金正恩氏

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北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は23日午後(日本時間24日午前)に行った国連総会の一般討論演説で、トランプ米大統領による4日前の「先制口撃」にハデな反撃を加えた。

トランプ氏が金正恩党委員長を「ロケットマン」と揶揄したことを受けて、「米国の本土全域に、われわれのロケットが向かうことを一層避けられなくなる過ちを犯した」と威嚇。さらには「米国やその属国勢力が、軍事攻撃の兆候をみせた場合、われわれは、容赦ない先制行動による予防措置をとる」と述べ、弾道ミサイル発射などによる先制攻撃を辞さない考えを示した。

女性たちが酷い目に

ただ、北朝鮮国営の朝鮮中央通信が24日付で配信した演説概要を見ると、ディテールがかなり削られている。

トランプ氏に対する「誇大妄想」「精神異常者」などの罵詈雑言はそのまま残されているが、先に引用した「先制行動による予防措置」云々はなくなっている。この違いは何か。配信記事に残された部分こそ北朝鮮が本当に主張したいことであり、削られた部分はそうでもない、ということなのだろうか。

仮にそうだとするなら、北朝鮮が最も主張したかったのは、自国の核開発に対する国連安全保障理事会の制裁決議は、差別的な「二重基準(ダブルスタンダード)」であるということだったようだ。

トランプ氏に対する罵詈雑言は、同氏から「北朝鮮を完全に破壊する」などといった思わぬ先制口撃を食らったために、急きょ盛り込まれたものであるはずだ。しかしそのおかげで、大事な「二重基準」批判がかすんでしまった印象を受ける。

一方、朝鮮中央通信の配信記事に残された内容を見て、気になる部分があった。次の一節である。

「今後、遠からずわが共和国に加えられた反人倫的で野蛮的な制裁によって、国の平和的な経済発展と人民の生活向上において被った被害、無この女性と子ども、老人を含む全てのわが人民が受けた被害を計算する日が必ず来るであろう」

わかりやすく言えば、「経済制裁で女性や子供、老人などの弱者が犠牲になったらお前らのせいだ」という意味である。

まったく、「どの口が言っているのか」と言うしかない身勝手な言い分である。

北朝鮮において、女性や子供たちはすでに相当に酷い目に遭っている。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

それがまったく改善されないのは、北朝鮮の体制が、弱者に苦痛を押し付けて強者が生き残る仕組みになっているためだ。金正恩氏が経済制裁をものともせずに核兵器開発を続けるのも、国の富を独占し、庶民の苦難を顧みないからに他ならない。

それにもかかわらず、外相演説にこのような言葉を盛り込むとは、金正恩体制は自分たちの破廉恥さを自ら外部にさらしながら、女性や子供を核開発の「人間の盾」にしているようなものだ。

ただ、我々もまた、経済制裁によって生じる北朝鮮の庶民の犠牲については、慎重に考える必要がある。民主主義がまったく存在しない北朝鮮では、庶民の不満や悲鳴が政治に反映されることはほとんどない。庶民が権力に不満をぶつけようものなら、秘密警察や軍隊に殺されるのがオチなのだ。

そのような国に経済制裁を加え続けたら、庶民の犠牲ばかりが増え、金正恩体制に核を放棄させるという目的はいつまでたっても実現しない展開になりかねない。

今のところ、北朝鮮に対する圧力手段は経済制裁しかないから、それを止めるわけにいかないのは理解できる。しかし、その取り組みと並行して北朝鮮の民主化を考えることなしには、核の脅威を取り除く本質的な方法は見つからないだろう。