中性脂肪の蓄積をめぐる体のメカニズムが解明されてきた。


「摂取カロリー > 消費カロリー」の結果が肥満である。そして、この消費カロリーのうち6割を占めるのが、生命維持のための「基礎代謝」だ。この基礎代謝を意図的に増減させることは難しく、しかも個人差がある。そして、基礎代謝による消費カロリーは一日の時間帯によって変動しているのだ。これらのことを前編(「税金、食費、交際費? カロリーが消費される仕組み」)で述べた。

 では、この基礎代謝の変動と夜食とはどのような関係があるのだろうか。本当に夜食は太りやすいのだろうか。

 仕事でも遊びでもメリハリをつけるのは大事である。基礎代謝もまた24時間周期で強弱のリズムを作っている。身体は機械ではないので、同じような調子で昼夜問わず働き続けるようにはできておらず、効率的に身体活動を維持できるような仕組みが備わっているのだ。

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景気がよいときは浪費、悪くなると貯蓄

 具体的には、昼間の活動時には中性脂肪を利用する方向(ATPの合成・消費)にシフトし、その結果として基礎代謝も高くなる。現代生活を送る私たちは「食事・運動」を自分の意志と経済状況で決めているつもりになっているが、本来は「自然界から餌を獲得する」という生存に必須な行動を確実にするために、基礎代謝も臨戦態勢にする必要があるのだ。

 逆に、夜間の休息(睡眠)時には中性脂肪を消費しない方向へシフトし、合成・消費されるATPは減少し、基礎代謝も低くなる。点滴でもしていない限り、眠っている間に新たなエネルギー源は入ってこないので、昼間の活動期に備えて中性脂肪をなるべく使わないようにするのである。

 こうした基礎代謝の周期性は、タイムスパンは違うものの、景気がよいときは浪費(ATPを合成・消費)しがちだが、景気が悪くなると貯蓄(中性脂肪を蓄積)するのと似ている。そして「夜食べると太る」と言われ続ける一般的な根拠は、「不景気で財布の紐が固いときには収入が増えても貯蓄に回す」のと同じで、「基礎代謝が低いときに外からエネルギー源が入れば、中性脂肪蓄積の方向へ代謝が進む」ということだろう。

24時間周期のマスター時計、視交叉上核

 ところで、そもそも私たちの身体は時計も見てないのに、どうやって24時間周期の生体リズムを維持できるのだろうか。

 24時間周期の睡眠や代謝のリズムは、生理的には脳の「視交叉上核」(しこうさじょうかく)という中枢が中心的な役割を果たしている。視交叉上核はいわば、生体リズムの「標準時」を決定するマスター時計といってもよく、この中枢を破壊すると24時間周期のリズムが失われてしまう。

 そして、「視」という漢字が含まれているように、その標準時計(視交叉核を構成する神経細胞)の24時間周期を同期(シンクロ)させるのには「光」が重要な役割を果たしている。生体リズムが何らかの原因で多少揺らいでも、その体内時計の中枢が光を受容することで、身体全体のリズムも同期されるのだ。つまり、目覚めて日光を浴びれば、正常な生活リズムが維持されるというわけだ。

時計遺伝子は体内のさまざまな場所でも働いている

 そして現在、遺伝子レベルでの体内時計のメカニズムも解明されつつある。基礎代謝も含めた生理的な応答は、さまざまなタンパク質が引き起こしている。そのタンパク質を新たに合成するときに必要な設計図が遺伝子だ。遺伝子の情報を元にタンパク質が合成され、体内の具体的な生理的反応が引き起こされる。

 つまり、24時間周期で合成されるタンパク質の遺伝子をつきとめれば、それが「時計遺伝子」ということになる。現在、哺乳類の時計遺伝子は十数種類知られているが、それら遺伝子は体内時計の中枢である視交叉上核だけでなく、肝臓や筋肉などの細胞でも24時間周期で働くことが分かっている。つまり、標準時を示す中枢だけでなく、体内の細胞も各々の「時計」を持っているということになる。

脂肪の蓄積を勧めてくるBMAL1

 そういった時計遺伝子から合成されるタンパク質のひとつに「BMAL1(Brain and Muscle Arnt-Like 1)」というものがある。読み方は「ビーマルワン」。BMAL1は他の時計遺伝子の働きを調節して、24時間周期の生理的変動をつかさどる主要メンバーだ。

 もちろん、BMAL1自身の遺伝子も、他の調節タンパク質によって24時間周期で増減を繰り返している。そして、BMAL1が増加すると、その働きにより、中性脂肪が脂肪細胞に蓄積されるように代謝が進む。BMAL1はいわば、不景気の時に財形貯蓄を勧めてくるファイナンシャルプランナーのような存在なのだ。

 もう見当はついたであろう。このBMAL1というタンパク質がより多く合成されているのが、まさに休息時間帯の夜間なのである(ただしマウスでの話)。逆に、活動時間帯の昼間にはBMAL1は減少してしまう。すなわち、BMAL1だけに着目すれば「夜食べると太る」というのは正しいと言える。

BMAL1だけが肥満の要因ではない

 しかし、ややこしいことに、実は、BMAL1の遺伝子を欠損したマウスでは、中性脂肪が分解しにくくなるという研究結果もあるのだ。

 BMAL1がなくなれば、中性脂肪の蓄積は促進されなくなるわけだから、中性脂肪は減っていくはずだと思いたくなる。しかし結果は逆なのである。中性脂肪は分解されず、さらには脂肪組織へも蓄積せず、代わりに血中での濃度が増大する。その結果、肝臓などの組織へ中性脂肪が蓄積し、皮脂分泌も増えることになる。

 このことから言えるのは、BMAL1は中性脂肪の代謝に関与していることは間違いないものの、BMAL1だけが肥満の要因ではないということである。つまりは、ファイナンシャルプランナーの助言だけで財形貯蓄が確実にできるとは限らないということだ。

「夜食は太る」だけでは決着しない

 さらには、肝臓にある時計遺伝子は、食事の刺激によってもそのリズムが変わる場合がある。つまり、24時間周期を同期(シンクロ)させる要因は光だけではないということである。ということは「夜食べれば・・・」といったとき、そこには「その日において何回目の食事なのか」「前の食事からどれだけの間隔が空いているのか」「何をどれだけの量食べるのか」などのさまざまな要因が、新たに交錯することになる。

 つまり、関係する要因が多すぎて「夜食は太る」の一言だけでは、本当に太るかについて、何とも判断ができないのである。同じ理由で「夜食は太らない」とも言い切れない。すっきりしない結論であるが、現状ではそうとしか言えない。

夜食を気にするより、規則正しい生活を

 しかし、ひとつだけはっきりしていることがある。生活が不規則で睡眠不足の(生体リズムが乱れている)状態が続くと、明らかに肥満になりやすいということだ。不規則な生活が、肥満のみならず、成人病なども増加させる傾向があるのは統計的に見てほぼ確実である。

 すなわち、一日あたりの運動量・食事が同じであれば、夜食うんぬん以前に食事の時間帯や回数を定め、睡眠不足にならないように規則正しい生活を送ることが、肥満防止には重要であるということである。

筆者:大平 万里