尻に火がついた、とは言わないまでも、尻のあたりが徐々にくすぶり始めているのは確かだろう。J1復帰1年目の清水エスパルスが目標のJ1残留へ向け、”産みの苦しみ”を味わっている。

 前節(第26節)終了時点で13位の清水は、第27節で同15位のサンフレッチェ広島とホームで対戦。順位では上に立つ清水だが、最近5試合(第22〜26節)の成績は、2勝1敗2分けの広島に対し、清水は1勝4敗。勢いという点では、明らかに広島に分があった。

 監督交代により現実的な戦い方に舵を切った広島は、堅守速攻の形が数字にも表れており、最近5試合の総失点はわずかに2。総得点も3と少ないが、粘り強く守って少ないチャンスを生かす戦い方が功を奏している様子がうかがえる。

 その一方で、清水は守備が安定せず、最近5試合で総失点は実に11。敗れた4試合はすべて複数失点を喫している。これだけ失点がかさむと、勝つどころか、引き分けて勝ち点1を確保するのも難しい。

 はたして対照的な戦いぶりを見せる両者の対戦は、このところの勢いを鮮明に映し出す結果となった。

 先制したのは広島。試合開始から間もない6分、右CKからDF水本裕貴のヘディングシュートがきれいに決まってリードを奪った。

 だが、その後の試合は、概(おおむ)ね清水が主導権を握っていたと言ってもいい。前半はボールを保持する時間こそ広島が長かったが、効果的な攻撃でゴールに迫る回数では清水が上回っており、後半に入ってからは清水が広島を圧倒していた。

 特に後半65分を過ぎたあたりからは左右にボールを散らし、怒涛の連続攻撃。サイドへのスライドが間に合わない広島ディフェンスは、中央を固め、入ってくるボールをどうにかはね返すしかなかった。

 そして生まれた同点ゴール。相手のクリアを拾ったFW北川航也が右サイドから上げたクロスを、ゴール前で待つFW鄭大世(チョン・テセ)が相手DFの前に体をねじ込み、頭で押し込んだ。


清水にとって、得点源の鄭大世が復帰したのは大きいが...

 試合展開を考えれば、これで試合の流れは完全に清水である。

 ところが、清水は2点目を奪えないばかりか、ロスタイムの91分にカウンターからFWパトリックに決められ、広島に勝ち越しを許すと、同96分にも再びカウンターから失点し、万事休す。終わってみれば、1-3。またしても複数失点を喫しての敗戦だった。

「前半途中からいい攻撃をしつつ、(交代の)カードを切りながら点が取れたが、そこからもっと守備的に、というところが出せたらよかったのかもしれないが……」

 そう語る清水の小林伸二監督は、顔にはうっすらと笑みも浮かび、穏やかな表情ながら、話す言葉は歯切れが悪い。同点に追いつき、そこからどう試合を進めるべきだったのか。そんな悔恨(かいこん)が少なからずうかがえる。指揮官が続ける。

「(急いで前へボールを運ばず)ボランチのところから落ち着いてボールを動かせと指示した。一発のパスを選ぶより、もう少し丁寧にボールを動かしながら(じっくり攻める)ということが、最後(の時間帯で)できなかったのだろうか、というところを残念に思う」

 小林監督にしてみれば、もちろん勝ち越しは狙うが、最悪でも勝ち点1の確保が頭の中にあっただろう。同点に追いついてからも、4バックのうち攻撃意識の強い左サイドバックのDF松原后が出ていくのはいいとして、残る3人のDF+2ボランチの5人は後方待機を指示した。実際、清水がボールを奪って速い攻撃を仕掛けるときに、勢い込んでボランチが上がっていこうとするのを、小林監督はタッチラインギリギリまで飛び出して制していた。

 決して悪い判断ではなかったと思う。クラブが置かれている現状を考えれば、冷静かつ賢明な判断だったと言っていい。

 だが、結果として、何が何でも2点目を取りたい前の5人と、バランスを保ちながら攻めたい後ろの5人との意識の乖離(かいり)が、ピッチ上に広大なスペースを生んだ。同点に追いつかれた直後、交代で出場した広島のMF森粼和幸が「入ってすぐ、前方にかなりスペースがあることがわかったので、(ボランチの)自分たちのところでセカンドボールが拾えれば、カウンターのチャンスがあると思った」と振り返るとおりだ。

 それでも、同点ゴールを奪った勢いのままに攻め切ることができれば、穴が露呈することもなかっただろう。だが、「左サイドは積極的に上がっていたので仕方ないが、残念だったのはそこで2回イージーミスが出てカウンターを食らったこと」と小林監督。自滅に近い形でボールを失ったのでは、広島のカウンターを防ぐのは難しかった。

 結局、清水は逆転して勝ち点3を手にするどころか、引き分けて勝ち点1を拾うことさえできなかった。敗れた清水は順位こそ前節終了時と同じ13位をキープしたが、勝ち点は28のままで15位の広島との勝ち点差はわずか2に。同じ日、横浜F・マリノスを3-2で下した16位のヴァンフォーレ甲府との勝ち点差も4まで縮まってしまった。

 まだ記憶に新しい一昨季、J2降格の憂き目を見た清水にとっては、もはや落ち着いて構えてはいられない状況かもしれない。

 とはいえ、この試合に関して言えば、内容的には決して悲観するようなものでなかったことは間違いない。

 特に後半の攻撃には迫力があり、実際、何本も際どいクロスがゴール前に入っていた。広島DFは余裕を持ってクリアすることもできず、かろうじてボールに触ることしかできていなかった。セカンドボールの落下地点が1m違っていたら……。そんなシーンは何度もあった。

 そして何よりの光明は、小林監督が「テセはぶっつけだったが、点を取った。チアゴは頭からいけた。少しずつ(ケガをしていた)選手は戻っている」と話したように、FWチアゴ・アウベスと鄭大世が復帰したことである。

 チアゴ・アウベスは第16節、鄭大世は第19節での出場を最後に、ともにケガにより戦列を離れていたが、勝負のリーグ戦終盤を前に頼もしい2トップがようやく帰ってきた。

 69分からの途中出場ながらゴールを決めた鄭大世はもちろん、前節途中出場でひと足早く復帰したチアゴ・アウベスにしても、この試合では先発して75分までプレー。ゴールはなかったが、多くのチャンスを作り出しており、存在感は際立っていた。

 小林監督は「テセが点を取ったことで、選手たちは少し(点を取れない)ストレスから解放されたのではないか」と話していたが、チャンスは作れているだけに、優れたフィニッシャーが戻ってきてくれたことは、第21節(3-2セレッソ大阪)を最後に2点以上得点できていないチームにとっては心強い限りだろう。このところ苦しい戦いが続いている清水だが、ようやく本来の戦闘態勢が整いつつある。

 残り7試合で降格圏と勝ち点4差は、もちろんセーフティーリードとは言えないが、決して小さくはない差である。客観的に見て、慌てるような状況ではない。だからこそ、鄭大世はこう語る。

「今の自分たちの使命は、勝敗に一喜一憂せず、勝ち点を積み重ねること」

 この試合にしても、勝負は紙一重。確かに勝ち点1も取れなかったショックはあるだろうが、この負けを引きずることのほうが、ここで勝ち点を逃したことよりずっと怖い。次節(第28節)は、現在17位と降格圏に沈む大宮アルディージャ。大一番であるのは間違いないが、自分たちはまだまだ降格を恐れるような状況にはないのだと、いい意味で”危機感を持たない”ことが大切だろう。小林監督は言う。

「(降格圏との勝ち点差が)詰まってくるが、前を向いてチャレンジしたい。どのチームも1勝するのに苦労している。ちょっとした油断で(結果が)ひっくり返ってしまう。技術だけでなく、メンタル的にたくましく戦えば、今日のような試合でも勝ち点が取れる」

 残り7試合。他クラブのことは気にせず、自分たちが勝ち点を積み重ねることだけに集中できるかどうか。

 怖いのは、一昨季のトラウマ。「降格」の二文字に怯(おび)えてしまうことだけである。

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