胸のエンブレムを叩き、自身の存在とチームの強さを誇示したモラタ。その存在感は、とてもプレミア挑戦1年目とは思えないものだ。 (C) Getty Images

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「他チームに強烈なメッセージを発信できた」。
 
 チェルシーがストークを4-0で下した現地時間9月23日に行なわれたプレミアリーグ6節後のヒーローインタビューで、アルバロ・モラタはそう語った。
 
 今夏の移籍市場でレアル・マドリーから加わったモラタが、移籍後初のハットトリックを達成した一戦。その発言は、優勝争いにおけるチームの存在アピールのみならず、指揮官のアントニオ・コンテに対するメッセージとも言える。昨シーズンまでのエース、ジエゴ・コスタが「もはや過去の存在」という意味で、だ。
 
 監督と選手の絶対的上下関係の拗れから構想外と決めたD・コスタに関する質問に、コンテはプレシーズン中から苛立っていた。ジョークで笑い飛ばした時期もあったが、最終的には、「話すことなど何もない」として事実上のノーコメントで押し通すようになった。
 
 そんな中、開幕前哨戦にあたるコミュニティーシールドとプレミアリーグ5節で、フィジカル戦を苦手とするアーセナルを相手に1分け1敗に終わり、良くも悪くもD・コスタの特徴だった「アグレッシブさ」が足らないと獲得にクラブ史上最高額(6500万ユーロ=約83億円)を要したモラタは、批判の矢面に立たされた。
 
 そのモラタが、相手のCBが駒不足だったとはいえ、心身両面で最もタフとも言われる「アウェーのストーク戦」で気を吐いたのだ。奇しくも、チェルシーでは3年前のD・コスタ以来となるプレミアでのハットトリック。それは昨シーズンまでの主砲とは対照的な特長の成せる業でもあった。
 
 D・コスタは正対したり、背を向けたりした相手DFを力でねじ伏せるタイプだった。これに対してモラタは、さりげなく敵のマークから逃れてチャンスに絡み、人知れず相手SBとCBや、CBの間に入り込んでゴール前に出てくるのが特徴だ。
 
 その好例は、ストーク戦で決めた1点目と3点目にある。右足インサイドで流し込んだ1点目と、つま先で押し込んだ3点目は、いずれもペナルティーエリア内で簡単に決めた印象があるかもしれないが、敵の守備をクレバーに掻い潜り、ゴールを取るためにいるべき所に動いていたからこその、見事なフィニッシュだった。
 
 また、両ゴールを演出した同郷のセサル・アスピリクエタとは、新ホットライン形成の予感もある。3節のエバートン戦(〇2-0)と4節レスター戦(〇2-1)では、アスピリクエタのクロスにドンピシャのタイミングで走り込んだモラタが頭で1点ずつを決めてもいる。
 プレミアリーグでのゴール数を6に伸ばした今節のハットトリックは、まさに絶好のタイミングだったと言える。というのも、チェルシーは試合の前々日に、D・コスタの売却でアトレティコ・マドリーと合意に至ったばかりだったからだ。
 
 指揮官に使う意思のない選手を、3200万ポンド(約48億円)だった購入額の2倍近い5800万ポンド(約87億円)で売れる美味しい商談ではあった。しかし、もしストーク戦でモラタが存在感を欠いて勝点を落としていたら、改めて「主砲D・コスタの不在」がサポーターやメディアの間で騒がれたことだろう。
 
 ストーク戦の前日会見でD・コスタに関して、「クラブへの貢献に感謝して、今後の幸運を祈る」と発言するも、そう語る表情が冷めていたコンテにすれば、考えただけでも嫌気が差す状況に陥りかねなかった。
 
 その指揮官が「彼は礼儀正しい」と、D・コスタへの当て擦りとも受け取れる人物評まで口にして讃えたモラタが、難敵ストークから挙げた大勝の立役者となったわけだ。チェルシーにとってこれ以上のシナリオはないだろう。
 
 実際、英国メディアはモラタを絶賛している。国営放送『BBC』の実況解説者は、1ゴール目が決まった瞬間に、「D・コスタなど必要なし!」と叫び、モラタがマン・オブ・ザ・マッチに輝いた一戦を伝えた『メール・オン・サンデー』紙のレポートには、「D・ジエゴは不要」という見出しが飾られた。
 
 コンテ体制2年目を迎えたチェルシーに新たに加わった「優等生」風の新エースは、不穏な空気を一掃するハットトリックを決め、「問題児」だった前エースの亡霊を過去に葬り去ったのだ。
 
文:山中忍
 
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。