ハードの、どのコンパウンドをチョイスするかということ)が重要になる。フロントローのスタートなのでいいレースをしたい」と話す口ぶりからは、彼の目標はすでに負傷を考慮した完走などではなく、トップ争いを想定しているようにも見えた。

 アラゴンGPの決勝は23周で争われる。総レース距離は116.771km。右脚骨折から24日目のロッシは1周目からトップグループでバトルを繰り広げ、レース中盤も表彰台圏内を争い続けた。終盤には少しタイムを落としたものの、最後はチームメイトのビニャーレスから0.6秒差の5位でチェッカーフラッグを受けた。

「23ラップは肉体的にもキツく、最後の7〜8周は少しつらかった。チームのサインボードとコースサイドのスクリーンで確認したら、4人が背後にいるとわかったので、『これであきらめたら10位になってしまう』と思い、がんばってベストリザルトを目指した。トップ5に入れると正直思っていなかったので、とてもいいレースだった」

 その口調からは、今のコンディションでできる限りのことはやりきった、という充足感がうかがえた。

 さらに「体調が普通ならもっと速く走れて、さらに数秒早くゴールできていたと思う。でも、自分たちはレース後半に課題を抱えている。その部分はドゥカティのほうがいいので、がんばってよくしていかないといけない」と語る内容からは、終盤に表彰台争いから脱落したのは体調が原因による疲労もさることながら、むしろマシンがリアタイヤに与える負荷でレース後半の摩耗が大きくなったために思ったほどの走りをできなかったのだ、と言外に語っているようでもあった。

 とはいえ、脛骨と腓骨の骨折箇所をピンで固定する手術を行なってからわずか3週間。しかも38歳という年齢で、優勝者から5.882秒差の5位でゴールを果たしているのだから、ロッシの強靱な体力と精神力は、まさに”鉄人”と形容するにふさわしい。

 ライバル選手たちも、ロッシの戦いぶりには揃って敬意を表した。

 今回のレースで優勝したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)と2位のダニ・ペドロサ(同)、3位のホルヘ・ロレンソは、それぞれ以下のようにコメントした。

「あのような骨折の後で、今回のレースを走っていることがすごい。しかも、まだケガが癒えていないのに、マーベリックの0.5秒背後でフィニッシュしている。まさに才能の賜物だと思う」(マルケス)

「復帰するという強靱な決意があったからこそ、だと思う。昨日の予選ではすごく速かったし、今日も序盤にトップ争いをしていた。本当にすごい」(ペドロサ)

「復調しているということに、なにより驚く。38歳という年齢では15歳のような回復スピードを望めないのに、日々よくなってきている。しかも、決して彼の得意ではないコースで、ビニャーレスの背後でゴールしている。本当にすごいと思う」(ロレンソ)

 さらに、マルケスとチャンピオンを争うアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)のロッシに対する的確な評価を、最後に紹介しておこう。

「スタート直後からアグレッシブに攻めていたのは、たいしたものだと思う。ただ、痛みが強くなければ速さを発揮できるので、バレンティーノのスピードには特に驚いたわけじゃない。彼がすごいのは、今日の(温度条件が高い)グリップではミスを誘発しやすいのに、あの体調にもかかわらずリスクをとってバトルをしていたこと。それに強い印象を受けた」

 ちなみに、ドヴィツィオーゾは今回のレースを7位で終えて、マルケスとのポイント差は16点に広がった。シーズン残り4戦でこの点差がどのように影響するのか、まだ予断は許さない。

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