時代の変化に気づいた人から、「搾取構造」を脱出する道が開ける(撮影:今井康一)

前回執筆した記事「『ブラック企業は即刻辞める』が超重要な理由」は、150を超えるコメントがつくなど、大きな反響をいただいた。この反響の大きさは「自分が働いている会社はブラック企業だ。即刻辞めたい」と思っている人がそれだけ多いという、残念な現実の写し鏡であることを示している可能性が高いと感じている。ただ、単に「辞めたいなら即刻辞めれば」とだけ言い放つのは無責任なスタンスだろう。生活のため、今後のキャリアのために、辞めたくても辞められないのが多くの読者の本音であり、偽らざる真実だ。本記事は、そんな方々に向けた現実的な処方箋である。

世界屈指の「やる気後進国」日本

日本は、社員のやる気が世界でも最低レベルであることが、米ギャラップ社によって今年公表されたEmployee Engagement(仕事への熱意度)に関する調査によって明らかになった。この調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%にとどまり、調査した139カ国中132位(下位5%)。米国は32%で、3人に1人は「熱意あふれる社員」であるのに対して、日本はその5分の1以下、16人に1人しか存在しないことになる。

他方「やる気のない社員」は70%に達し、さらに「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」(Actively Disengaged)の割合は24%にも上る。エンゲージメントが高い熱意あふれる社員は、そうでない社員と比較して生産性が20%高いことが明らかになっている。一方、やる気のない社員の生産性が低くなるだろうことは、誰の目にも明らかだ。

生産性が低いばかりか、そうした「やる気のない社員」はさらに周囲の社員のやる気をそぐ。そうした社会人の姿を見て、未来に希望を持てずに就職に対してネガティブなイメージを持った若者が再生産されていく。この負の連鎖は、手遅れになってしまう前にどこかで断ち切らなくてはならない。

そもそも、なぜ日本は、世界屈指の「やる気後進国」になってしまったのか。筆者は、終身雇用や年功賃金に代表される会社からの「御恩」と、それに報いるために労働者は私を犠牲にして「奉公」する労働モデルが崩壊しているにもかかわらず、会社も個人も、そして国家すらもいまだにそうしたモデルから脱却できていないことが要因であると考えている。

いつの時代も、雇用されて働く側の労働者は安定した報酬を望む。職に不安を抱えながら働くことは生産性の低下をもたらし、企業にとっても個人にとっても損失が大きい。1929年に世界大恐慌のあおりを受けたとき、松下電器産業の創業者である松下幸之助は、雇用不安に動揺する工場職員の不安を和らげるために「生産は即日半減するが従業員は一人も減らさない」と約束をし、社員と社会からの信用を勝ち得た。同社はその後、急成長を遂げる。高度経済成長を前提とした終身雇用という「御恩」は、日本中の労働者に安定と安心をもたらし、従業員のエンゲージメントを高めたのだ。

「御恩と奉公」の時代は終わった

労働者は自由を投げ打って、長時間労働をいとわず、本業専念のために副業はもってのほかという意識で「奉公」をきちんと果たせば、生活の安定に直結する終身雇用や年功賃金という「御恩」を受けることができた。新卒一括採用から始まり、終身雇用に終わる「ゆりかごから墓場まで」流のメンバーシップ型の働き方が人口ボーナス期に最適化され、高度経済成長に寄与したという点は、世界の歴史を振り返っても例がない。ある種、この働き方は世界で最もイノベーティブな働き方だったといえるかもしれない。しかし、それは高度経済成長が終わりを告げるまでの限られた事象だった。

終身雇用や年功賃金といった制度は、数十年にわたって企業が安定的に成長し続けることを前提としたモデルだ。しかし、バブル崩壊によって企業がこうした恩恵を一切保障できない時代が到来してしまった。1988年生まれの筆者が物心ついた頃には、すでにバブルが崩壊し、失われた20年ともいわれる暗黒時代に突入していた。「御恩と奉公」からなる企業と個人の関係は、企業が個人に対して恩恵を提供することが保障できてはじめて成立する。逆に言うと、その保障がないのに「奉公」する価値はないのだ。

終身雇用という「御恩」がすべての従業員に保障できる会社はごくわずかにもかかわらず、長時間労働や副業禁止、転勤命令といった搾取をどの会社もやめようとはしない。「御恩と奉公」の時代はもはやとうの昔に終わっているにもかかわらず、いまだに企業側が「奉公」だけを社員に対して求め続けているという矛盾が、まかり通ってしまっている。

さらに厄介なことに、そうした搾取を求める経営者や上司側に矛盾したことをしているという自覚がない。なぜなら、彼らが20〜30代の頃は「御恩と奉公」の関係性がまだギリギリ成立していて、平日は毎日終電まで、繁忙期は土日も返上で働き、自分がやりたいことよりも、会社から求められることを優先し、家事や育児は妻に丸投げする、といった滅私奉公型のワークスタイルが当たり前だったからだ。彼らはそうした「奉公」によって、昇進昇格という「御恩」を受けた、という成功体験がある。だからこそ、なんの悪気もなく、部下や若手社員に対して「会社に尽くせば報われる」という前提で奉仕することを求め続けるのだ。

そうした会社からの悪意なき搾取を社員が受け続けた成れの果てが、世界139カ国中132位の「やる気後進国ニッポン」なのである。この搾取構造から早いところ抜け出さないと、本当にマズイことになる。では、どうしたらこの「搾取構造」から脱出することが可能になるのか。その唯一の解が「滅私奉公」から「活私奉公」へのシフトである。

「御恩」なき時代においては、「滅私奉公」が単なる搾取と成り果て、やる気のない社員を量産してしまうことは先に述べたとおりだ。ただ、「奉公」すること自体はまったく悪いことではない。自らの「よく生きたい」という私利私欲の一切を滅して、会社に人生を預けてしまうことが悪いのであって、「奉公」する個人を増やすことは、社会をよりよくしていくためには必要だ。

「奉公」は、お上のために身を捧げて働くこと、と解釈されるが、現代の社会の枠組みから考えると社会のために貢献すること、と解釈したほうが時代に合っているだろう。企業は、ごく一部を除いて終身雇用、年功賃金という恩恵を社員に与えることが難しい。個人が生涯を捧げて貢献する対象というよりかは、社会の装置の一部としての役割しかないと考えることが自然だ。

「活私奉公」型の働き方へシフトさせるために

では、どうしたら「滅私奉公」型の働き方から、「活私奉公」型の働き方へとシフトできるのだろうか。エンゲージメントを高めるために、海外の研究では次の5つの「E」が重要だといわれている。

1つ目の「E」は、Enablement(イネーブルメント)。つまり「強みを活かす」ことだ。今の仕事では、自分自身の強みを十分に活かせているだろうか? そもそも、自分自身の強みをきちんと自覚できているだろうか? まずは自分自身の強みをきちんと把握し、できることを増やすことが「活私奉公」型の働き方へシフトさせるためには必要だ。

2つ目はEncouragement(エンカレッジメント)。エンゲージメントを高めるためには、勇気づけや励ましのコミュニケーションが必要だ。しかし、伝統的な企業を中心に、いまだに叱咤や叱責といった真逆のアプローチしかできない上司が多い。「そんな上司はクビにしてしまえ」と思ったところで、なかなかそうもいかないのが企業社会の現実だ。そういう場合は、自分自身の存在価値を認め、承認してくれるコミュニティに身を置いてみるのも一考だろう。

3つ目はEmpowerment(エンパワーメント)。自分で意思決定し、行動できる能力のことを指す。「滅私奉公」型の会社にいるとどうしても、「他人に言われたことだけをやる」という働き方をしてしまいがちだが、「活私奉公」型の働き方にシフトさせるためには、「自ら考え、自ら決断し、自ら行動する」というエンパワーメント型の仕事のスタンスが必要となる。会社員である以上、すべての業務において自分で意思決定し、行動することは難しいかもしれないが、上司に指示されたことであっても「本当にそうだろうか?」とまずは自分のアタマで考えてみることが重要だ。

4つ目は、Energy(エネルギー)だ。エネルギーを高い次元に保つためには、当たり前だがよく食べ、よく動き、よく眠ることが重要だ。OECDが2014年にまとめた調査によれば、日本人の睡眠時間は1日平均7時間43分で、OECDの25カ国中ワースト2位だったそうだ。「腹が減っては戦はできぬ」とはよく言ったものだが、十分なエネルギーなくして、よい仕事はできない。

そして、最後はEnvironment(エンバイロメント)、すなわち「働く環境」である。あなたが働く職場の環境は、上記4つの「E」をそぐ環境ではないだろうか? やる気がないばかりか、毎晩のように飲み会で会社や上司の悪口ばかりを言う、不平不満を周囲に撒き散らす社員はいないだろうか。もし、あなたの職場環境がそうした望ましくない環境だとしたら、自ら場所を変えるしかない。

そうは言っても、会社の人事制度を変えたり、叱責ばかりしてくる上司や、やる気のない同僚を変えるなど、自分の職場環境を変えるというのは個人の力ではなかなか難しい。他方で、「転職」によって、よい職場に恵まれる保障はないし、なんの後ろ盾もない中で会社を辞めて「独立」するのはさらにハードルが高い。

自らの可能性を狭めるのではなく

環境そのものを変える難易度が高いならば、社内の「有志」を集めたコミュニティを立ち上げてみるのもいい。パナソニック社の「One Panasonic」や富士ゼロックス社の「わるだ組」などが挙げられる。また、エンゲージメント高く働く人が多く集まる「場」に、自らの活路を見いだしてみるのもよい。たとえば、大企業の若手有志が集う「One JAPAN」という団体がある。「One JAPAN」は昨年設立されたばかりの若い任意団体で、40社250人が参画する大企業の若手有志団体のプラットフォームとして活動をしている。9月に都内で開催された設立1周年記念イベントには800人もの人が一堂に会し、「これからの社会をどうデザインするか?」について、自らを主語に語り合った。

もし、やりたいことが明確にあるのなら、「複業」という形で、会社員を辞めずにやりたいことにチャレンジしてみるのもいいだろう。いずれにせよ重要なのは、「会社員だから」と自分の可能性を自ら狭めるのではなく、自らの強みを活かし(イネーブルメント)、自らを励ましてくれるメンターを見つけ(エンカレッジメント)、自ら考え、自ら行動する習慣をつくり(エンパワーメント)、自らエネルギーを満たせるように自分の時間を取り戻すこと、そして、この4つの「E」を可能にする環境(エンバイロメント)を自らつくり出すことだ。自らを活き活きとさせ、社会のために貢献する働き方。これこそが、今の時代に最もあった新しい働き方だと筆者は確信しているし、こうしたスタンスを取っていれば、「ブラック企業を辞めたくても辞められない」という事態は自然と解消されるのではないかと考えている。