元彼の結婚。

適齢期の女性にとって、これほどまでに打ちのめされる出来事があるだろうか。

元彼がエリートだったら、なおさらだ。

どうして私じゃなかったの。私になくて、彼女にあるものって何?

東京で華やかな生活を送るエリートたちが、妻を選んだ理由、元カノと結婚しなかった理由を探ってみる。

先週、羽振りの悪さNo.1と思っていた元彼・俊樹の真相が明らかになった。さて、今回は・・・?




「奈緒が昔付き合ってた圭太、結婚したんだって!」

久しぶりに大学時代の友人である千尋、杏奈と『レ コパン ドゥ ドミニク・ブシェ』での女子会。

「久しぶり〜、元気?報告したいことが山積み!」という女子会お決まりの挨拶を差し置いて、千尋から開口一番に出たのは、元彼・圭太の結婚情報だった。

女子会でも元彼の話なんて勘弁してほしいと思っていると、

「圭太って、あのマザコンの?何でもかんでもママに決めてもらってた人だよね?」

と杏奈が反応し、ふたりは圭太の話で盛り上がり始めた。

そして杏奈が「奥さん、見つけた!」と、facebookを見せてきた。

「奈緒の方が全然かわいいじゃん、奥さん、普通だね」
「あー、でも、マザコンだし、ママの紹介なんじゃない?」
「確かに。お見合いとかしそう、しそう!」

千尋と杏奈は、注文もそっちのけで言いたい放題、会話に夢中だ。

こういう時、女友達は自分の味方なのか、敵なのかよく分からなくなる。

「それより何食べる?早くメニュー決めて!」

奈緒は強引に、千尋と杏奈の前にメニューを広げ、圭太の話を強制終了させた。


今なお女子会のネタになるマザコン・圭太とは・・・?


デートも洋服も母親に決めてもらう男、27歳


奈緒と圭太は、千尋主催のBBQで知り合い、付き合うことになった。当時、奈緒24歳、圭太は27歳。

圭太は女子のツボを押さえたレストラン選び、デートプランで奈緒を喜ばせた。

最初こそ自慢の彼氏が出来て幸せいっぱいだったが、奈緒は徐々に圭太に違和感を感じ始めることになった。

ある休日。その日は、江ノ島までドライブへ行った時だ。

涼しげな水色のワンピースに、高めのウェッジソール、夏らしいカゴバッグを合わせた奈緒。日焼け止めクリームをたっぷりと塗り、大きめのハットもかぶって準備万端。

奈緒は「今日もばっちり。惚れない男はいないはず」と、マンションのエントランスに反射した自分に見惚れていた。

-ファンファン

クラクションの音に振り返ると、圭太はAudiのTTロードスターの運転席から片手を挙げ、「さあ、乗って」と爽やかな笑顔で奈緒を迎えた。

Audiで恋人が迎えに来て、喜ばない女はいないだろう。




江ノ島では、『LONCAFE』で絶品のフレンチトーストを食べたり、江ノ島名物のたこせんをかじりながら江島神社まで足を伸ばした。

-アルコール抜きのデートなんていつ以来かしら。健康的なデートも悪くないわね。

横に並んで歩く圭太に、そっと腕を絡ませながらそんなことを考えていた。

夕暮れ時には、砂浜のベンチで潮の香りを吸い込み、キラキラ光る海と水平線に沈む夕日をうっとりと眺めた。

奈緒は圭太の肩にもたれかかり、「老後は湘南で過ごすっていうのもアリね」と、結婚を通り越して圭太との老後を妄想しながら、こぼれそうになる笑みをこらえた。

「圭太くん、素敵な靴ね」

会った時から思っていたことを、なんとなく言った。すると、思いがけない答えが返ってきたのだ。

「これ?トッズの新作なんだけど、この前買い物行った時に母親が選んでくれたんだ」

「えっ?圭太くん、お母さんと買い物に行くの?」

「うん。買い物はいつも母親と一緒で、決めてもらってるよ」

「そ、そうなの・・・」とっさに、奈緒は握った手をほどいてしまった。



その日、帰りの車内で奈緒は考えを巡らせていた。

ー27歳で母親と買い物に行くって、普通なの?

頭の中には「マザコン」という4文字がこびりついて離れなかった。

だが奈緒はそんなこと認めたくなかった。

ーきっと、お母様想いで、親孝行な男なのよ。
ー家族仲が良いって、素敵なことじゃない。

頭の中で、必死に圭太を擁護して自分を納得させていた。

「奈緒、お腹すいた?都内戻ったらどこかで食事して帰ろうか。何食べたい?」

奈緒の落ち着かない様子を気にしてか、ちらりと顔を見ながら圭太に聞かれた。

「うん、そうしよう。お店は圭太くん決めて」

動揺を悟られぬよう明るく言ったが、圭太は「あー」とか「うーん」と言っているだけで、いっこうにお店の候補があがってこない。

「圭太くん、お店たくさん知ってるじゃない?今日も期待してるね」と、日頃の出来を褒めつつ念を押したが、やはり何も出てこない。

-いつもはあんなにレストラン偏差値が高いのに。運転に集中したいだけ・・・?

奈緒が不思議に思っていると、彼は急にコンビニで車を停め、「コーヒー買ってくる」と出て行ってしまった。コーヒーはついさっき、サービスエリアで飲んだばかりだというのに。

その後コンビニから戻った圭太は、お店の候補をいくつも挙げて奈緒の希望を聞いてきた。

「わー、迷っちゃう」

そう言いながら奈緒があれこれ悩んでいると、圭太は事もなげにこう言った。

「さっき母親に電話して、リストアップしてもらったんだ」

「・・・え?」

奈緒は、言うべき言葉が見つからなかった。

かわりに、頭の中では色々な想像が一気に膨らむ。

ー今までの素敵なレストランって、お母さんが決めてたってこと・・・?
ーお母さんが考えたデートプランだった・・・?

「圭太くん、私、ちょっと体調悪いみたい・・・やっぱり今日は帰ってもいいかな?ごめんね」

その後、奈緒を自宅に送り届けるまでの圭太の優しは、奈緒の心には一切響かなかった。

帰宅し、ベッドに倒れこむと、江ノ島の龍恋の鐘で撮影したツーショット写真を眺めながら、圭太の背後に母親の姿が見える気がしてゾッとした。

それ以来、圭太とは会う頻度を減らして疎遠になり、奈緒と圭太は自然消滅した。


圭太の母親への思いが明かされる・・・!


決められない男の“母親”探し


圭太は、妻の友理奈が読んでいる雑誌にふと目をやり、“斎藤奈緒さんの勝負コーデ”に目が釘付けになった。

そして、一瞬にして奈緒との思い出が脳裏に蘇ったー。



圭太は、日暮里にある超有名中学、高校から東大経済学部を卒業後、大手不動産会社に入った。すべて親の意向に沿ってきた結果だ。

圭太自身、親の考えに従って失敗したことがないから、「自分の人生は自分で決めたい」なんていう欲求は、これっぽっちも生まれなかった。

反抗期もなかった圭太だが、彼はいつしか“自分で決める”ことが出来なくなってしまった。

そのため、ずっと母親に頼っており、買い物からデートのプランまで、すべて母親にアドバイスをもらって決めてきた。




妻となった友理奈は、圭太が勤める不動産会社の関係会社で働いており、二人は仕事を通して知り合った。

友理奈は、デートの予定が狂うと代替プランが全く浮かばない圭太にしびれを切らし、ある日「今日は私が決めようか?」と聞いてみた。これが、圭太の心を動かした。

圭太は、飼い主を見つけた忠犬のような顔で「うん!」と大喜びした。

それからというもの、圭太は友理奈に頼りっぱなしで、「私と結婚したらどう?」と強気に言った友理奈に、またもや忠犬のように「うん!」とこたえ、トントン拍子に話しが進んだ。


圭太を夫にした友理奈の”夫の転がし方”。


友理奈も、圭太のマザコン気質には気づいており母親を警戒したが、いざ結婚が決まると「圭ちゃん、良い奥さんが見つかって良かったじゃない」と、泣きながら喜んでくれた。

だが友理奈はわかっていた。圭太の母親が言う“良い奥さん”は、きっと”自分の代わり”という意味だろうと。

「友理奈、お誕生日おめでとう。これで合ってる?」

そう言ってロエベのアマソナを差し出す圭太。

「これで合ってる?」と不安そうに聞く圭太は、初めてのおつかいに出かけた子どものようだが、友理奈は「そうそう、これ!ありがとう!」と褒め、圭太を上手に転がしている。

まわりは圭太のことをマザコンと呼ぶ。

それは合っているようで、間違ってもいる。

圭太にとっての「母親」は代替可能で、意志決定したり圭太を導いてくれる人であれば誰でも良いのだ。

今は、妻の友理奈がかつての母親枠におさまっている。

友理奈には甘えん坊丸出しだ。そんな圭太を優しく見守っている。



圭太が決められない男だと分かった後の行動に、奈緒と友理奈には大きな違いがあった。

「私が決めようか?」の一言が、友理奈は言えて、奈緒は言えなかった。

圭太のような男は、頼りなさは感じてしまうかもしれないが、見方を変えれば従順で操りやすく夫にするには悪くない相手だ。

ただ、友理奈は妻になるのと引き換えに、圭太の“母親”になることも引き受けた。

奈緒がそれを受け入れられなかったであろうことは、容易に察しがつく。

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