「うわっまぶしいっ!ナニコレ!?」
 ノートPCのバッテリーが「残量あとちょっとッス」と警告しはじめ、新幹線車内でカタカタ打つのを止めようと、車窓に目をやって驚いた。
 黄金色のふさふさ稲田と秋空。
 1時間前、関東平野から谷川岳へと向けて駆け上がってきたこの上越新幹線「Maxとき」の車内からは、モリモリとした緑が見えていた。
 上越国境を越え、アヒル顔の二階建て新幹線・E4系は下りへと転じ、長岡の街へと一気に駆け下りるころ、車窓に映る景色は、まさに収穫の秋だった。
 凍り付いたように動かなくなったレインボータワーを左手にみると、アヒルは速度をゆるめて終着駅へ。
 新潟――。駅前からバンバン発着する新潟交通バスにお世話になれば、わずか10分ほどで着く出張先だったが、駅前のレンタサイクルに頼ることに。

ヌッタリ…北越鉄道の終着駅を想う

「駅から北、港の方向へ、だよな」
などと独り言を発しながら、ペダルを踏む。途中、妙なレールに出会えば、チャリを止め、ジロジロ、ウロウロ…。
 この自由度が、チャリの醍醐味。
「す、す、すげえええ。これか!」
 沼垂白山という交差点の先に、1条の朽ち錆びたレールが延びている。
「これが、かつての信越線の軌道!」
 モーレツな残暑と興奮で、思わず叫ぶ。レールの先、新潟港方面を見つめ、かつて存在した沼垂駅を妄想する。
 明治期の北越鉄道時代、信越線の終着駅は、この沼垂駅だった。このレールは、のちに旅客線から貨物線へと役目を変え、ついには列車の往来がなくなって、いまに至っている。
 中年男に許された勝手な妄想時間は、わずか。世の中そんなに甘くない。
 現実に戻り、出張先までチャリを急ぎ走らせるが、困ったことに、またも想定外の線路に出会ってしまう。
 しかも、レール踏面に鈍い光!
 踏切から、線路脇の信号機を見つめると、なんと青じゃないかあああ!
「ナニナニ! 何が来るんだよ!?」
 線路脇で畑仕事中のおばちゃん。
「北越製紙に行くやつだよ」
 現在の北越紀州製紙新潟工場へと続く、信越線の支線(貨物線)だった。
「(午後)3時、4時と走ってるよ」
 仕事を(ちゃんと)終え、足早に貨物線へ戻る。北越紀州製紙の煙突から、
もくもくと白いけむりがのぼっている。

ヤケジマ…製紙業のチカラを感じる

 思いっきり稼動している。製紙業低迷といわれるなか、確かな勢い。
 焼島駅――。小さな詰め所とヤードを抱える貨物駅で、そこでの光景に、圧倒され、またもポカーン。
 DE10形ディーゼル機関車に牽かれたコンテナ列車が、スルスルと工場内から出てくるじゃないか!
 30度を超える夕暮れどき、機関士と、駅構内の踏切を守る駅員と、コンテナ車を操る職員が、無線でやりとりしながら、製紙工場からの荷物を送り出そうとしている姿に直面した。
 工場のけむり、DE10のニオイ、操る人の汗、コンテナ車の足音…。
 きょうのラン鉄で出会った衝撃を余韻に、エキナカの居酒屋で、乾杯。日本海名物と唄う「ハチメ刺身」は売れ切れ。ホウボウの刺身とビールをやりながら、スマホで北越紀州製紙の生い立ちなどをパラパラと見てると…。
「越後平野に実った『稲わら』を原料とし、信濃川の豊富な『水』の恵みを利用して、板紙の製造をスタート」
 この越後平野の製紙業は、行きの新幹線で見た、黄金色の稲田のわらで繁栄の途を築いたのか!
 帰りの新幹線車内、まだ興奮覚めやまぬ中年男ひとり。上越国境の暗闇を走り抜けた列車の窓には、関東平野の灯りがキラキラと映る。
 車窓の手前にビールの空き缶が転がるあたりが、相変わらず野暮で。

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2013年11月号に掲載された第17回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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