商店の閉店が相次ぎ、閑散とするアーケード街(筆者撮影、以下同)


 中国人の生活を一変させたEC市場。中国におけるその草分けと言えば、ジャック・マー(中国名:馬雲)氏が創業したアリババグループだ。

 インターネット上で仮想店舗の一大帝国を築いたジャック・マー氏が、最近リアルな店舗への進出に力を入れ始め、中国人の耳目を集めている。

 この夏、アリババグループは「無人スーパー」を浙江省杭州市に開店した。この24時間営業のスーパーにレジ係はいない。アリババグループのオンライン決済サービス「アリペイ」のユーザーであれば、商品をカゴに入れて決済エリアを通過するだけで清算が終わる。スマホなどを使って商品に貼られたQRコードを読み取る必要はない。中国メディアはこの前代未聞のスーパーをこぞって報道し、中国の一般市民も好意的に受け止めている。

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本質をついたおばさんの発言

 その一方で「微信(ウィーチャット)」には、こんな記事が流れた。中国人記者が近隣住民にコメントを求めたものだった。「あまりにも本質をついた内容だった」(浙江省の公務員)ため、あっという間に拡散した。以下は、そのインタビューの概要である。

記者 馬雲が「無人スーパー」を出店したけどどう思う?

おばさん スーパーに誰もいないのかい。なんで閉店しないのかね?

記者 おばさん、無人スーパーは「客がいない」っていう意味じゃないんだ。スーパーのレジ打ちなどの従業員がいないってことなんだよ。

おばさん それなら、「従業員のいないスーパー」って呼ぶべきだね。あんたたち、そんな言語水準でよく記者が務まるよ。

記者 そうだね、おばさんの言うとおりさ。で、こういう新型のスーパーはどう思う?

おばさん 人件費がかからくなったんだから商品は安いんでしょ?

記者 それは、僕にもまだ分からない。

おばさん そんなんじゃ記者なんかできないよ。あんたたちは1日中ずっと馬雲ばかり追いかけているけど、庶民の最大の関心を分かってないね。私たちの関心は、店にニセモノが置いてないか、安いかどうか、なんだよ。スーパーの中に従業員がいるかいないかなんて関係ないんだ。

記者 無人スーパーが我々の買い物のあり方を変えるとは思わないんですね?

おばさん 変えるって何をよ。買い物にお金がいらなくなるとでもいうの? アリペイ使ったって、お金を払っていることに変わりないでしょ。

記者 おばさん、あなたはまだ時代の潮流ってものが分かってないんですね。

おばさん 人を置かないスーパーが時代の潮流だっていうの? 毎日、リストラされている従業員はどうするのよ。能力があるって言うなら「経営者がいないスーパー」を作れば? それか、公務員のいない政府をつくることじゃないの?

記者 おばさん、もしかして馬雲に文句があるのでは?

おばさん 馬雲は確かに生活を変えたかもしれないけど、変えただけじゃダメなんだよ。変化は幸福が伴わないとね。いまどきの変化は、幸福をもたらさないどころか、心配事を増やすばっかりだよ。それこそが、あんたたち記者が追うべき問題なんじゃないの?

*  *  *

「幸福をもたらしたか」という観点で見れば、ジャック・マー氏による革命は必ずしもそれを実現したとは言えない。

 中国では“小規模店舗の敵”としてジャック・マー氏に恨みを持つ店主もいる。上海市長寧区で小規模の食品店舗を経営する女性は、「商売を畳むことになった店の『在庫一掃セール』を上海でよく見ますが、中には『閉店に追いやられたのは馬雲のせいだ』と思っている人もいます」と話す。

やる気を失うリアルな店舗


 確かに中国のインターネットには、「俺は馬雲を恨むぞ」などと書き殴り、店先に掲げる光景がアップロードされている。「自分の商売がうまく行かないのは、タオバオが客を奪ったから」という声はジャック・マー氏の耳にも届いているはずだ(注:「タオバオ」はアリババグループが提供するショッピングサイト)。

出前を頼むと家の中がゴミの山に

 上海市徐匯区に住む外資企業の職員は、「昨年の終わり頃からさまざまな新しいアプリが出てきて、生活がすっかり変わった」という。

 彼女はアプリの画面をタップしながら「出前アプリでよく食事を頼んでいます」と教えてくれた。

出前アプリの画面。1日2食をスマホで注文することもしょっちゅうだという


 中国には「餓了麼」や「美団」といった食事の出前アプリがあり、人気を博している。中国の研究機関によれば、オンラインで食事を注文する出前市場は、2017年に2000億元を超える規模に成長するという。特に「餓了麼」は中国の2000都市をカバーし、加盟店は130万軒を超え、ユーザーは2億6000万人に上るとみられる。

 だが、彼女は最近、出前アプリの利用を躊躇するようになってきた。出前アプリで食事を頼むと、おかずとご飯をよそった蓋つきの容器が、何膳かの割りばしと、ひとつかみのナプキンとともにポリ袋に入れて届けられる。彼女は毎回、この容器や割りばしなどがゴミとなることに罪悪感を覚えるのだという。

「2016年 中国宅配発展指数報告」によれば、2016年の中国の宅配業務は312億件を超えた。宅配物の梱包材が1個あたり0.2キロだと仮定すると、624万トンのゴミが出た計算になる。宅配に関わるガソリン消費やCO2排出も環境に負荷をかけている。

「宅配便は、とにかくゴミが出てしょうがない。宅配業者の取り扱いが乱暴だから、商品を保護するためにものすごい過剰包装で送ってくるんです。中国では2000年代後半からレジ袋を有料にして『白色公害』(レジ袋による汚染)をなくそうと努力したけど、あの取り組みは一体どこに行ってしまったんでしょう」

リアルな店舗には買い物の楽しさがある

 日本を訪れる中国人は、日本の小売り店の素晴らしさをよく絶賛する。

 ある中国人女性が日本の百貨店について書いた手記(以下は一部抜粋)がインターネット上で公開され、話題となった。

「個性ある売り場に充実したサービス、それは駐車場や授乳室を見ても分かる。高齢者や幼児など弱者への配慮が行き届き、子どもの背丈に合うトイレもしつらえてある。売り場に不良品や偽物はなく、安心して買い物ができる。日本の商品は意識の高い職人の匠の心でつくられているのだ」――。

 中国ではEC市場が急成長し、リアルな店舗の市場を丸飲みにしてしまったと言われている。そのため中国の消費者はリアルな売り場での買い物の楽しさを忘れてしまった感がある。

 しかし消費者は、安さだけを売りにする中国のEC空間に飽き始めているようだ。ジャック・マー氏は最近「すでにeコマースは死んだ」と口している。次なるステージは、リアルな店舗への回帰なのか、それともECの進化が幸福の追求に舵を切るのか?

筆者:姫田 小夏