安倍首相は、消費税についてどう説明するのか(2014年の衆院選挙で、撮影:尾形文繁)

9月16日あたりから「安倍晋三政権が10月の臨時国会会期中に衆議院の解散総選挙に踏み切る」との観測報道一色になった感がある。

19日の自民党の役員連絡会で、二階俊博幹事長は「(首相からは)早期解散を検討しているが、時期は国連総会から帰国してから決めるのでよろしくお願いしたいという発言があった」と述べた、と報じられている。

9月の株高は米国株高やドル高円安が主因


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「解散総選挙は、2018年に入ってから」と予想する声が多かったところに、「2017年内の解散固まる」という結末になる見込みで、これは筆者にとってもややサプライズだった。ただいずれにせよ、「2018年末までのどこか」の選択だったわけで、「勝てる時期」を安倍首相がチョイスしたとすれば、ある意味合理的であるように見える。

現時点で最も重要な政治課題のひとつである北朝鮮情勢は緊迫化しているが、「にらみ合い」が長期化する可能性が高まっていることも、この時期での解散総選挙への決断を後押しした一因だろう。

一連の報道を受け19日に、日経平均株価は2年ぶりの高値水準をつけ大幅高となった。9月11日以降、北朝鮮リスクが当面遠のいたことなどから、ドル高円安が進み世界的な株高の追い風が吹いている中での「早期解散総選挙報道」のサプライズは、日本株の一段高をもたらした。実際、2012年以降の4度の国政選挙で安倍政権はことごとく勝利しており、選挙に踏み出した安倍政権に対して、金融市場は強い信任を抱いているのかもしれない。

ただ、自民党が勝利を収める可能性は高いと思われるが、現在の経済政策の枠組みが変わらないという観点では、選挙は大きなプラス要因とまでは言い難い。拡張的な財政政策が、脱デフレの勢いを強めることになれば良いが、その実現性については何とも言えない。また次期日銀執行部人事についても、それが判明するのは総選挙の後である。9月に入ってからの米国株高やドル高転換によって、最近の株高はほとんど説明できると認識している。日本株の行方は、引き続き海外情勢次第だろう。

なお、9月21日の日本銀行の政策決定会合から登場した片岡剛士審議委員は、「金融緩和が足りない」という理由で反対票を投じた。日銀による金融緩和政策が長期化する期待が改めて強まった。一方、先週FRBはバランスシート縮小開始を開始、そして年内に再び利上げする姿勢が全く変わっていないことが示された。日米の金融政策のスタンスの差は明確になっている。今後、仮に北朝鮮やトランプ政権に起因するリスク後退が続けば、2014年の秋口(日銀のQQE2+FRBのテーパリング決定)と時と同様に、ドル高円安が進みやすい環境になりつつある。

さて衆議院総選挙がある前提で、与野党の論戦はどうなるか。まずは国民を納得させる経済・外交政策を打ち出すことに失敗してきた野党が、次期政権として信任が得られる展開を、筆者には想像できない。前回のコラム「『前原民進党』の経済政策に期待できない理由」も含め、金融緩和批判など説得力がない主張に終始する民進党が、真っ当な経済政策を提示できていないことについては、繰り返し述べてきた。この状況は、現時点で変わりそうにもない。よってこれまでの国政選挙同様、「消去法的に」与党が勝利する可能性が高い。

与党が勝つとして、経済政策の中身は「官邸」筋から

これまでの報道を踏まえると、(1)北朝鮮への圧力強化、(2)憲法への自衛隊明記、(3)「全世代型」社会保障の導入、などが選挙の争点となる見込みである。これらについて、前原代表率いる民進党が自民党と対峙し、かつ国民を説得できる選択肢を提示できるのだろうか。前原民進党は、(1)、(2)について自民党の公約に対してどのように「対峙」していくのだろうか?

(3)の社会保障制度の拡充については、一部の経済メディアから、社会保障拡充と消費増税分の使い道をセットにする、という「政府関係者」が情報ソースとなっている観測記事が報じられている。

ただ、2016年半ばの拡張財政政策が決まる前の観測報道などが記憶に新しいが、霞が関が主たる情報源となるこれらの観測は、安倍政権が実際に打ち出す経済政策の予想には、あまり役に立たないというが実情である。現時点では、官邸からの発表や発言から、今後の経済政策を判断するのがベターと筆者は認識している。

安倍首相の発言などから明らかになっている、今後の経済政策の考え方は、(a)「全世代型」へと社会保障制度を見直し(具体的には幼児教育無償化には教育国債発行などの財源手当を検討)、(b)消費増税については予定どおりの実施を考えている、という点である。

「基本は消費増税でも経済状況次第で延期」がホンネか

一方で(a)と(b)を結びつける発言は、現状では匿名ソースの観測報道でしか指摘されていないように思われる。なお、19日に行われた菅義偉官房長官の定例記者会見では、「消費増税分の使い道」を見直す点について質問を受けた際、「見直すも見直さないも、まだ何も決めていません」と述べている。

またこれに関して、政府がプライマリーバランス(利払いを除いた基礎的収支)の黒字化目標を、2020年から2020年代に先送りするという複数の報道がある。これらについても信ぴょう性は定かではないが、もともと内閣府が示す最新の中期財政計画では2020年の財政赤字が想定されており、それを追随するというだけにすぎない。6月19日コラム「安倍政権は再び財政拡大策に踏み切るか」でも述べたが、安倍首相は「日銀保有の国債無効化」を唱えるジョセフ・スティグリッツ教授の意見を理解しているとみられ、さらに債務残高GDP比率を新たな目標として掲げたことを紹介した。もともと、2020年までにプライマリーバランスを黒字化することは経済的にはまったく意味がないのだから、経済情勢に応じて財政政策を柔軟に運営する意思を安倍政権が持っていることは、すでに想定されていることである。

なお、経済財政諮問会議の民間議員をつとめる伊藤元重学習院大学教授は19日のインタビュー記事で、消費増税について「選挙戦の中でどういう駆け引きがあるかというのはひとつの大きな注目点」「基本的には増税路線だが、経済状況次第では延期もあるという今の立場を安倍首相は維持するだろう」と述べている(ブルームバーグより)。こちらのほうが、消費増税について安倍政権の現段階のスタンスを正確に表している、と筆者は判断している。