現防衛大臣政策参与・森本敏氏

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 核開発、ミサイル発射などで世界に脅威をもたらしている北朝鮮。9月3日には、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載のため、水爆実験に完全成功した」と発表し、挑発はとどまるところを知らない。今後、日本、アメリカ、韓国などの関係諸国が連携を深め、国際社会に訴えていくことも重要だ。そこで、元防衛大臣で現防衛大臣政策参与である森本敏氏に、今後日本が取るべき政策について話を聞いた。

――北朝鮮は水爆実験に成功したと発表しましたが、実際の見立てはいかがでしょうか。

森本敏氏(以下、森本) ほかの核保有国の事例を見ますと、原爆から強化原爆、そして水爆開発に至っています。たとえば、アメリカ、ソ連、イギリスの例をみると概ね5年以上かかって、原爆から水爆開発に成功しています。北朝鮮は2006年に地下核実験を行い、水爆開発に成功したと発表したことをそのまま受け止めると、他国の水爆開発経緯を考えても、今回は北朝鮮が水爆実験に成功した可能性はあると思います。

――北朝鮮の隣国である中国吉林省では大きな揺れを感じました。これをどう見られますか。

森本 包括的核実験禁止条約機関などの調査によると、マグニチュード6.1ほどで、これを爆発の出力に換算すると、広島に投下された原爆(15キロトン)の10倍以上である160キロトンレベルに至っています。通常は、50キロトンを超える場合は、水爆実験が実施された可能性が高いのですが、各国も爆発の威力を分析し、水爆実験の可能性に言及しているのはそのためです。

 ただし、実験の具体的目標がわからない。ですから、成否については簡単には論じられないということです。それは、担当した技術者にしかわかりません。

――北朝鮮は、これからも核実験を繰り返し行うことになるのでしょうか。

森本 北朝鮮の目標がどこにあるかによります。核弾頭が小型化され、ICBMに搭載できるようにするという目的が達成できれば、生産に移行していくでしょう。しかし、そういう段階になっているのか、わからないのが実情で、目標に至るまで実験はこれからも繰り返していくと思います。ちなみに他の核保有国は、水爆実験が成功したと確認した後で、生産に移行していきます。

 しかし、生産してしまうと、今後、まったく核実験を行わないかといえば、そうではありません。製造した核弾頭の信頼性を確認するために実験をします。その場合は、米・ソでは条約上の問題や内外の世論もあり、シミュレーションによる実験を行なうケースがあります。

――弾道ミサイルの射程距離の向上など、北朝鮮のミサイル開発は、実際のところどこまで進展しているのでしょうか。

森本 いくつかポイントがあります。まず、弾道ミサイルの射程がどこまで伸びるか、そして次は弾道ミサイル全体構造の問題ですが、再突入技術や推進ロケットエンジンの推力向上がどこまで進んでいるか、弾頭の小型化などがどこまで進んでいるかを分析する必要があります。しかし、より精度を高めるには、狙ったところにピンポイントで落とすことが重要ですが、まだそこまで至っていないのが実情ではないでしょうか。

 すなわち、アメリカのいかなる都市までも射程におさめ、ピンポイントで落下させるほどの精度にまでは至っていないと考えます。ただし、現在のレベルではグアムには届くのではないでしょうか。7月に2回、ミサイル発射実験を行なっていますが、最大射程の伸びを分析しますと、ICBMの開発に成功をしている可能性は大きいと考えます。問題はミサイルの精度ですが、それを計算するデータはまだありません。

●北朝鮮の方針

――金正日時代の北朝鮮は、諸外国が話し合いをできました。しかし、金正恩体制はまったく話し合いにも応じようともしません。狙いはどこにあるのでしょうか。

森本 客観的に判断する材料はありませんので、これはあくまで推測です。問題は、政治的と技術的な面の2つの背景があると考えています。

 まず、政治的とは、もしアメリカが軍事的に北朝鮮を攻撃した場合、アメリカのいかなるところにも核攻撃が可能であるということをアメリカに示すことによって、金正恩体制を保証し、大国アメリカを相手に十分な取引ができるステータスを示し、核保有国であることを認定させることです。

 そして次には、この政治的な背景を実現するために、核の技術を革新的に進めることです。北朝鮮の核開発技術は急速に進んでいます。政治的にも技術的にも核開発やミサイル発射実験など、さらなる挑発活動を今後とも続けていくことが北朝鮮の方針であると考えます。

――北朝鮮の核実験やミサイル発射実験は、北朝鮮のなんらかの記念日にタイミングを合わせているのではないかという指摘があります。次の記念日は10月10日の朝鮮労働党創設の日です。

森本 北朝鮮の挑発活動は、必ずしもすべてを北朝鮮の記念日(建国記念日、党創建記念日など)に合わせているわけではありません。アメリカを意識したり、国連安保理に反発したり、さまざまな事情を勘案しています。

 たとえば、7月28日には弾道ミサイルが発射されました。本来は7月27日に発射したかったのかもしれませんが、27日は天候が悪く1日延ばしたとみています。7月27日はどのような日かといいますと、北朝鮮から見れば朝鮮戦争の「戦勝記念日」、「アメリカの敗戦記念日」なのです。そして7月4日にも、ミサイルを発射していますが、この日は、「アメリカの独立記念日」です。挑発活動の目的は2つ。ひとつは国内の志気を鼓舞すること、もうひとつはアメリカに対するメッセージです。このメッセージを達成するためのプロセスの途中ともいえます。

●日本がなすべきこと

――北朝鮮の挑発活動は、十分に脅威とみなすべきでしょうか。

森本 核兵器が搭載されているミサイルは日本への射程距離の範囲内であり、北朝鮮の意図が読めない以上、十分に深刻かつ重大な脅威とみなすべきです。我々は金正恩の意図や思考を完全に読み切れていません。確かにほかの核保有国(中・露など)も日本をミサイルの射程距離内におさめていますが、少なくとも意図や思考は読めます。そこが北朝鮮と他の核保有国との違いです。

――金正恩はソウルを攻撃するのでしょうか。

森本 それはわかりません。あらゆる最悪の事態を想定して防衛することが安全保障上求められることです。最悪の事態を想定しつつ、万全な備えをすることが必要です。もちろんこれは、日本にもいえることです。

――日本は何をすべきでしょうか。

森本 北朝鮮の弾道ミサイルに対して、現在実施中ですが日本の防衛システムをより効率的に精度を高める迎撃システムになるよう新たなシステムの導入を検討していますし、また改善しています。これがまず大切です。

 もうひとつは、日本は国連の安全保障理事会の非常任理事国ですから、外交上の努力をしています。特に、アメリカ、ロシア、韓国、イランなどとの協力を進めつつ、北朝鮮の外貨獲得手段を減少させる努力もしています。また、日米韓の3国連携は肝要です。ただし、相手の領域を攻撃する先制的なオプションは考えていませんが、日本に被害が及ばないようさまざまな手段を打っていき、防衛と外交の2つの手段により、北朝鮮の暴挙を止めることが今求められています。

――ありがとうございました。
(構成=長井雄一朗/ライター)