AppleとSamsungの2社はスマートフォン市場では競合関係でありながら「AppleはSamsungを必要としていて、SamsungはiPhoneが売れることで成長できる」という関係にあります。なぜ両者の関係が複雑化しているのか、分かりやすく説明したムービーが公開されました。

Why Apple Needs Samsung - YouTube

「AppleはSamsungを必要としている」という言葉は、「AppleはiPhone Xに搭載するOLED(有機EL)ディスプレイを製造するのにSamsungを必要としている」という言葉に置き換えられます。



SamsungはAppleの競合相手ですが、一方で、Appleが必要とする規模のディスプレイを製造できるのはSamsungだけだからです。



2016年から2017年現在にかけての、Samsungの株価の変化はこんな感じ。2016年は爆発が相次いだGalaxy Note 7のリコールが行われ、2017年2月には副社長の李在鎔容疑者が逮捕されたにも関わらず、上昇傾向にあることがわかります。



Samsungはスマートフォン、テレビ、冷蔵庫など、さまざまな電子機器を扱っていますが……



実はビジネスの強みは、メモリーチップやディスプレイなど、他社の電子機器で使用されるコンポーネントを開発しているところにあります。



Samsung製のコンポーネントは市場のシェアを拡大していき、2017年7月にはSamsungがIntelを越えて世界最大のチップメーカーになったことが報じられました。



OLEDに関しては最初からSamsungが抜きんでていましたが、2017年現在ではマーケットシェアの90%以上をSamsungが占めているとのこと。これはつまり、iPhoneが売れOLEDマーケットが成長することが、Samsungの成長にもつながるということを意味します。



これはAppleにとって好ましくない事態。なぜなら、SamsungがOLEDの市場を独占することで、OLEDの価格はSamsungが決定することになるためです。



実際に、OLEDスクリーン1つあたりにAppleがSamsungに対して支払っている価格は120〜130ドル(約1万3400円〜1万4600円)で、かつてAppleがLCDスクリーン1つあたりに支払っていた44〜55ドル(約5100〜6200円)という価格の3倍近くになっています。



iPhone Xの価格が11万円以上することの原因の1つは、Samsung製OLEDスクリーンであるわけです。



Appleのティム・クックCEOはプロダクトがどのように作られ、全世界で販売されていくかというサプライチェーンの専門家であり、1998年にAppleに入社してからというもの、効率的にプロダクトを製造・販売し、Appleに成長をもたらしています。



Appleは国外に製造をアウトソーシングしており、そのほとんどがアジアを拠点としています。アジアでのアウトソーシングはAppleが他社に打ち勝つための重要な機能を果たしていますが、OLEDスクリーンに関しては、AppleはSamsungを頼るしかないのです。



Appleは2017年後半だけで8000万ものOLEDスクリーンを必要としますが、Samsung以外にそれだけの数のOLEDを製造できる会社はありません。Samsungもかろうじて製造ができますが、Samsung1社に頼らざるを得ない状況から、iPhone Xの発売はiPhone 8から1カ月以上遅れることになっています。



状況を変えるため、AppleはLGのOLEDディスプレイ開発に27億ドル(約3000億円)の投資を行っています。また、同様の理由から、GoogleもLGに対して8億8000万ドル(約990億円)以上の投資を行っていると報じられています。



しかし、2019年までにLGがAppleにOLEDの供給を行うのは難しいとみられています。



一方で、AppleとSamsungは2010年から7年にわたって泥沼の法廷闘争を行っており、最終的に「Samsungの端末がiPhoneを模倣した」ということでAppleが勝訴し、Samsungは裁判所に140億円以上の支払いを求められました。しかし、他方でAppleはiPhone製造のためSamsungに対して大金を支払い続けなければならないという、不思議な関係になっているわけです。



つまり、AppleはSamsungに賠償金を求めながらもSamsungに依存しており、Samsungの成長の一端はAppleが担っているという、複雑な状況。iPhone Xは、そんなAppleとSamsungのこじれた関係を象徴する端末になるわけです。