法律の専門家である弁護士が、私たちの暮らしに身近な事象についてわかりやすく解説します。今回のテーマは「道を間違えた分のタクシー運賃は返金されるのか」、取材に応じてくれたのは、アディーレ法律事務所の正木裕美弁護士です。

「先日、タクシーに乗ったら運転手さんが道を間違えたらしく、いつもより高額な運賃を請求されてしまいました。急いでいたので、メモを取るのも面倒でその場は請求された通りに払ってしまいましたが、思い出すと悔しいです。本当は払わなくてよかったですよね。差額分は返してもらえますか」

タクシーに乗ることを法的に見ると…

Q.運転手が道を間違えても、運賃を払わなくてはいけないのでしょうか。

正木さん「タクシー料金は、運賃料金メーターの表示額によるのが原則です。国土交通省が定める標準約款でもそのように定められています。しかし、運転手が道を間違えて通常より高額になった場合、メーター通りのお金を払うのは納得がいきません。この時は差額を返してもらえる可能性があります。まず『タクシーに乗る』ことを法的に見ると、客がタクシーに乗って目的地を告げ、運転手がそれを了承した時点で旅客運送契約が成立すると考えられます。そして、乗客が『不要な遠回りをしないでね』と運転手に告げなくても、運転手は目的地まで合理的なルートを通って客を安全に運ぶ義務を、乗客はそれに対して運賃を払う義務を負うという関係が生じます。つまり、運転手が明らかに道を間違えて、合理的でないルートを通ったせいで料金が高くなった場合、その分の料金まで払う義務はないと言えるでしょう」

Q.例外はあるのでしょうか。

正木さん「はい。いつもより高額だからといって常に返金してもらえるとは限りません。通常のルートとは違っても、事故や渋滞といった交通事情によっては、遠回りに合理的な理由がある可能性もあります。その場合、通常より高額な料金でも支払わなければならないと考えられます」

タクシーの遅れで損害が発生した場合

Q.タクシーが遅れたせいで損害が出た場合は。

正木さん「たとえば、タクシーが遅れたせいで大事な仕事に間に合わず、取引がご破産になったなどの場合、タクシーの遅れで発生した損害も請求したいと思うかもしれません。しかし、遠回りしたせいで仕事に遅刻したとしても、遅れなければ取引がほぼ間違いなく成立し、利益も間違いなく出たと証明でき、さらに、運転手がそれを認識していれば請求できる可能性はありますが現実的には困難でしょう。大切な仕事がある時は余裕を持って行動すべきです」

Q.ちなみに「値引き交渉」が違法というのは本当ですか。

正木さん「タクシー料金は安く済ませたいものですが、やってしまいがちなタクシーの値引き交渉は、実は違法です。タクシー運賃は、タクシー会社が国土交通大臣の認可を受けなければなりません。認可は、適正なコストなどを査定して国が行うもので、認可以外のお金をもらうのはもちろん、メーターを途中で止めたり、値下げ交渉をして、認可を受けた運賃をもらわなかったりすることは道路運送法違反です。値引き交渉をして認可とは違う運賃を受け取った運転手は100万円以下の罰金。このような行為は、タクシー事業の運賃、料金の認可制度を根底から覆す行為として厳しく対応されており、タクシー会社は行政処分を受けることがあります。値引きは一切ダメと覚えておきましょう」

Q.今回のケースでまとめをお願いします。

正木さん「よく利用するタクシーですが、意外と知らないことも多いですね。トラブルにならないように、希望があれば運転手さんに直接伝える、すべてを運転手任せにしない、疑問に思ったら放っておかず、その場できちんと確認する、といったことが大切です」

(オトナンサー編集部)