今季リーグ戦初出場の武田が安定したプレーで勝利に貢献した。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 [J2リーグ34節]名古屋4-1東京V/9月24日/パロ瑞穂

 予感は、何となくあった。J2リーグ34節の東京V戦、ゴールマウスで名古屋の最後の砦としてピッチに立ったのは、楢崎正剛ではなく、渋谷飛翔でもなく、“第3の男”武田洋平だった。
 
 彼がスタメン起用されたのはもちろん、水曜日の天皇杯・C大阪戦での好パフォーマンスあってのこと。1失点は喫したものの、それ以外ではセービング、ポゼッションともに安定しており、楢崎と渋谷の長所を併せ持つトータルバランスの良さがチームにマッチした感は確かにあった。
 
 だが、それよりも予感を漂わせたのは、普段は飄々として掴みどころのない背番号16が放った、すさまじい気合い故だった。
 
 名古屋は試合前、必ず2日間の非公開練習を行なう。我々報道陣には1日目の非公開練習時のみ、監督会見と選手への取材だけが許されている。練習を見ることはできず、その間はプレスルームで待機だ。
 
 東京V戦を前にした金曜日、いつものように待機しているその部屋には、何事かを指示するけたたましい声が漏れ聞こえてきていた。決してピッチに隣接しているわけではない、ドアや窓が締め切られた部屋にも伝わってくるほどの気迫あふれるコーチングの声。内容は聞き取れないが、それは間違いなく、武田の声だった。
 
「必死でやっていただけですよ」と東京V戦後に武田は苦笑した。その日は話を聞かなかったのだが、少しだけ表情はうかがった。正直な彼の顔には、「いま話を聞かれると困る」と書いてあった。そのまま2日目の非公開練習でも武田は十分なアピールに成功し、守護神として日曜日の試合に出場した。そして、チームを勝利に導く活躍を見せたのである。
 
 見せ場は後半にあった。G・シャビエルのセットプレーからワシントン、田口泰士と順調に加点し、2-0で試合を折り返したが、サイド攻撃に狙いを絞った相手に押し込まれ、55分にクロスから失点。サッカーで最も怖い2-0からの2-1という嫌な流れが名古屋を飲み込みそうになったが、武田が踏みとどまった。
 失点に先立つこと3分前にもコーナーキックからのアラン・ピニェイロのヘディングシュートを好セーブし、カルロス・マルティネスの追撃にも事なきを得ていたが、64分にはさらなる決定機にも立ちはだかる。
 
 ゴールほぼ正面からのマルティネスの直接FKが壁に当たってコースが変わったところに、落ち着いてステップを踏んでリフレクション。このふたつのビッグセーブがなければ、試合は東京Vのものになっていたかもしれない。まさに、勝負の分かれ目だった。
 
 だが本人からすれば、それは大した問題ではないという。
 
「自分の感覚では別に、あのあたりのプレーは止めなアカンところですから。点を取ってくれていたから良かったですけど、それよりあの1失点をどう防ぐかです。次の試合だって1点で決まる可能性もある」
 
 GKはチームで唯一の直接ゴールを奪われる選手である。失点の感じ方は誰よりも他人事ならぬ“自分事”だ。だから失点を防ぐためにあらゆる策を講じるし、自分をストイックに追い込みもする。何より失点していると勝っても気分が悪い。負けていても自分がゴールして試合も勝てば、終わり良ければにもなるFWとはまるで正反対だ。
 
 センターバックの櫛引一紀とは「最悪失点しても、重ねなければいける」とハーフタイムに確認し、心構えはしていた。それでもいざ失点すると、「重く捉え過ぎて固くなっている自分がいた」。武田はそこに自身で最大の反省点を見出す。それは普段から尊敬してやまない、楢崎がとる試合中の態度、立ち居振る舞いに他ならない。
 
 武田の好セーブによって落ち着き取り戻したチームはそこからさらに2点を追加し、4-1の快勝を得た。ボランチふたりと、センターバック、サイドバックによる得点経過は、名古屋がどれだけ相手を押し込んで試合を展開したかの証左ともいえるもの。それを支えたのは間違いなく、守備を安定させた後方の奮戦だった。その最後尾で仁王立ちした190センチのGKは、「まだまだ、自分の感覚としては全然良くないですね」と顔をしかめる。本当にそう思っているのだ。
 
 結果を出したGKをすぐに変えるチームはそうはない。次節の第1候補は武田で申し分ないだろう。だが、彼はまったく安心していない。「あのやられたところを改善しないと、勝てない」。その危機感は攻撃特化型のチームにとってはむしろありがたい限りだ。ここにきて急浮上してきた武田洋平という実力派のプレーは、次節も名古屋を救ってくれそうである。

取材・文:今井雄一朗(フリーライター)